閑話休題8〜見せたかったもの
学園が夏季の長期休暇に入ると、ミロウ侯爵邸のロビーに、ロイドが嬉しそうにやってきた。
ロイドは、お忍びで街へ出かけに行くようなラフな格好で、同じ様な服装のエリーゼが現れたのを見て、さらに笑顔になった。
「俺がエリィに会えずに過ごした期間、外で見てきた世界を見せてやりてーなと」
呪術から逃れさせるため、エリーゼは箱入りに外には出さず、大切に大切に囲われて育てられたので、ほとんどの外の世界に関しては、まだ書物の中の世界だ。
そんなエリーゼを、旅行へ連れて行くとロイドが訪ねてきた。
「今から?」
準備が、とエリーゼが言おうとした時。
2人がいるロビーに荷物が置いてあり、それを従者がせっせと馬車へ運んでいるのが見えた。
え、大量の荷物?!
「1ヶ月の旅行だ! 行こう」
満面な笑みのロイドと、サプライズで旅行へ行くことになり喜びのエリーゼ。
嬉しそうに手を繋いで馬車へ向かおうとしていると、ジュークが不満そうにやってきて、勢いよく手を外させた。
「僕だって首席なんだからな!」
エリーゼはにっこりと笑った。
「ジュジュが卒業したら、一緒に旅行に行きましょう?」
ご機嫌のエリーゼがとびきりの笑顔をジュークに向けると、ジュークは涙目で黙ってしまった。
旅行は先月から決まっていたのに、エリーゼは今日まで知らされることなく過ごしてきた。
ジュークとミロウ侯爵が、エリーゼが旅行を楽しみにしながら過ごすのを、想像するだけでも耐えられないと、最後の最後まで、エリーゼに伝えることができなかったらしい。
皇城の仕事のためミロウ侯爵は不在、ジュークはふてくされて部屋に閉じこもった。
困った顔で笑っているミロウ侯爵夫人に見送られて、馬車は出発した。
"「父さま、例の条件は満たしたよな」"
ロイドの首席卒業で得たものは「エリィと1ヶ月の婚前旅行」だった。
エリーゼと再会を果たせていなかった時は、エリーゼとの見合いを得ようとしていたロイド。
婚約者になれそうだったので、ご褒美を変えてもらったのだ。
カガリー辺境伯は、ロイドがそうそう首席なんて取れないだろうと踏んでいたが……
それはもう、相当の苦労をしてミロウ侯爵に頼み込み、何とか条件付きで許しを得ることができた。
世界を見せたいというロイドの気持ちも、響いたのかもしれないが 、それは微塵だろう。
どうやら、2人の間に何かしらの裏の取引があったらしく、カガリー辺境伯は数日ほど立ち直れなかったという。
両家からの条件付きで、2人の婚前旅行が無事許された。
部屋は別、節度ある行動を、毎日寝る前にそれぞれの両親へ連絡を、従者を連れて行き、彼らから毎日両家へ報告させる、と。
根がクソ真面目な2人は、毎日決まりを守った。
エリーゼが見たことのない、美しい景色から、興味深い生き物や、美味しい食べ物……どれもが初めてで、エリーゼは充実した毎日を過ごす。
「ここが1番、ずっと、エリィに見せたい、エリィと一緒に来たいと思ってた所だ。本当に来れた……」
小高い場所で景色を見下ろしながら、感動して言葉が出せないエリーゼ。
ロイドは感慨深そうに、目の前に果てしなく広がる海に視線をやった。
「……ロイは、これを見た時、どう思ったの?」
「10才の頃だったな、この先に何があんのか気になった。で、こっそり1人で小舟に乗ってみたら、動く水にやられて、落ちて溺れた」
こわっ……何してるの。
「まじで走馬灯見たと思った」
「無事に再会できて良かったわ」
「本当、それな。で、その時に、手に握りしめてた物があって」
ロイドはポケットに手を入れて、小箱を取り出し、開けて見せた。
美しい装飾の指輪の台座に、小さな乳白色の宝石のような球体の玉が輝いている。
「きれい……」
「貝の中にできる宝石だと。海のないセトレア皇国では、なかなかお目にかかれない代物らしい。これを、いつか海を見ながら、エリィに渡したかったんだ」
