39…落着の思惑が、
エリーゼは学園で魔法を更に学び、皇城や学園で禁書を読み、聖魔法の使い方を学んだ。
本を読みながら、胸に手を当ててブツブツとつぶやきがら、時に指を振ってみたり。
目を輝かせながら「ロイ、練習させて!」とロイドを練習台にしたり。
回復しすぎて、ロイドが夜眠れなかったり。
聖魔法のキラキラが消えず、1日中ロイドが発光していて、ジュークが抱腹絶倒したり。
時々、そんな失敗もしながら。
エリーゼは順調に聖魔法を習得していった。
聖魔法の禁書は、聖属性の魔力を持っている者しか開けない、読めないようになっている。
エリーゼは自分の属性を分かってはいたけれど、本を開けて読めることで、実感せざるを得なかった。
そして、それはロイドもだった。
初めて目の当たりにする事象を、感心のような動揺や諦めのような複雑な表情で、ただエリーゼを見ていた。
エリーゼが皇城で禁書を読みに登城した日。
アリストと歩いて来賓室へ入ると、待っていたロイドとジュークが何やら言い合いをしていた。
「そろそろ、やめろって言ってんだけど」
「……考えとく」
「絶対考えないだろ。あの付与魔法を外せよ」
エリーゼとアリストが扉をノックして入ると、2人が振り返った。
「あの付与魔法?」
首を傾げているエリーゼの後で、言い合う2人を見てアリストがため息をついている。
「帰るんだろ? エリィ、エスコートするよ」
エリーゼはアリストにエスコートされて、注目を浴びながら広い廊下を歩き、待機させている馬車へ向かっている。
ここは吹き抜けのようになっており、たくさんの大きな窓からは心地よい風が通り抜けていく。
後方で、まだ言い足りないジュークとロイドが小声で言い合いをしていたが、急に静かになった。
エリーゼが気付いた時には、ロイドが抜剣する音が聞こえてきた。
同時に、ロイドの舌打ちが響く。
第一側妃のシンドア国出身の騎士たちが、あちらの方から迷いなくエリーゼの方にやって来ている。
黒炎をまとっている様を見ると、媒介になっていることが分かる。
「ジューク、エリィとアリストの防音防御を頼む。エリィ、耳塞いで、目閉じてろ。早く!」
直ぐにエリーゼは、ロイドに言われた通りにした。
防音も防御もするのに、なぜだろうと思いながら……
エリーゼのそれを確認すると、ロイドは思いのままに剣を振り、反呪を使い始めた。
まるでロイドのソロの剣舞にも見える光景は、その場に居合わせた皇城の者たちだけでなく、ジュークとアリストも見入ってしまう。
美しい鬼人となって、全てをいなしていく。
媒介の人間が何人もいて、呪物もたくさん出現していたのに。
アリストから、容赦しなくて良いと事前に許可が出ていたので、ロイドは順調に戦闘不能にしていく。
それでも命を取らない配慮をする余裕があるのは、やはりロイドが素晴らしい剣術者だということだ。
しかし……
「あのさぁ、エリィへの配慮は褒めるけど……でも、この場を見せられないから、そのままエリィは連れて行くよ」
ジュークがあきれたように、とりあえずの感謝を伝えて、馬車へ急いだ。
満足そうなロイドとアリストは、皇城の方へ返って歩き始めた。
返り血も拭かず、血の池の中を、バシャバシャとためらわずに歩いて。
「決定打だな。第一側妃は監禁だ」
そう言った後、アリストはロイドを見ながら、もう一度口を開いた。
「僕は振られたけど、想いはどうしようもなくてさ。だから、今まで通りに、エリーゼファーストは止めないよ」
スッキリした顔のアリストが、ジュークに連れられて行くエリーゼを見ながら優しく微笑した。
まだ目を閉じたまま、ジュークに支えられて歩いている。
「ああ……」
ロイドは覇気なく返事をして、エリィが出ていくのを一度確認して、皇城の中へと入っていった。
「とりあえず、属性が理由でエリィが狙われることは、もうないはずだろうけど」
ジュークの独り言を、まだ耳を塞いで目を閉じているエリーゼは聞いていない。
エリーゼの手をそっと持って外させて、もう目を開けて良いことを伝えた。
「ジュジュ、何があったの?」
「媒介になった人たちが来たから、ロイドが倒してくれたよ。2人は、その後の対応をするために皇帝へ謁見するために残ったよ」
命は取らなかっただけで、容赦なく斬りにいっていたから、辺りは血まみれ、現場は血の海の惨状になっていたし、ロイドも返り血を浴びて不気味なことになっていたなんて、エリーゼには伝えることもなく。
「エリィはロイドと仲良くやってる? 最近ロイドが不安定じゃない?」
「え?! 仲は悪くないと思うけど……確かに、何かちょっと変だなって思うことはあるかも。よくは分からないけど」
人の恋愛沙汰に首を突っ込むのは、だいたいが余計なお世話になるので、静観するのが一番だ。
なにはともあれ、ジュークの願望だった第一側妃の監禁が決定した。
第一側妃は外部と一切連絡が取れないようになったのだ。
年度末毎に開催している、ミロウ侯爵家の身内と近しい知人だけで開催するパーティーがある。
何かあるかもしれないと、ジュークは気が気でなかったけれど。
「不安材料が、少し、減ったかな」




