3…見合い相手と弟と
「エリィ!!」
馬車から少年が出てくるなり、背丈が同じくらいのエリーゼに飛びつくと、エリーゼも嬉しそうに抱きしめ返した。
「おかえりなさい。道中何もなかった?」
背丈も同じくらいで、相思相愛の2人はなかなか離れようとしない。
「うん。ロイドはもう来てるんでしょ」
「ジューク、お邪魔してます」
ちょうどロイドが現れ、きれいなお辞儀をして挨拶をした。
「いいよ、そんなかしこまったの。いつも通りに話してよ」
かわいい顔のジュークが、嫌そうにウエッという顔をしてロイドを見上げた。
家の格はジュークの方が上だけれど、年上の人に対して、ここまで砕けた話し方をしている弟の姿を見るのが初めてで、エリーゼは驚いている。
そんなエリーゼの様子を見て、ジュークが苦笑しながら「まぁそうだよね」とまだエリーゼを抱きしめたまま呟き、ロイドを見やった。
ジュークはエリーゼと手をつないで、ロイドに目で何やら伝えている。
「ロイドとは同じ学園だから、よく話すんだよ。これから3人で一緒にお茶しようよ」
学園が同じなだけで、友だちのように話をするものだろうかと疑問に思いながら、納得するしかないエリーゼ。
学園は完全に男子校と女子校で分かれているので、未知の男子校はそうなのかもしれないから。
「ええ。でも、もしかして私、お邪魔じゃないかしら」
ジュークは他人には警戒して一定の壁を作って接するのだけれど、ロイドには心を許しているように見える。
そんなことは珍しいので、エリーゼは自分が部屋に戻ろうかと思ってしまった。
お見合い相手を置いて。
「ははっ、それ言うなら僕が邪魔だよね。婚約するかも、でしょ?」
「そんなこと言わないでっ」
エリーゼは、逃がすまいとジュークとつないでいる手に力を込めた。
一瞬切なそうな顔をしたジュークは、パッと笑顔になって「僕の部屋へ行こう」とエリーゼを引っ張って、ロイドにも目線を向けた。
◇
ジュークの部屋に着くと、既にお茶の用意がされていて、それぞれに用意されているお砂糖の数が違う。
ロイドは迷わずエリーゼの席の椅子を引いて、エリーゼを座らせてくれた。
まただわ。
なぜ……偶然?
ああ、消去法で分かったのかしら。
そんなことをエリーゼが考えている間に、ロイドとジュークは話をしている。
カップを持って、ジュークはにっこり笑ってロイドを見た。
「そうだよ。僕の方が2つ年下なんだけど、愛称で呼んでるんだ。エリィって響き、可愛くて似合ってるでしょ。父様と母様ばかり、ズルいなって。アリストまで僕の前で呼び始めた時は、殺意が湧いたけど」
ジュークが可愛らしく話しているけれど、突っ込みどころがありすぎて、エリーゼは白目をむきそうだ。
「ジューク」
ジュークがエリーゼをにらんで「いつも通りに呼ばないと……」と脅してきたので、初対面のロイドの前で申し訳なさそうにしながら、エリーゼは話し始めた。
「ジュジュ、年上の方は敬称付けしなきゃ」
もう13才の弟を、幼い頃からの愛称で呼んでいることを知られてしまい、恥ずかしそうにエリーゼはロイドの様子をうかがった。
ロイドは特に気にしていなさそうで、エリーゼはホッと胸をなでおろした。
ただ、先ほどからロイドとジュークは視線で会話をしているようで、やはり仲が良いらしいことが分かった。
学年もかなり違うのに一体どうして仲良くなったのか、そんな疑問をエリーゼが聞いたとしても、賢いジュークはうまくかわすだろう。
「アリストに良いって言われたんだ。公ではちゃんとしてるから良いんだよ」
ジュークは可愛らしく天使のような面立ちなので、皆ついつい許してしまうのだろう。
ご多分に漏れず、エリーゼもそうだ。
最近、どうやらジュークはそれを分かってやっているらしいと、エリーゼは気付いてしまった。
賢さを様々な方向に向けるようになってきたジュークの行く末が心配で、困っているのだ。
女性関係で刺されたりしないだろうか、とか。
「ジュジュ、女の子は泣かせないでね」
「……今の話の流れで、何がどうなったらそうなるの。時々1人で飛んでいくよね」
我が弟ながら、あきれ顔可愛いもすぎるなと感心しながら、エリーゼはジュークを愛でている。
「僕にはエリィが側にいて、他の子はその他大勢だから泣かせようがないよ」
ジュジュってば。
よそ様がいらっしゃる前で、何て可愛いシスコン発言するの。
「ジュークは家でも変わらずそうなのか」
エリーゼはふふっと笑って聞いていたけれど、ロイドの言葉が脳内リピートされて青ざめていく。
「い、いえ、家でもって……」
「あれ、ご存じないですか? 学園でジュークは極度のシスコンで有名ですよ」
あら、極度が付いちゃってるわ。
「ちょっ、ジュジュ。そんなことしたら、婚約者とか決まらなくなっちゃうわ」
エリーゼの婚約話が出たのが少し遅いくらいで、そろそろジュークも婚約者を決めなければならない時期だ。
「大丈夫だよ、皆納得してるし。婚約は誰でも同じだから、父様が選んだ侯爵家のためになる人と結婚するって決めてるよ」
ジュークがそんな事を考えていたなんてと、エリーゼは驚いて少しの言葉も出ない。
皆なぜ納得してるの? それで良いの?
「それにさ、オープンにしとけば、僕とエリィの虫除けにもなるかなって。エリィはきれいで可愛いからね」
にこにこ笑いながらジュークが称賛の言葉をくれるので、エリーゼは嬉しそうに笑った。
「何言ってるの。きれいで可愛いのは、ジュジュよ」
ミロウ侯爵家の姉弟は、お互いを絶賛し合うのだ。
そんな2人を見て、ロイドは嬉しそうに笑っている。
「いつも聞いている話を、実際見られるとは思っていませんでした」
婚約者になるかもしれない女性が、弟をべた褒めしても平気なんて、懐が広いのか少し変わってるのかと考えながらも、エリーゼはその笑顔に救われたような感覚になった。
美しすぎて心臓が心配だったけど、ロイドさんの笑顔は、今はずっと見ていたい気がするわ。




