42…指標
やっぱり、ロイは見つけられない。
「あ、アリス、みーつけた!」
にこにこ笑っている幼いアリストが、茂みから出てきた。
エリーゼは「行こう」と手を出して、2人は手を繋いで庭園を歩いていく。
今は、エリーゼとロイドとアリストで、かくれんぼをしているのだけれど。
気配を消すのが上手なロイドを見つけるのが難しくて、毎度2人でロイドを探すことになるのだ。
ガサッ
「あ! ロイ!! みーつけた!」
エリーゼはアリストの手を離して走り出し、ロイドに飛びついた。
ロイドはそうなるのが分かっていたのか、難なく受け止め、くるくる回った後、離れ難そうに抱きしめてから、楽しそうに笑うエリーゼをふわりと着地させた。
それを不服そうに、アリストが見ている。
これが、お決まりの3人でのかくれんぼだ。
エリーゼが見つける側の時、アリストと一緒に探し始めれば、すぐロイドが見つかるのだ。
だから、かくれんぼで鬼をする時は、エリーゼは最初にアリストを見つけることにしている。
ある日、大きな行商が街にやって来て、領地内の街に多くの露店を出したいと、ミロウ侯爵家に許可の伺いの手紙がきた。
エリーゼとロイドと2人の母親は、視察という名の買物のために街へやって来たところだ。
いつもより、街が浮足立っている。
どこかしらで美味しそうな匂いがして、珍しい物が売られているし、子どもたちにとっても大人にとっても、魅力的な未知の世界が広がっている。
「すごいね!」
手を繋いだエリーゼとロイドは、母たちの姿を確認しながら先を行き、お店を眺めている。
「これが良い。エリィの目みたいで、色がきれいだ」
買ってもらったピアスを受け取ると、ロイドは迷うことなく針のようになっている部分を耳に刺した。
「いーっ!! ロイ、痛いよ?!」
「大丈夫」
満足そうに言うロイドを、エリーゼは心配しながら見ているけれど。
もうロイドはケロッとして、次に買う予定のエリーゼの木箱を選ぼうとしている。
「きれいな木箱に、お手紙を入れるの。ロイ書いてくれる?」
「うん、書くよ」
ロイドが細工のきれいな木箱を幾つか見つけ、エリーゼが1つ選んだ。
この後すぐに、件の湖畔での出来事が起こる。
ロイドからの手紙は入れられることなく、10年の時が過ぎ去ることになる。
エリーゼとロイドの買物が終われば、次は大人の番だ。
大人たちが熱心に眺めている近くで、エリーゼも覗き込んだりしているが、ロイドは暇で仕方なさそうだ。
あっちにこっちに行っていると、姿が見えなくなってしまった。
「ロイがいない!!」
護衛たちもロイドの姿を追っていたのに、こつ然と消えてしまったと言う。
「大丈夫よ、ロイドはそれなりに強いから」
カガリー辺境伯夫人はエリーゼを安心させようと声をかけたが、ロイドが見えなくなった場所を捜索して、ある物が見つかったことで、穏やかな雰囲気は一転する。
「これは、魔法封じの紐だわ。まずいわね……これは、ロイドの苦手な物なのよ」
気丈に振る舞っていたカガリー辺境伯夫人だったが、顔色が少しずつ悪くなっていく。
それを見て、エリーゼも状況が良くないことが分かってしまい、涙目になって震えながら、母親にしがみついた。
「ロイは、私が見つけるの。いつも、かくれんぼしてるから。見つけられる」
涙をポロポロと落としながら、エリーゼは必死に人混みを進んでいく。
ロイがいないと、こんなに恐いんだ。
会えなくなるなんて、嫌だ。
ずっとずっと、会っていたい。
ロイ、どこ?
人混みに紛れて、数人の大人たちに連れられた多くの子どもたちがいる。
その中に、姿は違うけれど、先ほどロイドが買ったピアスを付けている子どもがいる。
「ロイ!!」
エリーゼが走り始めたので、ミロウ侯爵夫人を護衛に任せ、カガリー辺境伯夫人が走って追いかけていく。
「ロイ!! 見つけた!!」
エリーゼが、ある子どもを指さした。
その子どもは、諦めたような顔をしていたけれど、目を大きくして輝かせてた。
カガリー辺境伯夫人が解呪の魔法を子どもたちに向けて放つと、その中からロイドが現れた。
と同時に、エリーゼは迷うことなくロイドに飛びついた。
「ロイ。ロイは、私の真ん中なの。いなくならないで」
魔法で姿を変えられて、魔法封じの腕輪を付けられて、半ば諦めていたロイド。
涙目になり、エリーゼに抱きつかれたままでいる。
「ロイド、シャンとしなさい。エリィちゃんが見ないで良いように、ギュッとしてて」
ロイドは「はい」と姿勢を正して返事をして、母親に言われた通りに、エリーゼを抱きしめて視界を遮った。
エリーゼはロイドに抱きついたまま、誘拐犯が苦しんで倒れていく声だけを聞いていた。
そういえば、何が起こっていたのかしら……
「? ここ、は?」
エリーゼが眩しそうに目を覚ますと、部屋には母親のミロウ侯爵夫人がいた。
自室の寝台に寝かされている。
疲れ切った母親が見えたので、エリーゼは目の奥が熱くなった。
「お母様……」
「エリィ、どこか痛いところは? 体調が悪かったりしない?」
目が覚めた娘の姿に安心したのか、泣きそうな顔をしたミロウ侯爵夫人はエリーゼの頬を触った。
「ありがとうございます。大丈夫です。あの……お姉様は?」
「皇城に運ばれたの。例の件は秘密裏にしているから、反呪の結界が施された来賓室で寝かされていて、まだ目を覚まさないけど、念の為に監視を付けられているわ」
「そうですか……」
「エリィも、事情聴取はされるみたいだけど、体調が良くなってからで大丈夫と言われているわ」
エリーゼは「分かりました」と答えながら、部屋を見回した。
「さっきまで、ロイドくんがいたのよ。私はさっき交代したの」
「私、今から探してきます。聖属性のお陰で、もう体調は大丈夫だから」
エリーゼは取り憑かれたように部屋から出て、ロイドを探し始めた。
何だか、幼い頃のかくれんぼをしているような感覚がして、むず痒くなる。
なぜか、寝ているはずのエリーゼが早歩きをして何かを探しているので、従者たちは驚いた顔で不思議そうにお辞儀をしていく。
にこにこと楽しそうに手を振って応えるエリーゼが、彼らを笑顔にしていく。
あ! いたわ!!
「ロイ! みーつけた!!」
エリーゼは走って、驚いているロイドのもとへ行き、そのまま飛びついた。
幼い頃を彷彿とさせるそれは、ロイドに悲しいくらいの懐かしさを感じさせるには十分だった。
自分の胸もとにきたエリーゼを強く抱きしめて、ロイドは泣いてしまいそうだ。
抱きしめてもらい、満足したエリーゼは顔を上げた。
そして、長い間会えていなかった恋人に会えたかのように、ロイドの頬を両手で包み、確かめるようにしっかり見つめている。
ロイドの耳には、エリーゼが卒業祝いで渡したピアスの横に、幼い頃から付けているだろうピアスが泰然と座している。
「ロイは今も、私の真ん中だわ」
エリーゼは笑顔でそう言った。




