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野良犬と宝石のお姫様  作者: 鶴野江
第1章 絵本の続き
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第10話 取材

サムソン・ターナー先生の独白

 大学の居室で優雅に紅茶を飲みながらサムソンは、取材中の人形に思いを馳せていた。そして子供の頃に感じた自身の異常性を振り返る。






 

 小さい頃、妹がお気に入りのカップが壊れたと泣いて縋ってきた。私は妹の代わりに親に頼んで直せないかとお願いした。直してもらえると分かり妹に笑顔が戻った。その顔より前の泣き顔の方が良かったと思った。

 直ったカップとおままごとで遊んでいた妹は、カップを片づけるときに手が滑ったかで落とした。カップが目の前で壊れて泣き崩れる妹を見て“これだ”と、自分が求めていたのが分かった。


 その日から私の小説の世界が始まった。



 妹の大切な物を壊すを繰り返しているうちに、妹をあの時のカップのように壊してみたくなった。


 単純な手段では面白味に欠ける。何か面白い物はないか模索していた時、絵本の魔女を思い出した。焼き靴を履く魔女、焼き釜へ放り込まれる魔女。

 かつて存在していたとされる魔女はどのような悲鳴をあげたのか?どのような表情を見せたのか?

 そこから大学に入り魔女文学、絵本の研究をした。魔女の処刑の資料を集め、手始めに妹で実際に火炙りを行ってみた。妹だけでは足りないため、寄ってくる女共にも協力してもらった。

 その過程で垣間見る表情、オペラの高音のような悲鳴、許しを懇願する顔、縋りつく哀れな姿を小説という形で記した。


 どれも非常に趣深い作品となったが本物の魔女で試したい。


 現在では魔女が消えたとされているが、どこかで生きているという声がある。必ず見つけて、私の小説に役立ってもらいたい。そして最高の物語を残してもらいたい。

 いずれにせよ取材活動を続ける必要性はある。そこで目を付けたのは身寄りの無い孤児である。


 孤児を引き取り信頼関係を築いてから取材を行う。何度か繰り返して、次の材料が必要になったとき、懇意にしている孤児院で見つけた少女。季節、場所に合わない服、何よりも時代にそぐわない服。この娘は何かあると私は直感した。


 娘を引き取るとすぐに牢に監禁した。通常なら懐柔してからなのだが、万が一に備えて最初から自由を奪った。手始めに食事に毒を混ぜてみたが体調不良の兆しが見えない。監視カメラで観る限り、怪しい素振りはない。たまに独り言を呟いてるが、この国の言語とは異なるものだ。暇つぶしかとは思うが、よく筋トレ的な運動をしている。逃げ出す素振りもなさそうなので放置している。


 一ヶ月近く観察を続けた結果、期待外れな娘だったため処分をすることにした。

「勘が外れたようですね」

 後片付けに手間を掛けたくないので、丁度良く寝ている隙に射殺しよう。

「よく寝てますね。このまま目を覚ますことなく永遠に眠って下さいね。では、おやすみなさい」

 別れの挨拶の後に私は撃った。しかし銃弾は届かず何かに防がれた。何発も撃つが全て体に当たらない。その前に弾かれた。


 魔女?!

 見つけた!

 この娘は魔女だ!


 この娘が何をしたかよりも、魔女であったことにわたしは歓喜した。


 ついに見つけた!

 


 喜びも束の間、あの娘は人形のように物を言わず、反抗もせず処刑道具に乗るだけであった。そして何かに守られ無傷で終わると肩を落とす。


 されるがまま、殺して欲しいと言わんばかりの態度が癪に障る。泣き叫ぶこと無く痛がる素振りもせず、本当に人形のようだ。


 どうすればあの人形を壊せるのか?

 傷つけられるのか?

 表情ひとつでも変えられるのか?



 考え倦ねていた日、転機が訪れた。パーティーの翌日あの人形が脱走した。まさか男と過ごしているとは思いも寄らなかった。

 


 *



 「そろそろ頃合いですか」

 サムソンはタブレットを立ち上げ、少女に仕込んでいる盗聴器と発信機のデータを確認した。

 何もアクションを起こさないと踏んでいたが、念のため少女には盗聴器と発信機が内蔵された首飾りを下げてある。そのデータから、街中を移動していることがわかった。

 サムソンは大学講師という職業柄、顔と声と名前を覚えるのが得意である。少女と一緒にいる男が、パーティーの日にあの部屋から逃がした男だとすぐに気がついた。あの部屋の存在を知ってしまったからには生かしておけない。普段からたまに雇う裏稼業の怪しい奴だかに、秘密裏に始末を任せた。学生一人くらいどうという事はないと踏んでいたが、そいつとの電話から失敗したのが伺えた。


 「ちっ、使えない奴め!」

サムソンはカップを粉々にするすんでのところで耐えた。しかし、苛立ちは収まらない。



 夕方、サムソンが家に帰ると少女がいつものように牢に入っていた。

「お帰りなさい。意外ですね、帰ってくるとは思ってませんでしたよ。そんなにここが気に入ったのですか?迎えに行く手間が省けて助かりましたよ」

 この場所に帰ってきた少女にも苛立つが、今後発散させて貰おう。

 もう逃げ出す気のないと踏んだ少女を、枷も付けず取材現場に案内した。奇妙な突起のついた怪しい椅子が鎮座していた。

「これは電気椅子ですよ。君に行った古典的な処刑法は全部無傷でしたからね。今後は現代的な手法をと思いまして試験中なんです。使い方や設定の確認作業がありますから、本番はまだですよ。それよりも今日の逢瀬は楽しめましたか?」


 この少女には言葉が通じないはサムソンは理解している。しかし何を言っても反応を示さないのは気に食わない。言葉でダメなら、行動で分からせて貰う。

 

 「その手の中にあるのは何ですか?」

 サムソンは少女が両手で大切そうに握っている物を取り上げた。初めて見せた焦りの顔。踏みつける素振りの見せたら必死に手を伸ばし守ろうとする。


 ──大切なんですね。こういうものは目の前で壊したくなりますよね。その時どんな顔を見せてくれますか?こんなステキな反応を示すなら期待出来ますね。



 あの人形の絶望した顔を引き出す方法が分かった。あの人形の大切な男を壊せば、そうすればあの人形も壊せるかもしれない。

サムソン・ターナー先生は大学非常勤講師。


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