28…皇城にて露呈する
「アリス、お久しぶり」
エリーゼは両親のミロウ侯爵夫妻の隣でカーテシーをして、アリストに挨拶をした。
学園の卒業式が終わり、程なくして新しい年を迎える。
新年のお祝いのパーティが皇城で行われるのだが、今までエリーゼは参加したことがなかった。
いつもジュークと仲良く留守番をしていたから。
しかし、今年はカガリー辺境伯邸に滞在させてもらっていて、エリーゼは隠していたつもりだったけれど、ホームシックになってしまったのだ。
それに唯一気付いたカガリー辺境伯夫人が、カガリー辺境伯に相談し、新年会へエリーゼを連れて来て、先ほどミロウ侯爵夫妻と会わせたところだ。
「ようこそ。相変わらずエリィのカーテシーは美しいね。楽しんでね」
いつものように褒めてくれるアリストに、エリーゼは笑顔で応えた。
「ありがとう」
「あ! 後でダンスしよう。上達したって聞いたからね。エリィと踊ってみたかった上級の曲があるんだ。楽しみにしてるよ」
それはそれは嬉しそうにアリストが言うので、エリーゼは笑顔を崩せず聞いていたけれど。
一転、アリストがいたずらっ子のようにニヤリと笑ってくるので、エリーゼは固まってしまった。
「えぇぇ」
アリストのフォローがあれば踊ることはできるだろうけれど、今のエリーゼが想像できるのは、ダンス後に疲れ切って動けなくなっている自分の姿だ。
「また、あとでね」
アリストがエリーゼの両頬にキスをしたところで、長身の影が近付いてきた。
「ご挨拶致します」
不機嫌そうなロイドが、エリーゼとアリストの間に入ってきた。
今まで不参加だったけれど、今年はエリーゼの護衛も兼ねて、初参加だ。
ミロウ侯爵夫妻と会ったエリーゼを見送って、ロイドが自分の両親とのんびりダンスホールに入ると、途端とんでもない光景が目に入ったので、急いで来たところだ。
2人の姿を見たアリストは、一瞬だけ切ない顔をして、すぐにいつも通りに優しく笑った。
「ロイドもいらっしゃい。まだ話してたいんだけど、立て込んでて。またね」
アリストは笑顔で手を振りながら、挨拶を待っている他の貴族たちのもとへ、さっさと行ってしまった。
「1曲よろしいでしょうか」
エリーゼがロイドと踊り終わった時、アリストがやって来て、きれいな皇族のお辞儀をしてエリーゼをダンスに誘った。
皇族として誘っているので、誰とて断ることはできない。
ロイドはふてくされながらも、そっとエリーゼとつないでいた手を離して、エリーゼの背中を優しく押した。
「喜んで」
エリーゼがカーテシーをして手をアリストの手にそっと置き、2人でダンスフロアへ行ったのだけれど。
流れ始めた曲が、予告通りのアップテンポの激しい曲になったので、エリーゼは引き返しそうになった。
アリストはしっかり手に力を込めて離さない。
ちょっと!!
時々入るスローペースな部分との緩急が、たまらなく難関だと言われている曲だわ。
こんな初心者にっ。
楽しそうに意地悪するわね。
これが本当のアリストね。
「アリス! こんなの無理よ」
「何事もね、やってみなければ分からないんだよ」
「ひゃっ」
アリストは優しいふりをして、本当は人をいじめるのが好きなのではいかとエリーゼは思ったけれど。
そんな考え事ができるのは最初のたった数秒で、途中からは無我夢中でアリストに付いていくしかなかった。
「やるね! さすがエリィ、できてるよ」
途中でアリストが褒めてくれたけれど、エリーゼは返事をする余裕なんてない。
最後はスローテンポなので、普通のダンスと変わりないのだが。
エリーゼは息が上がっていて、アリストに物言いたげな視線を向けるだけで精一杯だ。
それに気付いたアリストは、本当に楽しそうに笑ってエリーゼを見つめ返した。
「僕が好きなこの曲で、エリィと踊りたかったんだ。もう無理だと思ってたんだけど。踊れて、嬉しい」
曲が終わり、2人でお辞儀をすると「ありがとう」とアリストはエリーゼを抱きしめて、頬にキスをして、固まったエリーゼを残して会場を後にした。
エリーゼが呼吸を整えながら、アリストを見送っていると、人が近付いてきた。
「エリーゼ」
ビクッと肩を上げて緊張したエリーゼが、声の方へ振り返った。
妖艶な美しさをまとった女性が、飲み物の入っているグラスを持って立っている。
「ア、アリアお姉様……お久しぶりです」
緊張しているエリーゼを見ながら、アリアも少し緊張しながら笑って、グラスを手渡した。
「どうぞ。ダンス、上手だったわ」
エリーゼは顔を上げて、嬉しそうにアリアを見上げ、グラスを受け取った。
「ありがとうございます。実は全然踊れなかったんです。でも、頑張って、練習したんです」
「そう」
優しく話を聞くアリアに、エリーゼはつい止まって見入ってしまった。
「「……」」
「あ、これ、ありがとうございます」
エリーゼは手に持っているそれを一気に飲みほし、嬉しそうに、遠慮気味にアリアへ感謝のお辞儀をした。
グラスを持ったまま、あちらの方で待っているロイドのもとへ戻ろうとしたのだが。
「あ、あの、待って。グラスは、私が戻しておくから」
アリアは少し震えている手でグラスを受け取り、もう1度お礼を言うエリーゼに「いいえ」とだけ言って見送った。
「どうして……」
真っ青になっているアリアはそうつぶやくと、グラスを握りしめながら、従者と共に去っていった。
薄暗い部屋の中で、大きな姿鏡を食い入るようにのぞきこんでいる女性がいる。
「なぜ……なぜ立っていられる。確実に飲んでいただろう」
鏡に手をつき、中に映るエリーゼの姿から視線を外せない。
「あの坊やと同じ毒だ。一口目で分かるはずだ。それでも遅いくらいだ……」
はっとして、目を大きく見開いた。
「あははははっ!!」
込み上げてくる笑いを我慢せず、愉快そうに笑い続けている。
「ははっ。あぁ、そうかぁ、これは決まりだな……それしかない」
一転、女は鏡を食い入るように静かに見始めた。
「浄化」
鏡に映るエリーゼを、手で触れた。
「このご令嬢だったのか。忌まわしい、忌まわしい聖魔法の持ち主がっ!!」
第一側妃は目を細めてニヤリと笑い、映っているエリーゼを潰すかのように、鏡に激しく手を叩きつけた。
「それなら、いよいよ存在されては困るなぁ」
ひび割れた鏡の中で、エリーゼが楽しそうに笑っている。