ひざまずいたロイドは、エリーゼの左手を優しく取り、その指輪をそっとはめた。
「あと2年……エリィの卒業を待てねぇ。もう離れたくねーんだ。すぐ結婚しよう。カガリーのタウンハウスに住めば、学園は通えるだろ?」
両家の都合もあるし、必ずそうなるとは限らないけれど。
気持ちを伝えてくれたロイドに、エリーゼは嬉しそうに返事をした。
「私も離れたくない。ロイと一緒にいたい」
ひざまずいて自分よりも低くなっているロイドに、エリーゼは緊張しながらキスをした。
「ロイ、大好きよ」
エリーゼの左手には、先ほどの指輪がキラキラと輝いている。
「ねぇロイ、今日は一緒に寝よう?」
目をキラキラさせて、エリーゼはロイドを見上げている。
幼い頃よく一緒に寝ていたのを思い出して、エリーゼは懐かしがっているのだが。
ロイドは瞬きを忘れて、そのまま止まってしまっている。
「……普通に寝る自信は、無い」
「え」
「何するか、知ってるか」
「え?! あ、ああ! あの、き、聞いたことはあるけど」
そうだった。
今は、私たち小さい子どもではないのよね。
自ら誘ってしまったと気付いて、恥ずかしくてしかたのないエリーゼは、顔を隠しているけれど、それでも分かるくらい見る見る真っ赤になっていく。
「あー……そうだよなぁ」
全くその気がなかったエリーゼを見て、ロイドはやっぱりなと、ため息交じりにうなだれた。
ひざまずいているので、そのまま地面に倒れ込みそうだ。
「明日はミロウ侯爵邸に到着しねーとダメだから」
ロイドは独り言のように、つぶやき始めた。
「ええ」
「だからダメだろ」
「??」
「数回じゃ終わらない」
「……」
何回もするもの?
「止まれない自信しかない」
「??」
どういうこと?
止まるとか止まらないとかの話があったかしら。
話がよくわからないのは、私だけ?
私が思ってるのは、違う話かな。
「何日もかかると、帰れなくなったらまずい」
「……」
何日も。
ああ、ロイは、何か私の知らない、違う話をしているのかもしれないわ。
違う話ではないけれど、今のエリーゼに分かるはずもなく、ロイドの独り言のような会話は進んでいく。
「婚約破棄は嫌だから、今日は別で寝る。俺には我慢の一択しかねーな」
「……はい」
しょんぼりして悲しそうに見てくるエリーゼを見て、またうなだれるロイド。
ため息のような深呼吸をして、頑張って自制している。
「……覚えてろよ、エリィ」
「何を?!」
「煽ったエリィが悪い」
「あおっ……」
ロイドは笑ってエリーゼにキスしをして、勢いよく立ち上がって、エリーゼを抱きかかえた。
時折、ロイドはため息をつきながら、今日滞在する屋敷まで戻っていった。
「「おやすみ」」
エリーゼを部屋まで送って、ロイドは向かい側の自分の滞在部屋の前に、勢いよく移った。
2人は、別々の部屋に入っていった。
先ほどのエリーゼが理解できなかった会話は、結婚初夜に思い知ることになるのだけれど。
そんなこと、つゆ知らずのエリーゼは秒で寝付き、幸せそうに眠っている。
これから、堂々とずっと一緒にいよう。
そのための我慢や努力は怠らない。
いつも想っている。
どこでも想っている。
あなたがいないと、生きている意味のない世界。
そうなったのは、そうしてくれたのは、あなた。
ずっと、ずっと
でも、これは普遍ではないもの
変わりながらも
その時の全ての愛を、あなたへ贈るから
受け取ってほしい
いかがだったでしょうか。
投稿中も、ブクマ評価いいね、いただきまして、
本当にありがとうございました。
とっっても嬉しいです。
今回も五体投地で御礼申し上げます。
SSも出し切った気がするので、
これにて終了にしたいと思います。
ありがとうございました。
次作は考えているのですが……
スマホとパソコンの調子がよろしくないので、復活したら作成したいなと思っています。
その時、よろしければ是非。
小川かりん




