表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/52

44【最終話】…何度でも、あなたに

「ああ……もうすでに、きれい」


 エリーゼは街の景色を見下ろしながら、1人で感嘆した。


 様々なことがあり、やっと心が落ち着いてきたところだ。


 姉のアリアについては、本人の意志ではない継承による元呪術者であり、今は呪術を扱えないため、お咎めなしとなった。

 カイヤ伯爵家に戻って、溺愛してくる夫の意向により、念の為に療養しているそうだ。


 聖女の条件を満たしているエリーゼを、目の前で見た皇帝は、やはり皇太子妃にほしいと言い始め、連日のように打診がくるようになった。

 旧知の仲であるミロウ侯爵相手だからだろう、なかなかしつこい。

 アリストはあきれ顔で謝っているけれど。

 ミロウ侯爵邸に来た皇帝を見た時、ジュークが本気で掴みかかりそうだったとか。


 学園が長期休暇に入り、ミロウ侯爵邸へ戻ったばかりだというのに、エリーゼは逃げるようにカガリー辺境伯邸へとやってきて、先ほど到着したところだ。

 ミロウ侯爵もジュークも、怒りの形相で皇城からの使いを追い返し、エリーゼを馬車に乗せてくれた。

 皇帝はカガリー辺境伯には敵わないので、さすがに手を出さないだろうと。

 しばらく滞在する予定にしており、少し辺境伯夫人の仕事を手伝わせてもらえるらしい。



 エリーゼはゆっくりと深呼吸して、遠くを見ている。

 何度思い出しても、幸せな記憶しかない、この場所に来たかったのだ。


 近くの街を見ることができる、カガリー辺境伯邸の敷地内にある絶景スポットに、エリーゼが1人で立っている。




「いた。エリィ……」


 ロイドが息を切らして現れた。

 エリーゼが到着したはずなのに、屋敷内に入らず、どんどん離れていくのが分かり、急いで来たのだ。

 もう危険ではなくなったけれど、エリーゼが1人で立っていることに、まだロイドが慣れていないのだろう。

 少し挙動不審になっている。



 あと少しで、夕日の時間だ。


「今日はきっと、きれいだろうなと思って」


 笑いながら、そう言うエリーゼがとてもきれいで、ロイドはやはり見惚れてしまう。


「……ご一緒しても?」


 ロイドはエスコートするように手を出した。

 エリーゼが記憶を取り戻してから、スキンシップが少し遠慮がちになってしまったのを、本人は気付いていないらしい。

 余所余所しくて、エリーゼは寂しいのだ。


 前までは、何も言わず手を繋いでいたのに。


 一瞬エリーゼは悲しそうな顔をしたけれど、やっぱり嬉しそうに「もちろん」と言って、ロイドの手に自分の手をそっと置いた。



 夕日の景色が広がっていくのを、静かに見守っている。


 話し難そうに、ロイドが景色を見ながら、ため息のような深呼吸をして、口を開いた。


「正式に、婚約が決まるらしい」


「本当? 良かった」


 エリーゼは、まだこちらを向かず夕日を見ているロイドを見ながら、少し寂しそうに笑った。


 ロイ、こっちを見て。



「このまま婚約してくれんのが、俺は嬉しい。でも、俺だけ嬉しくても……エリィは聖女として生きる道は、良いのか? せっかくの聖属性だ。そうすればアリストが……」


 ロイドは、エリーゼの方を見ることができないまま、言葉を止めてしまった。

 夕日の方を向いて、悲しそうな気持ちを隠しきれず、辛そうな表情をしているのだ。



 ロイは、それを気にしてたの?

