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31…幼い頃①はじめまして

「いって……」


 土埃がおさまり、目が見えるようになったロイドは、自分が数メートルほど飛ばされたことを確認して、エリーゼを探し始めた。


「爆風はエリィの方から来てたな。無事みてーだけど。反応もあっちだな。皆どこに飛ばされたんだ。何か知んねーけど、すげー爆発だったな……」


 ブツブツと独り言をつぶやきながら、ロイドはエリーゼが居るであろう場所へたどり着き、立ち止まってしまった。



「まじか」



 爆風が起こったであろう場所。

 木も引っこ抜かれ、全てが吹き飛び、数メートルもの範囲がきれいな更地になっていた。



 その中心であろう場所に、エリーゼが倒れている。




 ロイドは走って駆け寄り、エリーゼが息をしていることを確認すると、腰を抜かしたように座り込んだ。


「久々、色々ビビったな……」



 次第に他のことへ気がいくようになると、ロイドが自分の腕が痛くないことに気付いた。

 ふと呪物にやられたはずの腕を見ると、治癒されていることに気付いた。

 よく見ると、擦り傷も跡形も無くなっている。

 ロイドは、ただ土埃まみれになっているだけだ。


「これは。エリィ、だよな」

 




「ご挨拶できるかい」


 小さな女の子が、男の子の赤ちゃんを抱いている母親のスカートを持って後に隠れている。

 父親に言われたので少しずつ前に出て、可愛いカーテシーのようなものをした。


「こんにちあ、はじめまって。エリィれす。3さい、れす」


 挨拶をした先にいる大人たちに褒められ、エリーゼは嬉しそうに、指で3を作って笑っている。



 前にいる大人たちの後に、無表情の男の子が立っている。

 その男の子も挨拶を促されたので、すっと前に出て辺境伯家のお辞儀をした。


「はじめまして。ロイド・フォル・カガリー、5才です」


 ミロウ侯爵夫妻もロイドの挨拶を褒めたけれど、ロイドは無表情のままお辞儀をするだけだった。


 カガリー辺境伯夫妻は申し訳なさそうにして、お茶をする用意が庭園にしてあると言い、案内を始めた。



 今日はとても天候に恵まれて、木陰で庭園の草花を見ながらお茶をするのに絶好の日和だ。


 しかし子どもはそうはいかない。

 動きたくて仕方がないエリーゼは、椅子から下りてロイドの方へ行った。


「ロイろ? あそ、ぼ?」


「……ロイド」


「ロイ、ろ!」


 スムーズに言えずにエリーゼが「ロイ。ロイろ。ロイろ!」と一生懸命に練習している姿を、顔色を変えずロイドが眺めている。


「ロイで良いよ」


 淡々と言うロイドを見て、エリーゼはにっこり笑って自信満々に口を大きく開けた。


「ロイ!!」


 エリーゼの大声に、ロイドが怯んで少し仰け反ったけれど、エリーゼは気にすることなくグイグイ寄っていく。


「あそ、ぼ?」


 エリーゼはブランコを指さして、目を輝かせてロイドを見た。


 ロイドは両親がうなずいているのを確認して「わかった」とエリーゼと一緒にブランコの方へ向かった。

 ブランコに座ったエリーゼに「おして!」と言われて、渋々押し始めたロイド。



 終始エリーゼのペースに巻き込まれ、にこにこ笑いながら手を繋いでくるエリーゼの手を振りほどけない。

 大人たちの暖かい眼差しを浴びながら、2人は先頭を歩いている。




「いやーーー!!」


 エリーゼの金切り声で、耳が一瞬聞こえなくなったミロウ侯爵夫妻だが、屋敷中に響いているので焦ってエリーゼをなだめている。

 けれど、全く言う事を聞こうとしない。


「ごめんなさいね、こんなエリィ、初めてで」


 もう寝る時間になったので、寝室へ行こうと促したらコレである。

 エリーゼがすごい力で抱きついて離れようとしないので、ロイドはポカンとして傾きながら倒れないように踏ん張っている。


「い、痛え……」


 ロイドをつかんでいる手に、暴走しそうな魔力まで込め始めているので、大人たちの焦りが深刻になってきた。


「ロイと、いしょが、いい。まだ、あそぶ。いしょに、ねる」


 大粒の涙をポロポロとこぼしながら必死に訴えるエリーゼを見て、ロイドはエリーゼの頭をワシワシなでた。

 それでもすすり泣きをしているエリーゼを、ロイドは不思議そうに眺めながら「部屋まで送ってやる」と言って、手を出した。


 まだまだ納得のいってなさそうな顔で、エリーゼはロイドの手を握りしめてトボトボと歩き始めた。



「母さま、エリィと寝ても良いか?」


 突然の息子からの言葉に、カガリー辺境伯夫人が驚いて返事に戸惑っていると、隣にいたミロウ侯爵夫人が代わりに返事をした。


「エリィは寝相が悪いけど、大丈夫?」


「はい」


 後方で驚がくするミロウ侯爵をよそに、ふふっとミロウ侯爵夫人はロイドに笑っている。


「それなら、よろしくね」


 そう言うミロウ侯爵夫人を見て、エリーゼは満面の笑みでスキップし始めた。


「ロイ、えほん、よんで?」


「ああ、文字読めるから、読んでやるな」


 ロイドは誇らしそうに答えたけれど。

 何冊も何回も読まされる羽目になって、返事したことを後悔することになるなんて、この時のロイドは知らない。



「ロイ! つぎ、これね」


「これ3回目……」



「つぎ、これ」


「エリィ、もう寝るぞ」



「これね」


「魔法学?! これ絵本じゃねーし。どこから持ってきたんだ……って、おい。寝てんのかよ」


 ロイドの服を握りしめて、エリーゼはすやすやと気持ち良さそうに眠っている。


「秒で寝た」


 ふっと笑って、ロイドもエリーゼの隣に寝転んだ。

 本を読みすぎて、いつになく表情筋を酷使したロイドも即眠ってしまった。


 本人も、誰にも気付かれることのなかった、ロイドが初めて笑った瞬間だった。






「お身体等どこも異常は見られません」


 寝台に寝ているエリーゼを囲み、治療師たちが忙しく動いている。

 倒れたエリーゼを最終チェックしているところだ。



 エリーゼが目覚めるまで側にいたいと、ロイドはミロウ侯爵家に滞在して見守っている。


 少し前に、アリストは思い当たることがあるから皇城に戻って調べると言い、目覚めないエリーゼの頬にキスをして部屋を出ていった。

 ロイドとジュークがすごい形相で見ているけれど、振り返ることなく、勝ち誇ったように手を振って。




 エリーゼの状態を聞いて、ロイドとジューク、ミロウ侯爵夫妻が安堵のため息をついた。


「不思議なのですが、夢を見ているというよりは、現実で我々が映像を見ている時と同じような脳の状態です」


 治療師がそう言うと、聞いていたロイドとジュークが緊張した面持ちで聞いている。


「映像を見ている……」


 真っ青になっているロイドがつぶやくと、ジュークもミロウ侯爵夫妻へ振り返った。


「もしかしたら、過去を見ているのかもしれないよね」


 ジュークの言葉を聞いて、ロイドは緊張した面持ちのままエリーゼに視線を移した。


 そんなロイドに気付いたジュークは、気遣うように静かに独り言のように話し掛けた。


「思い出して、ほしくない?」


「……」


 ロイドは答えの代わりに、ため息をついた。




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