閑話休題7〜それに叶う者に
「ロイ、遠慮なく、私を斬って!」
エリーゼが得意そうに両手を広げている。
「いやいや、できるわけねーだろ!」
ロイドは剣を背中に隠して、ぐいぐい来るエリーゼから後退りしている。
その隣では、双子たちも激しく同意している。
唯一、エリーゼだけが、不服そうだ。
珍しく、エリーゼに対してカガリー辺境伯の子どもたちが対抗する図ができあがっているのだが。
婚約のお披露目のために、カガリー辺境伯に滞在中のエリーゼが、お願いがあると言いながら、ロイドとリリアナとサイラスが手合わせ中にやってきた。
エリーゼが嬉しそうに来るので、3人とも気が抜けて、穏やかに汗を拭きながら聞いていたら、あんな度肝を抜くような発言だ。
「冗談でも、エリィに刃は向けねぇ。絶対だ」
不満そうにするエリーゼが「それなら」と、双子の方に向いたのだが。
「「絶対、無理」」
エリーゼが頼む前に、リリアナとサイラスは明快にシンクロ返事をした。
「何がどうなって、そんなこと言ってんだ」
ロイドが聞くと、説明をしていなかったことに気付いたエリーゼが、恥ずかしそうに話し始めた。
「私の魔力量はちょっと多めらしいの。でも、攻撃は苦手で、上手にできなくて。人を傷付けるのも恐いし。ほら、癒やす方が得意でしょう? でも、カガリー辺境伯家の一員になった時に、足手まといになるのは嫌で……」
いつも穏やかなエリーゼだけれど、根は負けず嫌いなのだ。
「ジュークに言われたの」
「エリィ、ロイドは辺境伯で国境付近に住んでるから、それなりに敵襲は多いよ」
カガリー辺境伯邸へ来る前に、姉を心配するジュークがエリーゼとお茶をしている時に言ってきたのだ。
「エリィが自衛できないと、ロイドは安心して戦えないからね」
まるでロイドの邪魔をしないようにという言い方だ。
ジュークは、その方がエリーゼが頑張って保身を考えるだろうと分かっているので、あえてその言い方をしている。
ロイドの弱点であることで、エリーゼが狙われるようになるのが心配で、ジュークは気が気ではない。
とにかくエリーゼが安全でなければ、カガリー辺境伯家に嫁になんてやれない。
いや、それとも関係なく、大好きな姉を嫁になんてやりたくないのだけれど。
「裏に思惑がありそうな発言だな」
ロイドはそう言ったけれど、嬉しそうにエリーゼの頬についている土ぼこりを優しく払った。
エリーゼの気持ちを聞いて、双子もロイドと同じような顔をしている。
カガリー辺境伯家に入ることを、エリーゼが真剣に考えていたことを知り、嬉しくないわけがない。
必死なエリーゼは、ロイドの服をつかんで説明を続けている。
まだまだ、試すことを諦めきれないらしい。
「何重にも聖魔法の防御である保護魔法を重ねると、誰も何も、私に攻撃できないかもしれないって思って。だから、試しに、強いロイに斬ってもらいたかったの」
手を広げて、どうぞ斬って下さいと言わんばかりのエリーゼ。
期待に満ちた眼差しで、ロイドを見ている。
気持ちは分からないでもないが、まだ仮説の段階なので、ロイドは難しい顔をして、やはり無理だと頭をかいている。
「それにね、抱えられたら簡単に連れて行かれるでしょう? それについては、地面に繋がれば大丈夫かなって。聖魔法に、結びつけの縁魔法があるから」
唯一の弱点であるエリーゼが安全であれば、ロイドは安心して動くことができる。
確かに、その通りなのだ。
「あー、それは助かるな……ああ、それなら、サイラスにかけてくれ、思いっきりやってやるから」
剣に手をかけるロイドが、冗談のようにしながらも、少し本気の目でサイラスを見ている。
サイラスの気持ちに、ロイドが薄っすらと気付いているのかと、リリアナはゾッとして、緊張しながら2人のやり取りを見守っている。
いつもの表情はどんな顔だったか、本当に分からなくなってきて、リリアナは焦っているのを見せないようにするので必死だ。
「ひっでぇ!!」
そんなことに気付かず、いつものようにサイラスはエリーゼの後に隠れたのだけれど。
エリーゼも、いつものように楽しそうに笑ってサイラスをかばっている。
結局、高価そうな壺に保護魔法を何重にもかけて、ロイドが思いっきり斬ってみたが、衝撃すらも伝わっていないように見え、全くの無傷だった。
その上、誰も壺を移動させることができなかったのだ。
エリーゼの考えた方法は、いけることが実証され、カガリー辺境伯の子どもたちは驚き喜んでいる。
念の為に、後でカカガリー辺境伯にも見てもらうことにした。
「これで、ロイの足手まといにならないかしら!! 婚約者として相応でいられる?」
誇らしそうに嬉しそうにするエリーゼが、ロイドに向けて両手を伸ばしてきた。
「俺の婚約者殿はすげーな!」
ロイドは豪快に笑いながら、そのままエリーゼを抱きしめて、くるくる回り始めた。
エリーゼは、ロイドと楽しそうに笑っている。
それを双子も嬉しそうに見守る。
誰もが、エリーゼの笑顔が好きなのだ。
ずっと、ずっと、どうか、平和が続きますように。




