9…また必ず会いたいと
滞在を揺るがす事が起こったが、単発の隣国からの刺客だろうということで、警備を増やして滞在は継続となった。
その他は楽しく1週間を過ごせたエリーゼとジューク。
しかし、今日は朝から2人してテンション低めだ。
もう帰宅する日になってしまったから。
「おはよう、ジューク。今日は、帰らなきゃなのね……あっという間だったわ」
エリーゼは寂しそうな顔をして、意外にも帰りたくなさそうにしているジュークを見ている。
「うん、僕は街とかも行ってみたかったな。市場に行ってみたい。護衛とか大変なのは分るけどさぁ。今度いつ来れるかなぁ」
これから数ヶ月は確実に来れないので、すぐは無理だろうということが分かっている。
ジュークは小侯爵としての気質だろうか、領地を知るべく街を見ることが好きなので、余計に悲しいらしい。
「また来れると良いわね」
エリーゼに、将来住むかもしれないでしょ、なんて、ジュークは冗談でも言わない。
大好きな姉が侯爵邸からいなくなるなんて、考えただけでも確実にメンタルブレイクする自信があるのだ。
「あーあ、新学年かぁ。学園生活の再開だ」
この春、エリーゼは4年生、ジュークは2年生になる。
◇
最後に2人で散歩でもと、朝食後にロイドがエリーゼを誘った。
付いて来ようとするジュークを、何とか双子に押し付けて。
あまり外からは分からないけれど、超ご機嫌のロイドが、エリーゼをエスコートしながら庭園を歩いている。
今は、ロイドがお願いがあると言うので、「私にできることなら」とエリーゼが返事をしたところだ。
「もう敬語は使わないでほしいです。リリアナやサイラスに話してるようにしてもらえたらと」
ロイドが少し緊張しながら恥ずかしそうに、エリーゼにお願いした。
「え、ええ、善処します、するわ」
敬語で話することに慣れてしまっていたエリーゼは、やっぱり緊張しながら言い直した。
それを見てロイドが嬉しそうに笑っている。
「ありがとうございます」
しかし、そうすると。
ロイドが敬語を使って話してくるのが、エリーゼはとても寂しく感じてしまった。
「ロイドさんも敬語はやめてくだ、やめてくれると嬉しいわ。ジュジュやアリスに話すように……」
「えっ。いや、あの。普段、口が悪くて。自負してます、かなり。不快、かもしれないので」
ロイドが動揺しながら、何とか逃れようとしているのを見て、エリーゼは真っ直ぐロイドをとらえた。
「構わないわ」
自分だけが敬語を使われて、距離を置かれているような感覚がどうしても寂しくて。
こればかりは譲りたくないと、いつぶりだろうか、珍しくエリーゼはわがままを通そうとしている。
そこから、どう言ってもエリーゼが譲らない雰囲気で返してくるので、ロイドは諦めて了承するしかない。
「善処しま、あー、善処する、けど」
気まずそうにロイドは頭をかきなぎらエリーゼを見た。
エリーゼが納得していない顔でロイドを見てくるので、ロイドも負けじと見つめ返してみた。
しばし見つめ合う形になってしまったけれど。
そうなると、やはり照れくさくなったロイドが降参してしまう。
ため息をついたロイドが「わかった。けど、引くなよ」とエリーゼの髪をわしわしと手で触れた。
エリーゼが、もう乱れてしまった頭を手で守るようにして、ロイドに抗議するような視線を送る。
2人は楽しそうに、一緒に吹き出して笑い始めた。
ああ、このぎこちなさも、何だか恥ずかしいけど、楽しいわ。
幸せだなぁ。
普段のロイドさんは、どんな感じに話するのかしら。
もっと、もっと一緒にいたかったなぁ。
はっと我に返ったエリーゼは、ロイドに気付かれないように笑顔を保った。
顔が少し赤くなったのは、笑っていたおかげで気付かれることはなかっただろうけど。
まだ、ドキドキしてる。
◇
「お世話になりました」
来た時と同様に、エリーゼとジュークはカガリー辺境伯一家に挨拶をして、馬車に向かった。
ジュークはさっさと乗り込んだのだが。
エリーゼをエスコートしていたロイドは、馬車の前で止まって手を離した。
「では、また」
「はい。また会えるのを、楽しみにしてるわ」
エリーゼが寂しそうに笑ったので、ロイドは再び手を出して、馬車に乗り込むまでエスコートをした。
馬車の階段をエリーゼがそっと上っていき、ロイドの目線にエリーゼのそれが近付いた時だった。
ロイドがエリーゼの頬にキスをした。
「元気で」
「は、はいっ」
明らかに様子がおかしいエリーゼがバタバタと馬車の椅子に座って、顔を真っ赤にして自分の頬に手を当てている。
「……また、やりやがったな」
すぐに悟ったジュークが手に魔力を込め、ロイドの方へ行こうと、椅子から立ち上がって扉付近まで近付いたら、
バタンッ
ロイドがさっさと扉を閉めて、馬車に出発の合図を送った。
ジュークは扉の窓に張り付いて外を見た。
満足そうな笑顔でジュークに手を振るロイドと、後方で仰天して口が開いたままの双子、天を仰ぐカガリー辺境伯夫妻が見えるのだが。
その光景は、どんどん小さくなっていく。
馬たちが、また必死に走っているのだろう。
「ロイドオォォォォオ!!!! 学園で、覚えてろよ!!」
この既視感しかない状況を、エリーゼは自分の鼓動と気持ちを抑えることに必死で、どうすることもできなかった。
「また必ず。早く会いたい」
頬にキスをされた時、ロイドに耳元でささやかれた言葉を、エリーゼは思い出している。
どうしよう。何で。
もう、ロイドさんに会いたくなってる。




