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40/52

40…外れる。

「こんなに踊れるようになるなんて。去年の私に教えてあげたいわ」


「俺もだ」


 エリーゼとロイドは笑いながら、もうお手の物になったダンスを披露しているところだ。

 順番待ちは何人かいるようだけれど。


 今日は、年度末のミロウ侯爵家のごく少人数でのパーティーの日。

 年に1度、この月のパーティーだけはアリアも戻って来る。

 唯一ミロウ侯爵家の全員が集まる、貴重な時間だ。


 参加者は、勢揃いのミロウ侯爵家と、そこにロイドとカガリー辺境伯、双子のリリアナとサイラス、こっそり来ている皇太子のアリストで、小ホールは立食のアットホームな雰囲気になった。


 子どもたちの学園生活を頑張ったご褒美にと、家族での小さなパーティーをしていたのが、アリストが参加したり、親戚が来たり、今では小ホールでダンスもありのそれとなった。

 以前、皇帝がアリストに付いてサプライズで来てしまったことがあり、ミロウ侯爵家の従者たちが緊張で涙目になって給仕していた。

 楽しそうに笑う皇帝と、あきれ顔のミロウ侯爵の様子を、この時期になると従者たちがし始めるのだ。



「お姉様、お久しぶりです」


 エリーゼはアリアの近くへ行き、緊張ぎみにカーテシーをして挨拶をした。

 今年は皇太子即位式で逢うことができたけれど、例年なら、年に1回の唯一挨拶できる機会なので、エリーゼは毎年欠かさず挨拶することにしている。


 距離を置かれてしまっているけれど、年の離れた美しい姉は、やはりエリーゼにとって憧れの存在なのだ。


「ええ。お久しぶり」


 アリアが返事をした瞬間、エリーゼの顔が強張った。


 アリアの足もとに、黒炎が起こったのだ。



「お姉様!!!!」



 エリーゼの悲鳴のような叫び声で、すぐに全員が視線を2人に移した。



「いやっ……」


 黒炎に驚いたアリアが、後退りしていく。

 けれど、黒炎は留まらず、アリアに付いていくように移動するのだ。


 すると、あっという間に、その空間に黒い呪物が浮いて現れ、次から次へと増えていく。



「第一側妃は監禁してんだろ?!」


「もちろんだ! 奴は今、外部に一切干渉できないように厳重に結界も張って、監視もされている」


 ロイドの怒号のような声に、同様にイライラしているアリストが声を荒げて答えた。



「何がどうして……」


 ジュークは自分の感情を抑えながら、ロイドやアリストのやり取りを聞いている。

 すぐにでもエリーゼのもとに行きたいのだが。



 皆が皆、自分の身を守ることだけに手を取られ、エリーゼのもとへたどり着けない。





 黒炎の中のアリアが、エリーゼを懸命に強く押して、突き放した。


「キたらダめ、ニゲて」


「お姉様……」


 自我が無くなっていく辛そうなアリアと、エリーゼは目が合った。

 もうアリアの目は、人のそれではなくなってきている。



 何も考えられなかった。

 お姉様から、離れてはならない気がしたの。



 黒炎に包まれていくアリアを、エリーゼは迷うことなく飛び込んで、抱きしめた。


「ダめ……ハな、れテ……」


 エリーゼは精一杯、首を振った。



 勢いを増した黒炎は、無情にもエリーゼとアリアを一瞬で飲み込んだ。





「エリィ!!!!」



 カガリー辺境伯は、突っ込んで行こうとするロイドのもとへ急ぎ、腕で首を締めて止めた。


「待て! あれは反呪でどうにかなる物じゃない。突っ込んでいっても、周りに迷惑だ」


 ロイドはカガリー辺境伯に止められて、身動きを取れなくなった。

 今すぐエリーゼのもとに行けないのも、父親にまだ敵わないのも、両方相まって悔しくて仕方がないという顔をしている。


 そんな父と兄を見て、リリアナとサイラスは「化け物親子」とドン引きしながら、残っている少なくない呪物を淡々と消していく。


 リリアナとサイラスがどんなに頑張っても勝てない全力のロイドを、父は片手で封じているのだ。

 心なしか、双子は父兄から遠ざかるようにしている。


 カガリー辺境伯は片手でしっかりとロイドの首元を、片足でロイドの足を、ホールドしている。

 魔力も込めているので、ちょっとやそっとでは抜け出せないようだ。

 我を失って力任せに抵抗しているロイドを、とにかく押さえ付けている。

 それでいて、片手で剣を振り回し、2人の周りに来る呪物をきれいに消すのだ。


 次第にロイドが諦めてきて、冷静になりそうなのを確認すると、カガリー辺境伯は話し掛けた。


「エリーゼ嬢は聖属性だ。物理攻撃はなさそうだから、我々と違って危険ではないはずだ。簡単に記憶を失ったりしない」


 ロイドは恐いのだ。

 またエリーゼに何かしらのことがあって、自分が忘れられるのではないかと。


 その事を見抜いていた父親にたしなめられ、少しずつだけれどロイドの耳に他者の言葉が入っていく。


「……あれで危険じゃねーとか、本当かよ」


 カガリー辺境伯は短いため息をついた。


「ああ、大丈夫だ。今、お前のやるべきことは?」


 父親の言葉を聞いて、はっと我に返ったロイドは、抵抗しようとしていた力を抜いた。



「すみません、取り乱しました。呪物を潰します」



 カガリー辺境伯父子が現場へ戻ると同時に、大半の呪物が一瞬で消えた。


「「こわっっ」」


 リリアナとサイラスは、父兄を見てボソッとつぶやきながら剣を振っている。





"「大丈夫よ。何があっても、私は必ず、あなたのもとへ戻るわ」"




 ロイドは、いつかのエリーゼの言葉が聞こえたような気がして、黒炎の渦巻きに視線をやった。





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