 それなら、きっと、今伝えた方が良い。

 今まで言えなかったけど、きっと今が言う時。



 エリーゼは何も迷いのない顔をして、笑いながら首を振った。

 そして、真っ直ぐロイドへ向いた。


「幼い頃を、ずっと忘れてしまっていたけど、ロイのお陰で、今まで私は幸せに生きてこれたわ」


 自分の気持ちを相手に伝えようと思うと、やはり緊張してしまうものだ。

 鼓動が落ち着かないのは、分かっているけれど、逃げてしまいたい気持ちにもなる。

 けれど、結局のところ、声に言葉にしてしまわなければ伝わらず、分かり合えなくなってしまう。


 ロイと分かり合えないのは、嫌。


 エリーゼはロイドと触れていない方の手を、緊張しながら握りしめた。


「あ、あのね、忘れていたからこそ、できたことがあって」


 姿勢を正して、少しかしこまったエリーゼは、深呼吸をして、ロイドをのぞき込んで目を合わせた。

 そして、意味有りげな顔をして、ピースサインを作ってロイドに見せた。


 ロイドは目の前にあるエリーゼの手を見て、本当に分からないと、首を傾げた。



「2度目なの!!」


 エリーゼは手を戻さず、あっけに取られているロイドにぐいっと近付けた。




「私はあなたに、2度、初恋をしたの」




「はっ……?!」


 エリーゼはついに、何度か伝えようと思っていたけれど、伝えられなかった大切なことを、やっとロイドに伝えることができた。

 緊張と、言えたことへの安心と、どんな反応をされるかという不安とで、涙目になりながら。


「小さい頃、ロイのいない所で、ロイと結婚したいって、何度も言ってたの」


 少し照れくさそうに言うエリーゼを見ても、目を大きくしたロイドは、信じられないという顔をしているけれど。


「……夢か」


 今にも泣きそうなロイドの服をつかんで、エリーゼはロイドの目をまっすぐ見た。


「夢だと思わなくなるまで、何度でも言うわ。ロイ、ずーっと、今までも、これからも、大好きよ。こんな気持ちを教えてくれて、ありがとう」


 ロイドは自分から流れ落ちる涙を気にも留めず、エリーゼの頬に触れて、優しく唇にキスをした。



「私は、ロイと生きていきたいの。聖女なんて、表向きに存在しない方が良いのよ。陰で、お手伝いするくらいが、きっと丸く収まる思うの」


 エリーゼは愛おしそうに、ロイドの涙を手で拭いた。



「……恐かったんだ。記憶が戻ったら、婚約はダメになるんじゃないかって」


「? なぜ?」


 解せない顔で見てくるエリーゼと、ロイドは目が合わせずに小さくつぶやくように言った。


「幼い頃、他に、他の奴を想ってたり……」


 エリーゼは短いため息をついた。


「私はずっと、ロイが1番よ?」


 先ほどからのエリーゼの直球に、ロイドは顔を真っ赤にし始めている。


 記憶を取り戻したエリーゼは、ロイドにはド直球でいかなければ、しっかり伝わらないことを承知しているので、こんなことになっているのだ。

 幼い頃、エリーゼはあんなに大好きを表現していたのに、全くと言って良いほどロイドに届いていなかったようだから。



 ロイドはというと「信じられない」「上手くいきすぎてる」と独り言のようなことを言い始めている。

 こういうところも、ジュークにこじらせていると言われている点なのだけれど。


 エリーゼは首を傾げなら、そんなロイドを愛おしそうに見ている。


「大好きよ」


 そんなエリーゼに気付くことなく、まだ落ち着かないロイドだけれど。

 意を決した顔をして、エリーゼの目を見た。



「……キスして良いか?」


 突然の言葉に、今度はエリーゼの顔が真っ赤になってしまった。


「え、あの、さっき」


 今さっき、もうしたわよね。


「本気で」


 本気で?! そんなのあるの?



 2人はしばらく同じような顔をして、沈黙して見つめ合い、吹き出して幸せそうに笑った。



「やっと手に入れたんだ。頑張って受け入れてくれ」


「ど、どんとこい……」


 また2人で笑って、ロイドはエリーゼを抱き寄せて、宣言通りに本気でキスをした。


 酸欠になって、エリーゼがロイドを叩いて止めるまで。



 そして、また幸せそうに笑うのだ。



 もう沈んでしまった、残り火のような夕日を背に、エリーゼとロイドは手を繋いで戻っていく。


 時々、立ち止まってはキスをして。


「「大好き」」


 まだまだ言い足りない。

 貯まっている10年分の想いを、これから2人で伝えていこう。




 エリーゼの幼い頃の記憶は、悲惨なものはあったけれど、全てがエリーゼにとって大切な宝物だった。


 芽生え始めていた恋心。


 ピンチの時に助けてくれる王子さまのように、守ってくれていた男の子。


 宝箱に入れていたように、納められていた記憶。



 あなたは、いつも私の真ん中にいる。


 何度でも、私はあなたに恋をするの。


 でも、もう2度と忘れたりしない。


 そして、これから一緒に、記憶に残る思い出を作るの。






 【完】


いいね、ブックマーク、評価、ありがとうございます。

五体投地で御礼申し上げます。


続いて、SSを投稿していきます。

他の人目線を数話と、〆は数カ月後のエリーゼとロイドのお話の予定です。

引き続き、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