閑話休題6〜内緒話(sideサイラス)
危なかった。
もう少しで、言うところだった。
「俺がエリィをほしいのに」
兄さまのせいで、エリィが泣いている姿をみて「兄さまが悪い」と初めてにらんだ後。
エリィを抱きしめたままでいたかった。
◇
「エリィは、」
またこの話かぁ……
リリアナとサイラスの双子コンビは、いつも一緒だ。
そして、これまたよく一緒にいる兄のロイドから、度々エリーゼについて聞かされていた。
会ってもないのに、よく色々知ってんなぁ。
飲むお茶によって使う砂糖の数が違うとか、それが何個とか。
学園の成績とか、好物とか、髪の長さとか、何でこんなに詳しく知ってんだ。
大丈夫か、兄さま。
ある日、ロイドがいない時に、リリアナが深刻そうに話をし始めた。
「サイラス……私思ったんだけど、兄さま、ストーカーてやつじゃない?」
ああ! あー、ガチで絶対それだ。
「名前つけんなら、それ以外にねーな」
「止めた方が良いのかな? 私だったら嫌だし」
リリアナが気まずそうに真剣に言うのを、サイラスは鼻で笑っている。
「俺らが、あの兄さまを止められるか?」
「ああ……無理ね。相手の方、可哀想すぎるけど」
俺たちは、会ったことのない"エリィ"に対して持っていた感情は、同情だけだった。
◇
そう、最初から分かっていた。
双子だからか、リリアナの好みもツボも、だいたい同じだから。
だから、飛び付きたいとウズウズしているリリアナを止めることもできた。
きっと、一目惚れだった。
あんなにきれいで可愛い人を、見たことがなかった。
馬車から降りてくる時、視線を外すことができなかった。
でも、一瞬でそれは、形になる前に、砕け散った。
兄さまの婚約者になる人だから。
エリーゼの耳に、ロイドから贈られたであろうイヤリングが付けられていることに、サイラスは気付いた。
あ……あれは、やばいやつだ。
位置を感知できるように、特注してたやつだ。
反呪の付与もあるみたいだけど。
もう同情なんてものではないな、申し訳ない気持ちになってきたぞ。
"「エリィが婚約者とか良いなぁ……兄さまをうらやましいと思うなんて初めてだ。あ、まだ候補か」"
あれは、本当にうかつだった。
あんな長い台詞、話したの久しぶりだった。
でも、きっと兄さまにはバレてない。
リリアナには絶対にバレてるだろうな。
好みは同じだし、少しの動揺にも気付かれるくらいだ。
でも、お互いに話題にはしたことはない。
暗黙の了解ってやつだろう。
あとは、あれだ。
アリスト皇太子殿下には、気付かれてんだろーな。
"「君もか」"
見抜かれてしまって、心臓が止まったかと思った。
あの時、言われてしまったらどうしようかと、さすがに動揺した。
恐かった。
兄さまにバレて、側にいられなくなったら、どうしようって。
◇
ある日、悲しそうに、というか申し訳なさそうに、エリーゼがサイラスを見てきた。
もうリリアナと手を繋いでいるのに、サイラスとはまだ手を繋がず、少ししょんぼりしている。
さすがに見つめられると緊張するけれど。
サイラスは「平常心平常心平常心」と自分の脳と心臓に言い聞かせて、首を傾げてエリーゼを見た。
「サイラスとは、手を繋がない方が良いかしら?」
はああぁぁぁあ??
突然のエリーゼからの申し出に、サイラスは首を傾げたまま動揺を隠せない。
青ざめて、涙が出そうだ。
隣で驚いているリリアナには、気付きもせず。
リリアナとサイラスが何とか聞き出すと、エリーゼは申し訳なさそうに説明をした。
どうやら、そろそろ婚約者が決まる時期だろうから、兄の婚約者と手を繋いでいるなんて、醜聞になるのではないかと考えたらしい。
「……それなら、大丈夫」
ぶっきらぼうに、サイラスが手をエリーゼの方へ出すと「本当に?」とエリーゼは懐疑的にしながら、遠慮ぎみにサイラスの手を取った。
やばいな、これだけで嬉しいなんて。
しかし、いつかは止めなければならないのは分かっている。
いい年で義弟と手を繋いでいたら、エリーゼの悪評が広まってしまうだろうから。
面白おかしく話題にしたい輩なんて、世の中に山ほどいるのを知っている。
その時期が、来るまでは。
密かな俺の幸せを、許してほしい。
◇
父親のカガリー辺境伯にリリアナとサイラスが執務室へ呼び出され、椅子に座っている父親の前に机を挟み、2人は姿勢良く立っている。
「いや、俺はパス。エリィの護衛になる。兄さまの信頼の置ける人間なんて、リリアナか俺くらいだろ。だから、俺がなります」
2人それぞれの婚約の話になったけれど。
今、護衛になることを理由に、サイラスが断ったところだ。
「……それで、良いのか?」
カガリー辺境伯は真剣に聞いている。
「私、サイラスの長い台詞、久しぶりに聞いたかも」
「うっせえわ」
サイラスは真っ直ぐ父親の方を向いたまま、茶化してくるリリアナを見ずに悪態をついた。
正確に言うと、見ることができなかった。
ボロが出て、父様にまで勘付かれてしまっては、計画が台無しになってしまうから。
俺は、結婚なんてしない。
この人を1番にして護るには、そんなのは邪魔でしかない。
誰からも何からも護れるように、強くなりたい。
いつか必ず、兄さまよりも。
「サイラス!」
そう笑顔で呼んで、手を差し出してくる、この人が好きだ。
平然と手を繋いでくる、この人が憎らしく思う時もあるけど。
さらって一緒にどこかへ行ってしまいたくなる。
そんなこと、しないけれど。
誰よりも、大好きだ。
今も、これからも、ずっと。
これは、永遠に俺だけの、内緒話。




