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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第1章 絵本の続き
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第13話 burn out①

 「約束通り迎えにきたよ」

 アレックスは祭壇の前にいる花嫁に、デートの待ち合わせをした恋人のように呼びかけた。





 アレックスは学園の制服で身なりを整え、執事セスに爆弾発言を残し、静かに決意を固めた面持ちで家を出た。

「今日、結婚式に招待されたんでカチコミ行って花嫁連れて帰るから」

「はっ??!」

「あとキャシーに言って小柄で華奢な女の子の服用意しておいて。部屋も女の子に用に整えておいて。頼んだぞ!じゃあ、行ってくる」


 制服を着て結婚式はわかるが、花嫁を連れて帰る?カチコミ?とセスは思った。だがその疑問に答えてくれるアレックスは、すでに玄関を後にしていた。セスは不穏な発言をしたアレックスを、引きつらせた笑顔で見送るしかなかった。そして慌ただしくおもてなしの準備を始めた。




 探し求めていたお姫様との初デートの翌朝、執事セスから渡された封筒。それは結婚式の招待状であった。


 三日後の2月14日にサムソン・ターナーとお姫様が街外れの廃墟となった教会で結婚式を挙げる、と書かれていた。


 それを読んだアレックスは顔を歪めるとすぐに招待状を握り潰し灰にした。殺意が瞬間的に湧き上がる。


 ──絶対に許さねぇ!!


 アレックスは今すぐにでも怒りをぶつけたいが、舞台を用意してくれているので整った所でやることに決めた。


 そして今日、向かった先は街外れの廃墟の教会。アレックスは罠だと確信して行く。



 


 「式場はここか……」

 アレックスが壊れた煉瓦の塀越しに、廃墟の教会を見上げる。鈍よりとした冬の空が、この教会で待ち構えているであろう輩に似合うだろう。



 アレックスが教会の前室に入ると、四隅から銃弾の嵐が襲ってきた。敵の位置から射線を割り出し、銃弾を躱す。獣人のアレックスは、普通の人間よりも遙かに高い身体能力の有する。銃弾を見てから掴んで払うことも容易だ。


 最初の銃撃が止み、煙が晴れて殴り込みに来た人物が姿を現す。そこには、灼熱の熱気と凍てつく殺気を纏った黒髪の学生が無傷でいた。よく見ると彼は、普通の人間ではあり得ない鋭い牙と爪と獣の耳を持っていた。

 

 アレックスが余裕綽々に「受付終わったか?じゃあ入るぞ」と確認すると、回廊へ続く扉に隠れていた男の銃を左手で握り、右拳で殴り飛ばす。手にした銃がアレックスの放つ熱で溶けていく。


 彼の髪の色が黒から銀へ変わっていく。

「焼き尽くす………灰さえ残さず焼き尽くしてやる!」


 その場にいる者全てを震え上がらせる怒気を声に乗せ、獣が牙をむく。


 *



 獣が暴れている。 

 大切なお姫様を取り戻すため暴れている。


 アレックスはこの姿を認識される前にとっとと気絶させたい。早くお姫様の元へ行きたい。そんな事情もあり、かなり急いでいる。


 アレックスは前室に隠れていた男達を気絶させると、回廊を駆ける。多少の怪我で済む程度に、爪で切り裂き、気絶させる程度の打撃を打つ。本当は本能のままに切り裂きたい・焼き尽くしたいが、後々面倒になると理解していた。何より、あのお姫様が悲しむ。アレックスはそれを望まない。


 

 真冬なのに真夏以上に暑い回廊で、サムソンに金で集められた男が、怖じ気づく。

「銃が効かない?!」

「どこた!?」

「消えた?」

「うっぐっ……」

「あっつ」


 銃を構えれば、撃つ間もなく距離を詰められ気絶させられる。銃を撃つが避けられる、肩や頬を掠めても、直ぐに傷が塞がっていく。ナイフや素手で近接戦闘を挑むも、アレックスの放つ異常な高熱で近づけない。そもそも相手にならない。


 金で集められ男達は、武器も持たない学生がたった独りで殴り込みに来た、楽な仕事だ、他の奴に手柄が取られなど、最初は高をくくっていた。今、そんな男達が阿鼻叫喚を地獄を見ている。相手が常軌を逸脱した人間だったからだ。

 



 *


 アレックスが暴れ出した頃、花嫁は礼拝堂の祭壇前にいた。赤い髪をベールで覆い、白百合のブーケを抱え俯いていた。


 なんの飾りも刺繍もない質素な花嫁衣装を着せられた少女は、昔も今も花嫁衣装はそんなに変わらないんだねと、どこか達観して自分の状況を眺めていた。


 そんな花嫁に新郎姿のサムソンが、花嫁の心情を知ってか知らずか、上機嫌で話しかける。

「来ましたよ、彼が。どうですか?彼の前で私の花嫁になるのは?」


 少女にとってサムソンの言葉は、虫の羽音同然となっていた。


 ──あの人が何か言っている。意味はわからないけど、理解したくない。


 少女はかつて夢に見た結婚式を思い出していた。


 ──あの時見た夢の人は、昔一緒にいたお兄さんとは違ったけど、あの髪留めをくれたお兄さんとそっくりだった。


 サムソンが、花嫁と並んで誓いの言葉を並べる。少女の耳には入っていないが、サムソンは悦に入って行く。


 ──私の会いたかった人はあのお兄さんなのかな?声も仕草も表情も似ていたし、何よりあの御守りを持っていた。あのお兄さんがあのお兄さんなのかな?私が今、生きているからあのお兄さんも生きているのかな。今でもあの時の約束は続いているのかな?


 サムソンが誓いの言葉を終え、花嫁と向かい合いベールに手をかけた。

 その瞬間、


触るな!


と花嫁が渾身を裏拳でサムソンを突き飛ばした。バージンロードの中ほどまで飛ばされたサムソンは、初めての抵抗に思考が停止していた。我に返り立ち上がると、目の前の現象に戦慄いた。


 ──来るな!私が望むのはあの人だけだ!



 全てを拒絶するかの如く、巨大な氷山の様な結晶が現れた。そして花嫁はその中に閉じ篭もる。 

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