第15話 あの日の約束
水晶の中に閉じ込もった花嫁がいる。
アレックスは元の姿になりながら呼びかけた。
「ドレスを着てると本物のお姫様みたいだな」
一歩ずつ少女の元へ近づく。無数の結晶の刃が上から襲いかかる。
「俺を拒むのか?嫌なのか?」
直撃を避けながら進む。少女に伝わるように、前世の言葉で。
「俺の声は聞こえるか?」
頬や肩を刻まれるが止まることなく進み、少女の機嫌を取るように優しく呼びかける。
「ガキの時、初めて森の中で見つけた時もそん中にいたな。綺麗で神秘的で幻想的で絵本で見たお姫様が本当にいたんだって、多分、一目惚れしたんだと思う。それから毎日通い詰めて、毎日話しかけたぞ。家族のこと学校のこと友達のこと勉強したこと何して遊んでいたかとか、くだらない内容ばかりだけどな」
アレックスは今までのことを語り出した。
「初めて会った時から、泣いていたな。泣き虫で、俺が強くしてあげないとな、とか思ってたけどな。少し背が伸びたか?髪は伸びたな。真っ赤な髪がキレイだよ。あの薔薇の髪留めは気に入ってくれた?赤い髪に白い薔薇がよく似合うよ」
上から落ちてくる刃が頬を肩を体を切り裂く。キュリウスがアレックスを刃から守るように飛び回っている。
「よく一緒に狩りに行ってたよな。弓を構えている時、集中して周り気がつかないよな。その姿にたまに見蕩れてたりしてたんだ」
アレックスが前世からの想いを伝える。
花嫁はアレックスに気がつかない。更に拒絶の意思を示す。そしてアレックスの心臓目掛け、結晶の刃を向けた。
「貴女に胸を貫かれるなら本望だよ、シンシア」
アレックスは笑顔で告げた。
結晶の中の花嫁がピクッと反応し、刃がすんでのところで消えた。
*
結晶の中に閉じ篭もった花嫁に、声が届いた。最初は辛うじて聞こえていたが、段々はっきり聞こえてきた。
──声がする…誰だろう?前に聞いた声に似ている。ずっと聞いていた声だ。いろんなこと話してくれた声だ。
誰かに会いたいと思ったとき、気づいたら森の中で…それから捕まって…この人の声を忘れていたんだ。
思い出した。私は会いたかった。会いに行きたかったんだ、このお兄さんに。迎えに来てくれたんだ。やっぱりあの時のお兄さんは今も生きている。あのお兄さんなんだ。そうだ、何か言わないと…何言えばいいのかな?そうだ、お兄さんの名前…
*
降り注ぐ結晶の刃が消えていく。アレックスは自分の声が届いていると確信した。
「悪友曰く恋だと、そう言われ腑に落ちた。俺は貴女に恋焦がれてしかないんだなって」
少女に想いを伝えたい。
「シンシア、かなり遅くなったけど、迎えに来たよ。約束と違ってまだ学生だし、今の俺は前世の俺じゃないけど、今も昔も俺の中身は変わらないよ。あの日、迎えに行って一緒に来てもらおうと思ってたんだ。ずっと会いたかったよ。ずっと探してた。これからずっと名前呼びたいから、ずっと俺の側にいて欲しいんだ」
ピキッ、ピキッ。
結晶にヒビが入って行く。
──約束守ってくれた。迎えに来てくれた。名前呼んでくれた。私、行かないと……。
もう誰も自分の名前を呼んでくれないと思っていた。何故知っているかと思うより名前で呼んでくれることが嬉しかった。だからシンシアもアレックスの名前を呼んだ。こう呼んでくれと言っていた呼び名で、自分だけが呼ぶ名前で。
「アル!」
「シンシア!」
巨大な結晶が砕け落ち、中から花嫁が飛び込んで来た。アレックスは両手を広げ花嫁姿のシンシアを受け止め、大切に抱える。
「会いたかった」
「俺も会いたかったよ」
二人は言葉を交わす代わりに抱き合った。相変わらず泣きじゃくるシンシアに、懐かしさと愛しさが湧き上がる。
アレックスは自分の泣き顔を晒したくなくて、シンシアの首筋に顔を埋めた。
どれだけ時間が過ぎただろうか、シンシアの穏やかな寝息が聞こえてきた。覗き込むと安心した安らかな寝顔があった。その顔にアレックスの顔が綻ぶ。
ずっとずっともやもやしていたお姫様への感情、自分にとってお姫様は何なのか?
声を聞いて、肌に触れ、抱きしめて、気になっていた感情に答えが見つかった。
「愛しているよ、俺の愛しい愛しい最愛のお姫様」
側で守りたい、幸せにしたい、愛おしい。この感情に愛している以外の言葉が見つからない。
「待たせてごめんね」
柔らかな日差しがヒビ割れた女神のステンドグラスから降り注ぐ。シンシアを想うと温かな気持ちになる。
アレックスは人より低いシンシアの体を温めながら転移魔法を発動させた。
「さあ一緒に帰ろう」
*
長い眠りから目を覚ましたお姫様は、悪い人に捕まってしまいました。
でもお姫様を大切にしてくれる王子様が助けに来てくれました。
王子様と出会えたお姫様の物語がここから始まります。
アレックスとシンシアが再会出来ました。
これで、前世からの念願の二人の生活が始まります。
アレックスの想いがシンシアに届くのか?こと二人を今後もよろしくお願いします。
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