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9…また必ず会いたいと

 滞在を揺るがす事が起こったが、単発の隣国からの刺客だろうということで、警備を増やして滞在は継続となった。

 その他は楽しく1週間を過ごせたエリーゼとジューク。

 しかし、今日は朝から2人してテンション低めだ。

 もう帰宅する日になってしまったから。


「おはよう、ジューク。今日は、帰らなきゃなのね……あっという間だったわ」


 エリーゼは寂しそうな顔をして、意外にも帰りたくなさそうにしているジュークを見ている。


「うん、僕は街とかも行ってみたかったな。市場に行ってみたい。護衛とか大変なのは分るけどさぁ。今度いつ来れるかなぁ」


 これから数ヶ月は確実に来れないので、すぐは無理だろうということが分かっている。

 ジュークは小侯爵としての気質だろうか、領地を知るべく街を見ることが好きなので、余計に悲しいらしい。


「また来れると良いわね」


 エリーゼに、将来住むかもしれないでしょ、なんて、ジュークは冗談でも言わない。

 大好きな姉が侯爵邸からいなくなるなんて、考えただけでも確実にメンタルブレイクする自信があるのだ。


「あーあ、新学年かぁ。学園生活の再開だ」


 この春、エリーゼは4年生、ジュークは2年生になる。



 最後に2人で散歩でもと、朝食後にロイドがエリーゼを誘った。

 付いて来ようとするジュークを、何とか双子に押し付けて。


 あまり外からは分からないけれど、超ご機嫌のロイドが、エリーゼをエスコートしながら庭園を歩いている。


 今は、ロイドがお願いがあると言うので、「私にできることなら」とエリーゼが返事をしたところだ。


「もう敬語は使わないでほしいです。リリアナやサイラスに話してるようにしてもらえたらと」


 ロイドが少し緊張しながら恥ずかしそうに、エリーゼにお願いした。


「え、ええ、善処します、するわ」


 敬語で話することに慣れてしまっていたエリーゼは、やっぱり緊張しながら言い直した。


 それを見てロイドが嬉しそうに笑っている。


「ありがとうございます」


 しかし、そうすると。

 ロイドが敬語を使って話してくるのが、エリーゼはとても寂しく感じてしまった。


「ロイドさんも敬語はやめてくだ、やめてくれると嬉しいわ。ジュジュやアリスに話すように……」


「えっ。いや、あの。普段、口が悪くて。自負してます、かなり。不快、かもしれないので」


 ロイドが動揺しながら、何とか逃れようとしているのを見て、エリーゼは真っ直ぐロイドをとらえた。


「構わないわ」


 自分だけが敬語を使われて、距離を置かれているような感覚がどうしても寂しくて。

 こればかりは譲りたくないと、いつぶりだろうか、珍しくエリーゼはわがままを通そうとしている。


 そこから、どう言ってもエリーゼが譲らない雰囲気で返してくるので、ロイドは諦めて了承するしかない。


「善処しま、あー、善処する、けど」


 気まずそうにロイドは頭をかきなぎらエリーゼを見た。


 エリーゼが納得していない顔でロイドを見てくるので、ロイドも負けじと見つめ返してみた。


 しばし見つめ合う形になってしまったけれど。



 そうなると、やはり照れくさくなったロイドが降参してしまう。

 ため息をついたロイドが「わかった。けど、引くなよ」とエリーゼの髪をわしわしと手で触れた。


 エリーゼが、もう乱れてしまった頭を手で守るようにして、ロイドに抗議するような視線を送る。


 2人は楽しそうに、一緒に吹き出して笑い始めた。



 ああ、このぎこちなさも、何だか恥ずかしいけど、楽しいわ。

 幸せだなぁ。

 普段のロイドさんは、どんな感じに話するのかしら。

 もっと、もっと一緒にいたかったなぁ。


 はっと我に返ったエリーゼは、ロイドに気付かれないように笑顔を保った。

 顔が少し赤くなったのは、笑っていたおかげで気付かれることはなかっただろうけど。


 まだ、ドキドキしてる。




「お世話になりました」


 来た時と同様に、エリーゼとジュークはカガリー辺境伯一家に挨拶をして、馬車に向かった。


 ジュークはさっさと乗り込んだのだが。


 エリーゼをエスコートしていたロイドは、馬車の前で止まって手を離した。


「では、また」


「はい。また会えるのを、楽しみにしてるわ」


 エリーゼが寂しそうに笑ったので、ロイドは再び手を出して、馬車に乗り込むまでエスコートをした。


 馬車の階段をエリーゼがそっと上っていき、ロイドの目線にエリーゼのそれが近付いた時だった。


 ロイドがエリーゼの頬にキスをした。


「元気で」


「は、はいっ」



 明らかに様子がおかしいエリーゼがバタバタと馬車の椅子に座って、顔を真っ赤にして自分の頬に手を当てている。


「……また、やりやがったな」


 すぐに悟ったジュークが手に魔力を込め、ロイドの方へ行こうと、椅子から立ち上がって扉付近まで近付いたら、



バタンッ



 ロイドがさっさと扉を閉めて、馬車に出発の合図を送った。


 ジュークは扉の窓に張り付いて外を見た。


 満足そうな笑顔でジュークに手を振るロイドと、後方で仰天して口が開いたままの双子、天を仰ぐカガリー辺境伯夫妻が見えるのだが。


 その光景は、どんどん小さくなっていく。

 馬たちが、また必死に走っているのだろう。



「ロイドオォォォォオ!!!! 学園で、覚えてろよ!!」



 この既視感しかない状況を、エリーゼは自分の鼓動と気持ちを抑えることに必死で、どうすることもできなかった。


「また必ず。早く会いたい」


 頬にキスをされた時、ロイドに耳元でささやかれた言葉を、エリーゼは思い出している。



 どうしよう。何で。


 もう、ロイドさんに会いたくなってる。



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