26…私のものだけど
エリーゼから少し距離を置いて、ロイドとジュークがひそひそと話をしている。
「可愛いな」
「可愛いけど言わないでよ。止めちゃうから」
「分かってる。止めたくねーし」
「僕たちもどうしたら良いかも分からないし」
「ああ、本人の好きにさせるのが1番だろ」
「そうだね。少し見てよう」
「ああ」
まずエリーゼは手の甲に押し当てて、その次は首、頬、腕……足も試したくてスカートをめくろうとしたら、ミロウ侯爵夫妻が慌てて止めた。
残念そうにするエリーゼを見て、両親はハラハラしながら見守っている。
「これ、本当に私のなのよね」
今はおでこに当てながら首を傾げて、エリーゼが懐疑的に周りを見ている。
しかし、楽観的にも見えるエリーゼは、せっせと取り入れ方を考えている。
「自分の核を見れるなんて、きっと私だけね」
その後も、エリーゼは自分に押し付けるだけ押し付けた後、諦めたようにため息をついた。
何かしら考え事をしているようで、百面相を始めている。
そして、核を持って目の前に掲げ、じっと核を見つめた。
エリーゼが「よし」と意気込むと……
「ちょっと大きいけど」
そう言うと、エリーゼは核をパクリと口に入れ、ゴクリと飲み込んだ。
「「「「 は? 」」」」
わぁ、こんなに皆が皆、驚がくしてるの……初めて見たわ。
あら、てことは、ダメだったのかしら。
核をエリーゼが飲み込むなんて、誰も予想していなかったので、全員が、予期せず崖から落とされた瞬間のような顔をしている。
ハッとしたエリーゼが、口もとに手をやった。
「やっぱり、洗ってからの方が良かったかしら」
「え、あ、ああ、そう、かな……?」
娘に甘いミロウ侯爵は、エリーゼの発言に付いていくのが精一杯だ。
隣でミロウ侯爵夫人が額に手を当てて、ため息をついている。
「あ! お腹が温かい感じがする。たぶん」
その場の全員が、緊張しながらエリーゼを見守っている。
エリーゼがお腹を触っているけれど、その手に力が込められてきた。
「あ、待って、熱いかもっ、熱っ」
エリーゼはふらつき始め、踏ん張ってはいたけれど、ガクッと力が抜けてしまい、そのまま前に倒れてしまった。
刹那、ロイドとジュークが滑り込みで、何とか受け止めた。
エリーゼは苦しそうに、ロイドとジュークの腕を力いっぱい抱きしめて、目を閉じて息を整えようとしている。
「エリィ! しっかりして」
ジュークが泣きそうな顔をして声を掛けているけれど、エリーゼは呼吸が弱くなり、次第に目が閉じて、ぐったりとしてしまった。
「エリィ?!」
ロイドにエリーゼを渡して、ジュークはエリーゼの呼吸を確認した。
「息は……してる」
安堵したジュークは、留めていた息を吐き出して、座り込んだ。
青ざめたロイドは声を出すことができず、ただエリーゼを腕で受け止めている。
もしかしたら、エリーゼより顔色が悪いかもしれない。
「ロイドくん、大丈夫だ。エリィに核を返したことは、間違いではないよ」
様子を見かねたミロウ侯爵が近くへ来て、ロイドに声を掛けた。
エリーゼの額に手を当てて、無事を確認しながら。
それでも顔色の戻らないロイドを見て、ミロウ侯爵は困ったように笑い、ロイドの頭を強くなでた。
「エリィを運んでくれるかな?」
ロイドはやっとうなずいて、それはそれは大切そうにエリーゼを抱きかかえて、立上がった。
◇
数時間後に、エリーゼは目を覚ました。
周りの心配をよそに、ケロッとしている。
治療士の診断も終わり、身体には異物も見つからず、異常が見られなかったため、普段通りに生活することになった。
核は吸収されたのだろうと判断された。
「これで終わりかしら」
エリーゼは横になったまま、自分の手の平を見つめて、つぶやいた。
「本当分からないよね。エリィは何ともない?」
ジュークに心配そうに聞かれ、エリーゼはしっかりとうなずいて、目の前に座っているジュークとロイドを安心させようと、笑顔を作った。
「何とも。拍子抜けするくらい変化を感じないし、魔法を使える気もしないの」
申し訳なさそうにも、残念そうにもするエリーゼの頭をなでて、ロイドは心配そうにため息をついた。
「顔色良くねーから、まだ寝てろ」
エリーゼは弱く笑って「お言葉に甘えて」と目を閉じて、すぐ寝息をたて始めた。
とりあえず、核は吸収されたと判断されたが、何が起こるか全く分からない状況だ。
前列が無いので、どうしたら良いかは手探りでいくしかない。
その後、エリーゼは一向に起きなかった。
2日ほど眠り続け、周りを心配させたかと思ったら、皆が驚くくらい元気一杯に目を覚ました。
「すっごく、スッキリしたわ!!」
ジュークは「これだけ寝たらスッキリするよね」とあきれ気味に言っているけれど、安心したように笑っている。
まだまだ続く周りの者たちの心配をよそに、エリーゼは普段通りに過ごし始めた。
あと少しで、ロイドの卒業式がある。
エリーゼも式に出席できそうだと言われ、エリーゼはご機嫌だ。
外出許可が出たら、リリアナと出掛けて、ロイドへのお祝いの品を探しに行くことにしている。
リリアナが目を輝かせて「エリィ姉さまと街に!!」と、飛びながら喜んでいたのを思い出して、エリーゼはふふっと幸せそうに笑った。
幼い頃の記憶は戻っていないし、魔法も使えない。
何だか拍子抜けだけれど、エリーゼは、それで良いかもしれないと思い始めている。
ロイドと出掛けた街での思い出が、昨日のことのように、色あせることなく、エリーゼの記憶に大切に残っているから。
まぁ、ちょっと魔法は使ってみたかったけど。
窓から遠くに見える街を見ながら、エリーゼは「大丈夫」と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。




