表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/52

32…幼い頃②ねぇ笑って

 今日は朝からカガリー辺境伯邸は慌ただしい雰囲気だ。

 あちらこちらで、従者たちが忙しく仕事をしている。

 昨日から滞在しているミロウ侯爵家一行も、同様にせわしなく動いている。


 お昼辺りに、皇太子殿下を連れた馬車が到着する予定なのだ。

 屋敷の従者たちも総出の体制で、緊張した面持ちで仕事をしている。


 皇帝とミロウ侯爵、カガリー辺境伯の3人は、同じ年で幼馴染、もちろん学園も同じで、良いことも悪いことも共に経験した仲だ。

 信頼の置けるミロウ侯爵家やカガリー辺境伯家に、よく息子を送り込んでくる。


 そんな大人たちの事情なんてお構いなしで、エリーゼは今、溺愛している弟をロイドに紹介しているところだ。


 ジュークはソファで乳母の隣にお座りして、にこにこしながらエリーゼに手を伸ばしている。


「ジュークっていうの。可愛いでしょ?」


 ニコニコと嬉しそうに紹介するエリーゼに、ロイドはふーんという感じで流しながら聞いている。


 昨日からずっと、寝ている時まで自分にベッタリとくっついてくるエリーゼに、ロイドは慣れて上手く対応し始めた。



「また後でね、ジュジュ」


 エリーゼがジュークのほっぺたにキスをして、にっこり笑った。


 それをじっと見た後、ロイドはエリーゼの頬にキスをした。


 目を輝かせたエリーゼは、ロイドに振り返ってにっこり笑った。

 そしてスキップしながら少し近くにいた母のもとへと行き、嬉しそうに飛びついた。



 その隣で、驚がくしているロイドの母がいるのだけれど、息をするのを忘れていそうだ。





 お昼前、皇家の馬車がやってきて、子ども2人にアリストが仲間入りした。



 昼食まで遊んで良いと言われて、アリストが「行こう」とエリーゼと手をつないだ。


「ロイも、いこ!」


 迷いなくエリーゼが手を伸ばすと、ロイドは目を大きくした後、嬉しそうに手を出した。


 あ!! やっとロイが笑った!

 初めて見た。可愛い!!


「庭に行こう。ブランコ好きだろ」


 笑顔のロイドにそう言われ、エリーゼはにっこり笑って、ロイドの手を強く握って「うん!」と返事をした。

 手を繋いだ3人は、一緒に走っていく。


 驚きすぎて震えている、カガリー辺境伯夫人に気付くことなく。



 エリーゼがブランコに乗りながら、押してくれているロイドの方を振り返った。


「ねぇ、もっかい、わらって」


「え、嫌だ。危ないから前向いてろ」


 恥ずかしそうにしながら、ロイドはエリーゼを優しく押している。


「なんれ、いや?」


「危ねーから、本当、前向けって」



 隣のブランコに乗っているアリストが、膨れっ面で2人のやり取りを見ている。


「エリィ、僕には言わないの? 僕は笑うよ」


「アリスは、いつもわらってるれしょ」


 そう言われたアリストは、恥ずかしそうに顔を赤くしてモゴモゴ話し始めた。


「エリィがいっつもニコニコしてるから、特別に一緒に笑ってるんだよ。特別なのに」


「なら俺も特別な」


 突然、ロイドが勢いよく話に割り込んできたので、アリストが悔しそうに、にらみながらロイドの方を向いた。


「は? 真似しないでよ。年上なんだろ」


 ロイドはふんっと鼻を鳴らして、アリストをにらみ返した。


「あ? 年とか関係ねーし」


 エリーゼは嬉しそうにニコニコしながらブランコに乗っている。


「おともらちが、ふえて、うれしいねー!」


「「友だちじゃない」」


 ロイドとアリストが顔を見合わせて、ウエッと同じ様に苦い顔をして、威嚇し合っている。


「ほら、おなじこといってるれしょ。なかよし!」


「「仲良しじゃない」」


 ロイドとアリストはあ然として互いを見ているけれど、このやり切れない感情をどうすれば良いか、まだ2人とも分からないでいる。



「真似しないでよ。僕とエリィの邪魔もしないでよ。エリィは僕のお嫁さんなんだから」


 ふてくされたアリストが、懸命にロイドをけん制し始めた。


「邪魔なんかしてねーし。エリィが俺を離さねーんだ。エリィは俺と結婚したいんだろーな」


 ロイドも負けじと応戦している。


「はあぁぁぁ?!」


 男の子2人はいがみ合っているけれど……


 エリーゼは遊び相手が増えて、笑ってくれなかったロイドが笑うようになってくれて、本当に嬉しくてたまらない。

 2人の会話は全く聞いていない。


 嬉しいな!!

 楽しいな!!






 ん? ま、まぶしい。


「……ここ、は?」


 どこ?

 ブランコに乗ってたけど……

 天蓋が見える。寝てたの?

 あ、誰か座ってる。


「……ロ、イ」


 夢か現かの状態のエリーゼが、目の前に座っているのがロイドだと気付いて、かすれた声で名前を呼んだ。


 エリーゼの声が突然聞こえたので、ロイドがゆっくり顔を上げた。


「ど、して……せっかく、笑えるようになったのに、また暗い顔してる。ロイの笑顔、私、とっても、す」


「エリィ、大丈夫か。どこか、痛いとこは」


 エリーゼが手を上げて向けてくるので、今にも泣きそうな顔をしたロイドが、エリーゼの手を握りしめた。


「無い、よ。ごめん、眠たぃ……もう少し、待って、ぃて、ね」


 最後は聞き取れないくらいの声になって、エリーゼは再び眠りについた。


 ロイドは目を大きくして、激しくなった鼓動で大きな体が小さく震えている。


「今まで、どれだけ待ったと思ってんだ。いくらでも、待つに決まってんだろ」


 独り言になってしまった言葉を、ロイドは寝入っているエリーゼに優しく送った。

 力の入らない両手で、エリーゼの手を優しく包んで。



 部屋には、エリーゼの寝息と、大粒の涙が流れ落ちる音だけが、響いている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