27…卒業式
「ロイドさん、改めてまして、卒業式おめでとうございます」
エリーゼは、ロイドへ心を込めてカーテシーを贈った。
同じ馬車で来たのだけど、お祝いを伝えたかったのだ。
学園に入ったのを機に。
「ありがとう。式の席は別だけど、何かあったらすぐ行く」
カガリー辺境伯家の家族席に、エリーゼは一緒に座ることになっている。
「ええ、ありがとう」
ロイドはエリーゼの頬にキスをして、何度も何度も振り返り、手を振りながら会場へ向かった。
「兄さまってば、さっさと行ったら良いのに」
ロイドの卒業式に出席するため、昨日は念のためカガリー辺境伯家のタウンハウスに泊まり、エリーゼは今日無事に学園へ来ることができた。
卒業式は、ロイドの首席が発表され、6年中5回の首席獲得ということもあって、客席のどよめきで締めくくられた。
エリーゼも客席同様に驚いて、壇上に登ったロイドをただ見つめていた。
やっぱりすごい人なのね……
なのに、婚約者は私で大丈夫なのかしら。
こんなに優秀で見目麗しいのに、今まで婚約者がいなかったことが、エリーゼには不思議でしかない。
「父さま、例の条件は満たしたよな」
式が終わり、ロイドが家族たちを見つけ、早足で合流しながら開口一番にそう言った。
「……あ、ああ」
「よろしく」
ロイドが父親のカガリー辺境伯に向いて、かしこまってお辞儀をしている。
「ぁぁ」
とても困った顔をして目を閉じたカガリー辺境伯が、小さく返事をした。
隣では、カガリー辺境伯夫人が苦笑いしている。
「ロイドさんは何か約束していたの? 聞いて良いかしら?」
父と息子のやり取りを見ていたエリーゼが、少し遠慮がちにロイドをのぞき込んだ。
「ん? あー……夏の、長期休暇で分かる。エリィは楽しみにしとけば良い」
「私と関係してるの?」
ロイドは優しく笑うだけだ。
そんな笑顔に見とれてしまったエリーゼに、後方から侍女が包装された小さな箱をそっと渡してきた。
「あ、これ、良かったら受け取って。お祝いです」
エリーゼが両手で小箱をロイドに渡すと、目を大きくしたロイドが受け取った。
「……ありがとう。開けても?」
全く予期していなかったプレゼントを、ロイドは大切そうに、緊張しながら開けた。
「ピアス……エリィの瞳の色」
エリーゼの顔が真っ赤になった。
「あああの、ロイドさんの欲しいもの、よく分からなくて。気に入ってもらえると、嬉しいです」
自分の瞳の色を贈ったことを言葉にされて、今更ながら恥ずかしくなったエリーゼは早口で説明をして、自分を落ち着かせようと必死だ。
その隣で、ロイドは付けていたピアスの隣に穴を開けて、早速せっせと付けている。
「い?! 痛くないんですか」
今度は青ざめていくエリーゼ。
「全然。ありがとう、すげー嬉しい」
本当に嬉しそうに笑って、ロイドはエリーゼの頬にキスをして、エリーゼの瞳を見つめた。
また赤くなってしまったエリーゼは、ロイドと目を合わせていられない。
「あー、プレゼントと、もう1つ良いか?」
ロイドは自分の頬に指をさし、嬉しそうに要求している。
「……え?」
エリーゼは分からない振りをしてやり過ごそうとしているのに、ロイドも引く気がなさそうだ。
「これは卒業を祝ってくれた贈り物だろ? 首席祝いで、よろしく」
よろしく?!
「こ、こ、ここで?!」
「デビュタントでしてもらったの、あんま覚えてねーから」
会話が聞こえているリリアナとサイラスは、ドン引きしながら兄の無茶振りを見ている。
深いため息をついたリリアナが「あんな要求してくる変人なんて、逃げたら良いのに」とつぶやいているけれど、サイラスは返事ができないくらい衝撃を受けている。
人前で、ご令嬢が家族以外にどこであろうともキスをするなんて、とんでもない事態だ。
虫除けとしてさせるにもほどがあると、リリアナは腹を立て始めたけれど。
エリーゼは、えいやっとロイドの頬にキスをした。
「ちょっ、兄さまってば! エリィ姉さまに人前で何て事させるの!! エリィ姉さまも、しなくて良いのよ!!」
すごい勢いで、リリアナがロイドに噛み付きに行ったが、満足そうなロイドは全く気にすることなく、エリーゼの頬にキスを返した。
仲睦まじいエリーゼとロイドの様子を、カガリー辺境伯夫妻が少し遠くから見守っている。
心なしか、少し疲れた顔をしているけれど。
「本当、どうなるかと思ったが。しかし宣言通り5回も首席を取るとは」
「ええ。取れなかった年は、核を取り戻しに行くために休学したからですものね」
カガリー辺境伯は深いため息をついた。
「恐ろしいくらいの執念だな。まさか辺境伯家から、こうも首席が出るとは誰も思わなかっただろうな。見たか? 他の貴族たちの顔を」
「ええ、見ものでしたね。まあ、あの子10年以上こじらせてましたからね。色々と止めてもダメでしたし。今も少し怪しいけど」
「あー、あのままだったら、本当にただの……」
スンッと無表情なった両親は、再びエリーゼとロイドに視線を移した。
今はリリアナがエリーゼに「兄さまを甘やかしてはダメです」と小姑らしく小言を言っているところだ。
そしてロイドにも「周りを威かくするのは格好悪いです」と注意しているのだけれど。
ロイドはリリアナを全く気にせず、エリーゼと手を繋いで、やはり周囲へにらみを利かせている。
そして、時折エリーゼと目が合うと、嬉しそうに笑っている。
「「本当に、良かった」」
卒業式とは、こうも両親が疲れるものなのだろうかと、カガリー辺境伯夫妻は疲労困憊の中、にぎやかにしている子どもたちを見守った。
この日もエリーゼが呪術で狙われることもなく、穏やかな1日だった。
周りの心配も杞憂に終わりそうだと感じられるくらい、いつも通りの日常が過ぎていく。




