閑話休題1〜はじめましての再会(sideロイド)
本当に、本当に久しぶりに、エリーゼに会える日がやってきた。
しかも婚約者候補としての顔合わせで、ロイドは激しく緊張して馬車に揺られていた。
ロイドの緊張という名の馬車酔いで、何度か馬車を止めながらも、予定通りの時間にミロウ侯爵家にたどり着いた。
それがカガリー辺境伯夫妻の読み通りだとは、ロイドは知る由もない。
緊張しながら馬車を降りると、目を大きくしたエリーゼと目が合った。
え。
もしかして、覚えてんのか?
思い出したか?
ロイドは動揺して動けなくなってしまったが、エリーゼの挨拶でそうではなかったと思い知ることになる。
"「はじめまして。ミロウ侯爵家が次女、エリーゼ・ハゥル・ミロウと申します」"
ああ、エリィはやっぱり、俺を全く覚えてねーのか。
分かってはいたことだけれど、現実を目の前にするとロイドは落胆の気持ちを隠すことができず、一瞬顔に出してしまった。
エリーゼに気付かれてはいないはずだけれど。
"「……はじめまして。ロイド・フォル・カガリーです」"
そうか、ここから始めんのか。
ロイドは2度目のはじめましての挨拶を、エリーゼに向けて行った。
取り戻した魔力の核をエリーゼに戻すと、魔力は戻るけれど、核を抜かれ殺されかけた記憶も戻ってしまう。
ロイドが傷を負ったことへ、責任を感じるかもしれない。
そして、聖女としての地位が確立するかもしれない。
それだけでは済まない。
ロイドとエリーゼの、まだ見合い段階の正式ではない婚約話なんて、簡単に無かったことになり、恋敵の婚約者になってしまうかもしれないのだ。
この国での100年振りの聖魔法を使う聖女は、それだけ大きな存在だ。
実は、そのために、エリーゼとアリストは幼い頃から頻繁に会わされていたのだとか。
それだけでも、ロイドは気が気でなかったのに。
大切なエリーゼの精神に、どう影響するかも分からない。
核を、どうするのが良いのか、ロイドは勿論、エリーゼの両親も悩んでいるのだ。
"「お、お茶でも、どうですか? 疲れて、いなければ」"
……まあ、これはこれで、悪くねーかも。
緊張しながらも話かけてくる、可愛らしいエリーゼを見て、ロイドはついつい嬉しそうな顔をしてしまう。
「喜んで」
何とか自らもぎ取った婚約話を、見す見す手放すなんてことはしないと、ロイドが心に決めた瞬間だった。
やっぱり、エリィはエリィだ。
可愛くて、可愛くて。
どうして手放せるだろうか。
◇
エリーゼの核を取り戻し、カガリー辺境伯家でミロウ侯爵家への報告を、丁寧に準備していた時だった。
そろそろエリーゼが婚約をという噂が入ってきて、居ても立ってもいられなくなったロイドが、急いでミロウ侯爵邸へ向かう準備を始めた。
両親がなだめようにも、父親と剣を交えてでもロイドはもう止まることができない。
エリーゼが釣書を豪快に裏返す2日前だった。
もしエリーゼに意中の相手がいなければ、自分にしてほしいと頭を下げに、ロイドはミロウ侯爵家まで単独で馬に乗って訪れたのだ。
エリーゼの核を取り戻したという、報告書を持って。
ミロウ侯爵夫妻は非常に驚いていたが、今まで諦めることなく対応し続けてきたカガリー辺境伯家に、それを遂行したロイドに、感謝しかなかった。
「どうか、俺にチャンスを下さい。もし万が一、エリィに何かあったとしたら、次は必ず、俺が守ります」
中途半端な反呪魔法しか使えず、エリーゼを守れなかったのが悔しくて悔しくて、ロイドは今でも夢に見るくらいだ。
もう2度と、あんな経験をエリーゼにさせたくないし、自分もしたくないと切実に思っている。
そのために、今まで勉強も鍛錬も欠かさず、文武両道でロイドの名を国に轟かせるほどになったのだ。
家族が心配になるくらい、悪い話も、浮いた話も、1つも耳に入ってこない。
違った意味で心配はしているらしいけれど……
「そのために、毎日を生きてきました」
幼い頃のロイドを知っているミロウ侯爵夫妻が、その言葉を受け入れるには十分だった。
そして、やっと、やっと、ロイドはエリーゼと、はじめましての再会をすることができた。
しかも、婚約者候補として。
嬉しくて嬉しくて、どんなことも笑って済ませられる気がした。
"「宣戦布告にきた」"
気のせいだった。
これは笑えなかった。
幼い頃からの腐れ縁の、高貴な友人に言われてしまったけれど、ロイドはエリーゼに関しては譲るつもりはない。
律儀なあいつのことだ、きっと今まで俺に気を使ってたんだろうな。
フェアじゃないとか言いそうだ。
でも、俺は"「はじめまして」"なんだ。
その時点で、フェアじゃねーから。
あいつは……幼馴染のままで良いだろ。
エリィが、どうか俺を選んでくれますように。
記憶がないことを、エリーゼが話し始めた時。
本当に驚いて動揺してしまったけれど、何とか冷静にやり過ごしたはずだ。
エリィの幼い頃の記憶に、俺がいなくても良い。
俺が覚えている。
俺の唯一で、中心で、全てだ。
大切なのは、これからだろ。
もう2度と、危険な目に遭わせたりなんかしねぇ。
正式に婚約者になれたら、絶対に離してなんかやらない。
自分の全てを持ってして、エリィのそばに。
何からも、守ってやるから。
エリィが俺を忘れてしまってからも、ずっとずっとエリィだけを想って生きてきた。
もう決して、誰からも奪わせない。




