7…カガリー辺境伯邸にて③遭遇し
「エリィ、おはよう」
「アリス、おはよう。今日は遅いのね?」
いつも早起きのアリストは、カガリー辺境伯邸へ来てからも、次に早起きのロイドと一緒に朝食をとって、持参した執務をしている。
今日は珍しくエリーゼと同じ時間に食堂に登場したのだ。
「今日帰城するから。エリィと朝食取ろうかなって。ロイドは先に食べて剣でも振ってるだろうね」
優しく笑ったアリストは、エリーゼの隣に座った。
「光栄ですわ、殿下」
いつもは殿下なんて呼ばないエリーゼなので、堪えられず吹き出して、アリストも一緒に2人で笑っている。
「アリスはもう帰るのね?」
アリストは困った顔を作って、カトラリー持っておどけて見せた。
「ああ、帰らないと。留守にすると、好き勝手したり言ったりするのが出てくるからね」
アリストが皇太子となっているが、皇子は他にもいるため、複雑な皇城内では味方ばかりではないらしい。
皇城では毒味等があり、冷めた食事ばかり。
温かい食べ物を取れるのは、城から距離があり絶対の信頼があるカガリー辺境伯邸に来た時くらいだとか言っていた。
「アリスは、昔から、1番ちゃんとやってるわ」
アリストは自分が頑張って上り詰めるという性格だが、第一皇子も第二皇子もそうではなく人を蹴落としていくような人たちで、隙を見せたら危ないのだとか。
彼らはエリーゼの好きではないタイプだ。
エリーゼが腹を立てながらベーコンを切っているのを、アリストはふふっと笑って優しい顔になった。
「ありがとう」
そうやってエリーゼが昔からアリストの頑張りを認めてくれているお陰で、アリストは孤独を感じることなく立ち続けることができるのだと、以前エリーゼは言われたことがある。
心からの感謝を伝えることしかできないけれど、と。
その日からエリーゼはアリストに思っていることを伝えるようにしてきたのだ。
「最近ちょっと第一皇子あたりがきな臭くてね。母親の第一側妃が、ここカガリー辺境伯領と接しているシンドア国の出身なんだけど」
アリストはエリーゼをうかがうように見ながら説明するので、エリーゼは肩をすくめた。
「ええ、知ってる。大丈夫よ。お姉様の、亡くなったお母様がシンドア国のご出身だったから。第一側妃様と異母姉妹なのよね」
セトレア皇国の第一側妃とミロウ侯爵の亡妻は、シンドア国の第四王女と第二王女で異母姉妹だ。
エリーゼ個人とは直接関係はないけれど、家門から見れば少し繋がりがあるように見える。
シンドア国は、呪術が盛んな国でとらえどころがなく、昔から気を許せない相手だというのがセトレア皇国での認識だ。
「ああ。大丈夫だろうけど、シンドア国はカガリー辺境伯領と接しているから、万が一のことも想定して、エリィも気を付けて過ごして」
本当に心配そうに見てくるアリストと目を合わせ、エリーゼはふわりと笑った。
「ありがとう。アリスも気を付けてね、本当に」
◇
「エリィ姉さま、今日も素敵です!!」
リリアナはエリーゼに飛びついたが、サイラスがエリーゼの護衛のように2人の間に入り見事に止めた。
「落ち着け。そろそろエリィの可愛さに慣れろ」
サイラスはリリアナの頭を片手で鷲づかみにして、言うことを聞かない動物と力勝負しながら諭しているかのようにしている。
リリアナとサイラスが毎朝食後に行っている、見回りという名の邸宅の敷地内の散歩に、数日前からエリーゼも動きたいからと一緒に行っている。
双子と仲良くなれるのも嬉しいし、ロイドの話も聞けるので、エリーゼはこの時間がとても楽しみだったりする。
きっと妹がいたらこんな感じなのかもしれないとか、ジュークも可愛くて愛らしいけどサイラスのような弟も良いなとか、エリーゼはにこにこしながら考えている。
時折見せてくれる、双子ならではのシンクロ行動にも未だに感動するし、エリーゼは双子が本当に可愛くて可愛くて仕方がない。
お母様、双子を産んでくれないかしら。
きっとここ数日間、ミロウ侯爵夫人は何かしらの圧を感じているに違いない。
それくらい、エリーゼは切望している。
朝からポカポカ陽気の中、リリアナとサイラスと手を繋いで、エリーゼは楽しそうに話しながら歩いていた。
この手を、いつ兄のロイドに見つかるか……サイラスは少し気が気でないけれど。
あと数日なら大丈夫だろうと高をくくっている。
ポッ
と小さな火の玉のような何かが1つ、エリーゼたちの行く先の少し遠くに現れた。
ふわふわと静かに、しかし確実に迷わずエリーゼの方へ来ている。
「あれは、何かしら」
エリーゼが気付き、なぜか引き寄せられるように近付こうとしていると、サイラスが「ダメだ!」とエリーゼの手を引いた。
すると、あっという間に数が増え、3人は多くのそれらに囲まれてしまっていた。
「エリィ姉さま、後に」
リリアナがそう言う同時にエリーゼを守るように前に出て、剣を抜いた。
「とりあえず、味方じゃねーな」
同様にサイラスはエリーゼの背後を守るように動き、剣を抜いた。




