第11話 気になるあの子①
アレックスの日常の一コマ
行くあての無い少女は、結局また牢屋に戻ってしまった。
──この時代の人間でない私は、外に出る必要なんて無い。それにいつか処刑してくれる……。
少女は蹲りながら、今日渡された白い薔薇の髪留めを見つめた。
──初めて誰かからもらったもの。壊れてない、よかった……
安堵で涙が流れ、少女はそのまま眠ってしまった。
*
ここは学生寮のアレックスの自室。アレックスは初デートの翌日、学校に戻っていた。あのお姫様が何処へ行ってしまったか、気になる。しかし、今の自分は何もできないため時間を潰せる学校に来たのだった。
「アレックス?君いたの?」
「いて悪かったな」
アレックスは長年の付き合いのルームメイトにぶっきらぼうに応えた。人を寄せ付けない雰囲気のアレックスとは対照的に、親しみやすさのある男である。彼の名ははロイ、アレックスと体格が同じ長身美形な金髪の青年だ。かれこれ5年間アレックスのルームメイトでありクラスメイトである。そしてアレックスに気軽に話しかける数少ない人物である。
ロイは普段ならハーフタームは自宅へ帰っているアレックスがいて不思議に思い、先程の台詞をこぼした。
「いやあ、普段なら君、この期間学校いないじゃん」
「制服取りに来たんだよ」
「制服?必要なの?」
「ああ。招待状貰ったからには正装しないとな。それに俺の制服は火属性耐性上限レベルだし耐熱性もある。この制服なら物理防御も多少あるからな」
単語は解る、が招待状と耐性の関係性が意味不明である。
「どゆこと?」
「お前には関係ない!」
「ああ、そう」
アレックスは当たり障りの無いことは答えてくれるが、肝心なことははぐらかす。ロイは長年の付き合いで分かっていた。
「用があるのは明後日だけどな。今日明日は予定がなくなったから、こっちにいるつもりだ」
ロイはアレックスのつっけんどんな物言いには慣れているので聞き流し、突然帰ってきた親友に口出しした。
「アレックス、君、外泊届だしたよね?食事無しだよ」
「え、マジ?無いの?!っか休みの飯ってどうなってんの?」
アレックスは目を見開いて驚いた後、少し慌てた様子でロイに訊いてきた。
「君、休みの日は学校いたこと無いから知らないんだね」
ロイは何年通っているんだよと言いたい所を堪えて、呆れながらも説明した。
*
「アレックス、君さあ、今日予定無いんだよね?」
話は変わって、ロイがアレックスに問い詰める。親しみ安い柔らかな笑みだが、目の奥は穏やかではない。
「え?あ、ああ…」
アレックスは見えないロイの圧力に押されながら応えた。
「今日さあ、寮内会議あるの知ってる?知らないよね?いつも全く関係無いオレに代役だって押しつけもんね!」
──今日あったか?そういえば……だったか?
アレックスは前回の会議(自分は出席してない)を思い返す。代理を押し付けたロイが言っていたような気がした。
「予定無いって、二日間は無いって言ったよね?」
アレックスは先程の会話で、ロイに言質を取られていた。
「出る時間あるよね?副寮長君」
アレックスは現副寮長あるが、普段ならお姫様に会いに行く、お姫様を探すで会議を躱していた。がしかし、今回はお姫様を理由に抜けられない。それでもアレックスはお姫様以外のことに時間を使いたく無いのである。
「今日のって引き継ぎか?ならロイ、お前
出るよな?次期副寮長」
お姫様に逃げられたアレックスは、虫の居所が悪い。若干キレ気味な態度になってきた。
「引き継ぎと卒業パーティーのだからね。でも君は内容関係無く出席しなきゃだよ?次期寮長じゃなかった現副寮長」
ロイもアレックスに負けじと喧嘩腰になってきた。
──予定が何も無いのに会議に行こうとする気が無いの?押しつける側の態度ではないよね?
毎度のことながら、ロイはアレックスが何故寮長ポジションに着きたがるのか疑問に思っている。
「俺が無しでも回ってんなら俺がいなくても良くね?」
アレックスが言い合いの火蓋を切った。
「会議事態はいなくてもね、その後を回してるのオレだからね!解ってる?雑務とさあ。アレックス、君さあ、毎日どこ行ってんの?」
ロイが切り返す。
「毎回言ってるが、先生の許可は取ってるぞ!」
「先生って?」
「寮監エド=ウィンド先生だよ」
「君が外泊届の許可は出しているのは知ってるよ。毎回見てるからね」
「ただの外泊じゃねぇよ。あの先生の仕事の手伝い兼てんだよ。寮の仕事よりも優先でって言われてんだ。」
ロイは寮監の先生を出してまで寮の仕事をサボりたがっているのかと、苛立った。
アレックスが宝石の中の少女の元へ行く理由の一つに観察業務があった。少女のことを相談した時、解明できていない魔法なので、調査しようと言われた。アレックスとしては良い気分では無いが、研究機関も兼ねた学園では仕方ない。
「初耳なんだけど、先生公認とか。」
「納得いかないか?」
「全くもって。でもさぁ、今日はそっちの仕事無いってこと?なら連れて行くよ。力尽くでもなんでも」
「やるのか?表出るか?」
毎回サボっている立場の割に超強気で勝ち気なアレックス。なんだかんだで引き受ているロイ。ロイはアレックスに絡んでいるからこそ、あえて揶揄ったり、ふっかけたりすることが多い。本気で苛立つ時もたまにある。二人の言い争いがピークになると外での争いになる。二人の喧嘩は寮の名物になっているのだ。
*
表に出た二人は目立つ。長身の学園ツートップの美形が並ぶからだ。そして今回は名物となった二人の喧嘩である。ことの発端が「アレックス、会議サボるなよ」なのはしょっちゅうあることだ。
距離を置いて対峙した二人。
「っしゃ!じゃあ、やろうか」
アレックスは両拳を、ガシッガシッと合わせから戦闘態勢になる。
「いつでもいいよ」
ロイは右手の人差し指の先で小さな炎を作り、くるくる回している。
先手を打ったのはアレックスである。地面を踏み込み右手の爪を尖らせ、頬に切りかかった。
ロイはバックステップで躱しながら、上着をコウモリの翼に変え上空へ回避した。
「ちょっ、危ないなぁ全く…」
「まぁたそう逃げんのか。降りてこいよ」
遠距離攻撃手段の乏しいアレックスとの戦い方が分かっているロイは、よく上空へ避難している。
「殴られるの分かってて行く奴いないよ」
ロイの反撃は巨大な火球である。それをアレックス目掛け放つ。アレックスは「ああ、そうかよ?つーかそのデカイの危ないだろ?」とロイに余裕綽々で火球を蹴り返した。
「え?!それ蹴んの?」
そう来るとは思っていなかったロイは反応が遅れた。自分の元へ返ってきた火球を避ける為、姿をコウモリに変えた。火球の陰で見失ってくれることを期待して、アレックスの後ろから近づいた。が、振り向いたアレックスにロイは捕まってしまった。
「捕まえたぞ」
観念したロイは変身を解いた。
「今回も負けでいいよ。会議は出てね」
「わかった、わかったって」
険悪な雰囲気は戻り、いつもの朗らかなロイと、いつもの一匹狼なアレックスに戻った。




