第15.5話 気の利かない男と使用人達
番外編は不定期更新になります。
アレックスが出掛けた後、執事のセスはメイドのキャシーとシェフのジェフを集めた。
「アレックスがこれから小柄で華奢な女の子を連れて来るから、部屋の準備と服用意しろって」
「何ですと?!今日?」
「それって、この家に泊まるってことか?」
キャシーは今すぐ支度しなければと張り切った。ジェフは「事前に言えよな!でも、あいつの彼女かあ」と、アレックスが連れて来る女の子を想像しながら仕事に戻った。
セスが花嫁誘拐を伏せてアレックスの伝言を伝えると、慌ただしくなった。アレックスは特に言及していないが、どう考えても1泊分のおもてなしは必要であろう。
キャシーは大急ぎで客間を整え服を買いに車を出した。ジェフはキッチンで食材の確認後、買い出しに出掛けた。
セスは二人がいなくなったのを確認して、掃除を始めた。指先をパチンと鳴らし、
「さてと、面倒だけどお掃除してよーっと」
とセスはその場から一切動かず、指先ひとつではたきや箒、雑巾、布巾、掃除機を操った。
*
使用人達が家の掃除や買い出しが終わったころ、眠る花嫁を抱えたアレックスが転移魔法で帰宅した。
花嫁を愛でるアレックスにセスは卒倒しそうになった。
──本当に花嫁連れて来た!式場面倒なことになってるでしょ!
「お帰りなさいませ、アレックス様。そちらが……ってか、花嫁誘拐とか。警察とか面倒なこと嫌だから、僕関与しないから」
最後を方は明らかに執事の立場を放棄して、セスがアレックスを迎えた。セスの面倒臭がりをよく理解しているアレックスは、ことの顛末を伝えた。
「大丈夫だ。この子の伯父さんに任せてある」
「新婦側親族公認なの?新郎は?参列者は?」
「安心しろ、全員ぶちのめしてきたから」
「ええと、それダメな奴じゃ……」
自信満々なアレックスの脳筋発言に、セスは今朝のアレックスのカチコミ発言を思い出した。
──カチコミって……アレも本当のことだったんだ……。
腕に抱えた花嫁を愛おしむアレックスをセスは遠い目で見るしかなかった。関わりたくないのが本心だか、花嫁のことは知らないといけない。
「アレックス様、こちらの花嫁はどなたでしょうか?」
「この子はシンシア、俺の花嫁。キレイだろ?可愛いよな。今日からずっと一緒に暮らすんだ」
──何?俺の花嫁?違うでしょ! というか、ずっとここにいるのね。
セスが脳内お花畑状態のアレックスに頭を抱えていると、キャシーが戻ってきた。
「アレックス様、そちらのお嬢様が……って何でウェディングドレスなんですか?!」
アレックスが女の子連れて来た。だか、花嫁とは聞いていない。キャシーが驚くのも当然だ。
アレックスはキャシーを聞き流して、仕事を頼んだ。
「キャシー、着替え任せたよ。早くこんなにドレス脱がせたいから。俺以外の男が用意したドレスなんて」
「はい」
キャシーは花嫁を寝たままの状態で受け取った。花嫁を見たキャシーは目を見開き、驚愕した。キャシーは何かアレックスに言おうとしたが、「かしこまりました」と客間に向かった。
今度は買い出しと仕込みをある程度済ませたジェフが来た。
「アレックス、ディナー準備するけど、彼女アレルギーある?好きな物は?」
「ディナー?そんなの頼んでないぞ。アレルギーは無いと思う」
アレックスはきょとんとジェフに聞き返した。
「なあ、アレックス。部屋と服用意って、泊めるってことだよな?なら、夕飯はご馳走用意するよな?」
言葉の足りないアレックスの意図を汲んだつもりだったが、違うらしい。
「食事はいつも通りでいいんだぞ。むしろ質素じゃないと、萎縮して全力で遠慮して食べないかも」
「質素って訳にいかないだろ?こっちはフルコースのつもりで仕込みやってるんだ」
料理人としては料理でもてなしたいジェフ。両者の主張がぶつかる。
「フルコース?前菜だけでお腹いっぱいって言い出しかねないぞ。メインまでいかないぞ。そもそもナイフとフォーク使ったことあるかな?」
前世の記憶でしかないが、フルコースの様なテーブルマナーの必要な食事は無かった。
ジェフはアレックスのナイフとフォーク発言で、想定していたメニューが崩れていった。
「お前の連れて来た子は普段何食べてんだ?」
