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閑話休題6〜内緒話(sideサイラス)

 危なかった。

 もう少しで、言うところだった。


「俺がエリィをほしいのに」


 兄さまのせいで、エリィが泣いている姿をみて「兄さまが悪い」と初めてにらんだ後。

 エリィを抱きしめたままでいたかった。






「エリィは、」


 またこの話かぁ……


 リリアナとサイラスの双子コンビは、いつも一緒だ。

 そして、これまたよく一緒にいる兄のロイドから、度々エリーゼについて聞かされていた。


 会ってもないのに、よく色々知ってんなぁ。

 飲むお茶によって使う砂糖の数が違うとか、それが何個とか。

 学園の成績とか、好物とか、髪の長さとか、何でこんなに詳しく知ってんだ。

 大丈夫か、兄さま。



 ある日、ロイドがいない時に、リリアナが深刻そうに話をし始めた。


「サイラス……私思ったんだけど、兄さま、ストーカーてやつじゃない?」


 ああ! あー、ガチで絶対それだ。


「名前つけんなら、それ以外にねーな」


「止めた方が良いのかな? 私だったら嫌だし」


 リリアナが気まずそうに真剣に言うのを、サイラスは鼻で笑っている。


「俺らが、あの兄さまを止められるか?」


「ああ……無理ね。相手の方、可哀想すぎるけど」


 俺たちは、会ったことのない"エリィ"に対して持っていた感情は、同情だけだった。





 そう、最初から分かっていた。

 双子だからか、リリアナの好みもツボも、だいたい同じだから。

 だから、飛び付きたいとウズウズしているリリアナを止めることもできた。


 きっと、一目惚れだった。


 あんなにきれいで可愛い人を、見たことがなかった。

 馬車から降りてくる時、視線を外すことができなかった。


 でも、一瞬でそれは、形になる前に、砕け散った。


 兄さまの婚約者になる人だから。



 エリーゼの耳に、ロイドから贈られたであろうイヤリングが付けられていることに、サイラスは気付いた。


 あ……あれは、やばいやつだ。

 位置を感知できるように、特注してたやつだ。

 反呪の付与もあるみたいだけど。

 もう同情なんてものではないな、申し訳ない気持ちになってきたぞ。



"「エリィが婚約者とか良いなぁ……兄さまをうらやましいと思うなんて初めてだ。あ、まだ候補か」"


 あれは、本当にうかつだった。

 あんな長い台詞、話したの久しぶりだった。

 でも、きっと兄さまにはバレてない。



 リリアナには絶対にバレてるだろうな。

 好みは同じだし、少しの動揺にも気付かれるくらいだ。

 でも、お互いに話題にはしたことはない。

 暗黙の了解ってやつだろう。

 あとは、あれだ。

 アリスト皇太子殿下には、気付かれてんだろーな。


"「君もか」"


 見抜かれてしまって、心臓が止まったかと思った。

 あの時、言われてしまったらどうしようかと、さすがに動揺した。

 恐かった。

 兄さまにバレて、側にいられなくなったら、どうしようって。




 ある日、悲しそうに、というか申し訳なさそうに、エリーゼがサイラスを見てきた。

 もうリリアナと手を繋いでいるのに、サイラスとはまだ手を繋がず、少ししょんぼりしている。


 さすがに見つめられると緊張するけれど。

 サイラスは「平常心平常心平常心」と自分の脳と心臓に言い聞かせて、首を傾げてエリーゼを見た。


「サイラスとは、手を繋がない方が良いかしら?」


 はああぁぁぁあ??


 突然のエリーゼからの申し出に、サイラスは首を傾げたまま動揺を隠せない。

 青ざめて、涙が出そうだ。


 隣で驚いているリリアナには、気付きもせず。


 リリアナとサイラスが何とか聞き出すと、エリーゼは申し訳なさそうに説明をした。

 どうやら、そろそろ婚約者が決まる時期だろうから、兄の婚約者と手を繋いでいるなんて、醜聞になるのではないかと考えたらしい。


「……それなら、大丈夫」


 ぶっきらぼうに、サイラスが手をエリーゼの方へ出すと「本当に?」とエリーゼは懐疑的にしながら、遠慮ぎみにサイラスの手を取った。


 やばいな、これだけで嬉しいなんて。


 しかし、いつかは止めなければならないのは分かっている。

 いい年で義弟と手を繋いでいたら、エリーゼの悪評が広まってしまうだろうから。

 面白おかしく話題にしたい輩なんて、世の中に山ほどいるのを知っている。



 その時期が、来るまでは。


 密かな俺の幸せを、許してほしい。





 父親のカガリー辺境伯にリリアナとサイラスが執務室へ呼び出され、椅子に座っている父親の前に机を挟み、2人は姿勢良く立っている。


「いや、俺はパス。エリィの護衛になる。兄さまの信頼の置ける人間なんて、リリアナか俺くらいだろ。だから、俺がなります」


 2人それぞれの婚約の話になったけれど。

 今、護衛になることを理由に、サイラスが断ったところだ。



「……それで、良いのか?」


 カガリー辺境伯は真剣に聞いている。


「私、サイラスの長い台詞、久しぶりに聞いたかも」


「うっせえわ」


 サイラスは真っ直ぐ父親の方を向いたまま、茶化してくるリリアナを見ずに悪態をついた。


 正確に言うと、見ることができなかった。

 ボロが出て、父様にまで勘付かれてしまっては、計画が台無しになってしまうから。




 俺は、結婚なんてしない。

 この人を1番にして護るには、そんなのは邪魔でしかない。

 誰からも何からも護れるように、強くなりたい。


 いつか必ず、兄さまよりも。




「サイラス!」



 そう笑顔で呼んで、手を差し出してくる、この人が好きだ。


 平然と手を繋いでくる、この人が憎らしく思う時もあるけど。


 さらって一緒にどこかへ行ってしまいたくなる。

 そんなこと、しないけれど。


 誰よりも、大好きだ。


 今も、これからも、ずっと。



 これは、永遠に俺だけの、内緒話。




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