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25/52

25…知っていた人たち

「いた!!」


 息を切らせたロイドが、リリアナと庭園を散歩していたエリーゼの前に現れた。

 2学期が終わって即馬車へ乗り込み、到着した途端走って来たのだ。


 1週間後に卒業式があるのでタウンハウスに滞在するように伝えたと、カガリー辺境伯が昨日の夕食時に皆に言っていたのだが。

 どうやら待てなかったらしい。


 キョトンとしているエリーゼの耳には、ロイドの瞳の色をしたイヤリングが普段よりキラキラと輝いている。



「え?! どうして? 夢?」


 夢??

 会いたいと思っていたから、いよいよ幻覚でも見始めたかしら。



 嬉しそうなロイドは、迷わずエリーゼの頬にキスをして、手を繋いで歩き始めた。


 わけが分からないエリーゼは、ぼう然とするリリアナと目を合わせながら、ただロイドに連れていかれている。



「夢じゃねーだろ?」


 ロイドは優しくエリーゼと目を合わせた。


 後方で「私の時間なのに取らないで!」と我に返ったリリアナが叫び始めたので、ロイドは笑いながらエリーゼを抱きかかえて逃げるように早足になった。


「リリアナは足速えから、本気で逃げねーと」





 結局まかれてしまったリリアナは、ロイドをにらみながら夕食を取り、エリーゼの寝室まで送るのにも後から付いていった。


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 ロイドがエリーゼの頬にキスをすると、リリアナがスッとエリーゼの背後に回って後からくっついた。


「ほら、リリアナも行くぞ」


 リリアナが勝ち誇った顔をして兄を見た。


「私たち、同じ寝台で一緒に寝てるんです。エリィ姉さまが来てから、ずーっと。兄さま、おやすみなさい!!」


 べーっと舌を出して、リリアナはエリーゼを優しく移動させると扉を勢いよく閉めた。



 今日1日ご機嫌だったはずのロイドだったのに。

 一緒に馬車で帰省して今は部屋でゆっくり荷解きをしているサイラスを迎えに行き、屋敷内の訓練場へと消えていった。


「え、夕食ん時、兄さま機嫌良かったよな?! 何がどうして?!」






 いつも朝は迎えに来るロイドが現れず、エリーゼは少し寂しさを抱えながら朝食を取った。

 すると、お昼前に執務室へ来るようにと伝言があり、寂しそうにするリリアナとサイラスに手を振って、カガリー辺境伯家の執務室へ向かった。


「失礼致しま……」


 そこにいる人数が多く、エリーゼは驚いてしまった。


「ジュジュ?! お父様も、お母様も。どうしたの??」


 ミロウ侯爵家の家族だけでなく、カガリー辺境伯とロイドまでいる。



「本人が色々知りたがっているのに、知らせないのは良くないなと思ってね。大事な話をしようと思って来たんだ」



 ミロウ侯爵夫人が心配そうにエリーゼのもとへ来て「急に驚いたわよね」と抱きしめた。


 ミロウ侯爵はため息のような深呼吸をゆっくりとして、エリーゼへ向いた。


「エリーゼが幼い時もこういったことが起こってね。核を狙っているのかと思っていたが……今回で分かったのは、エリーゼを、狙っているようなんだ」


 やっぱり私なんだわ……


 諦めたように力が抜けていくエリーゼとは反対に、ミロウ侯爵夫人はエリーゼを抱きしめている手の力を強めた。


「それなら核を戻した方が、エリーゼが何かしら自衛で対応できるようになるのではと、思ったんだ」


 お父様は今、"戻す"と言った?


「ここまでで分かったと思うけど。エリーゼ、お前はね、核を持たずに生まれたんじゃないんだよ。昔、呪術で操られた生き物に奪われてしまったんだ」


 エリーゼは、初めて聞かされる内容に、目を大きくするだけで、声が出せないでいる。

 周りは誰も驚いていないのを確認して、自分だけが知らなかったのだと理解をしながら。


 ミロウ侯爵はゆっくりと言葉を選びながら話をしている様子で、それだけでエリーゼには伝わったのだ。

 本人に伝えるべきか否か、慎重に、悩みながらの今だということを。



「その核であろう物を、時期でいうと2人の見合い前あたりかな、ロイドくんが取り戻してくれたんだよ」



「ロイドさんが」



 ロイドが気まずそうにうなずいたのを、エリーゼは不思議そうに見た。


「ありがとう、ございます」


 夢か現か分からない感覚で、エリーゼは足元がふわふわし始めたので、抱きしめてくれている母親をしっかりとつかんだ。



 机上に置いてある、厳重に封がしてある木箱を、ミロウ侯爵が大切そうに持ち、エリーゼに渡そうとした。


 まだ自分を強くつかんでいる娘に気付き、ミロウ侯爵夫人が優しく笑って、そっとエリーゼの背中を押した。

 エリーゼは恐る恐るミロウ侯爵に近付いて、小さな箱を受け取った。



「ロイド」


 カガリー辺境伯が指示すると、ロイドは「はい」と緊張気味に返事をして手を出し、エリーゼの持っている箱に触れて、かかっていた封を解呪した。


 ロイドしか開けられなくなっていたのであろう箱の封が、ゆっくりと解けていく。

 エリーゼが箱を開けると、小さな楕円の形をしている深紅の宝石のような物が、主人を待ちながら誇らしそうに輝いていた。


「きれい……」


 目が離せないでいるエリーゼは、そのまま独り言のように言葉を投げ掛けた。


「本当に、これが私の核なの?」


「ああ。絶対に見間違えない」


 ロイドが強い眼差しで核を見ながら答えると、エリーゼはロイドに振り返って首を傾げた。


「……見たことが、あるの?」


「あー、いや、まぁ」


 すると、ジュークがエリーゼの後から覆いかぶさってきた。


「ねえ、これをどうやったらエリィに戻せるの?」


 離れろと言いたそうな顔をしているのロイドを放っておいて、ジュークはその場にいる大人たちを見回した。


「それが……」


 ロイドが核を取り戻してから、ミロウ侯爵やロイドが自宅だけでなく皇城の図書室や禁書域にも入らせてもらって、書籍という書籍を調べ上げた。


 実は、ジュークもこっそりと様々な家門の禁書を読ませてもらい、調べていたのだけれど。


 お手上げだったのだ。


 歴史上に核を取られた者もいなければ、取り入れた者もいなかった。



「誰も、知る者はいねーんだ」



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