ジェフは今までの会話の流れで、本気で気になった。
「昔は山で狩った獣。兎、猪、熊とか鹿とか山鳥。あとは山のキノコと木の実と野草。そうそう、オートミールはよく食べた」
「スーパーにそんな肉売ってねーって。ディナーでオートミールも買わねーから!」
田舎の山育ちの女の子だと判明した。ジェフはアレックスの言うとおり、豪華なディナーは諦めた。
「肉は豚がいいか?猪と似てるし……シンプルに焼いて肉と油の旨味で……野菜も蒸すだけがいいか……味付けは……スープは……」
ジェフはブツブツと今日のメニューを呟きながら、キッチンへ戻った。
ジェフと入れ違いでキャシーがまたやって来た。
「アレックス様!小柄な女の子って、こんな小さいとは想定外です。用意した服が合わないじゃないですか!買い直してきます!」
キャシーの想定していた女の子は155 cm位の子。実際に来たのは145 cm無さそうな子。ブカブカ過ぎる服は可哀想だ。キャシーはアレックスに文句を言い終えると、また買い物へ出掛けた。
「何であんな慌ただしくしてんだ?」
バタバタしているジェフとキャシーにアレックスがポロッと呟いた。
「客をもてなすのは当たり前。部屋と服を用意しろは、客が1泊はすると思うよ」
「そうか?」
「気の利かない男だとは思なかった」
アレックスに頭を抱えるセスであった。
*
シンシアが目を覚ますことがなかったので、質素な夕飯をみんなで済ませた。それから、風呂上がりのアレックスを捕まえて、リビングルームで詰め寄った。
「アレックス様。伺いたいことが山程あるのでお答え頂きます。あのお嬢様との関係は?何日滞在予定で?我々はあのお嬢様をどうすれば?あとご主人様、アレックス様の父上にお嬢様のことは言ってますか?」
執事の顔に戻ったセスが質問攻めした。アレックスはあっけらかんと答えた。
「あの子は、シンシアは俺の花嫁に俺の妻になる人だから。親父には後で電話しとく。シシィは客じゃなくて俺の家族だから。そのつもりで。身寄りの無い子だから、とりあえずこの家に」
「アレックスとシンシアちゃんだっけ?は付き合ってんの?嫁って、まだ結婚できる歳じゃないだろ?」
ジェフが素朴な疑問をぶつけた。アレックスは露骨に不機嫌になり、自虐的に話した。
「ああそうだよ。告白だって、結婚の話しも何もしてねぇよ。何ならこの家に来ることも伝えてないし」
更に言えば、シンシアはアレックスのことを殆ど理解していない。
「シンシアお嬢様におじがいると聞きましたが、そちらに引き取ってもらえないのですか?」
昼間、シンシアにはおじがいると話していたとセスは思い出した。
「義伯父さん?連絡出来ないし、何処いるか知らないし、あの義伯父さんとこはダメだ。やっと捕まえたんだ、俺の側にいて欲しいんだよ」
おじとは顔を知っている程度だなとセスは思い、どんなの経緯で知ったのか気になり出したが訊かないことにした。早く解放されたいから。
「花嫁衣装の訳は?」
次にキャシーも質問した。
「結婚式場から攫ってきた」
「はあ?」
「やっぱり」
「まあ!シンシアお嬢様にとって望まぬ結婚だったのですね。正に愛の逃避行!」
「そんな感じだ」
アレックスは詳細は伏せて、結婚式場での顛末を伝えた。アレックスが、シンシアは14、5歳で、この国の言葉が話せないこと、教育を充分に受けさせもらえていないこと、人付き合いが苦手な性格など伝え、解散となった。
*
解散後キャシーはアレックスを捕まえ、あの場で訊かなかったことを改めて問いただした。
「アレックス様、シンシアお嬢様についてよろしいですが?」
「何だ?」
「シンシアお嬢様は虐待されていた事実はございますか?」
女性が横抱きで運べる体重。病的な痩躯。髪も肌も爪も年頃の女の子にしては、張りも艶も無い。しかも、背中の左側、腰の位置にある傷痕。
「……育児放棄は虐待の一種だよな……」
「やはり。なんとお労しや、シンシアお嬢様」
「あんま同情とかしないで、普通に接してくれ。これからは、普通の生活をさせたいんだ。じゃ俺寝るからな」
「はい、おやすみなさいませ。アレックス様」
アレックスを見送ったキャシーは、シンシアに尽くす使命に燃えていた。




