24…そばにいたい
!!!!
ジュークが突然顔を上げ、天井より遥か上を気にし始めた。
「ジュジュ? どうしたの?」
今は学園から帰宅後のエリーゼとジュークのティータイム中だ。
エリーゼの部屋で、仲良くソファに座って団らんしているところだったのだが。
「何でもないよ。ロイドに返事でも書いてて。僕はちょっと部屋に戻ってくるから」
そう言うと、ジュークは足早に部屋を出ていった。
「いって、らっしゃい……?」
ジュークが険しい顔をして、ある部屋に入っていく。
そこには数人の従者が慌ただしくしており、ジュークが来るのを待っていたらしく、姿が見えた瞬間に急いで集まった。
「今のは?」
ジュークがそう言いながら、立派な執務用の椅子に座ると、1人が説明を始める。
「たった今解析が出たところです。呪術が当たったようです。例の時と同じ物で、ここ数年は全くだったのですが。今のところ、建物も結界も無傷です」
「へぇ。さすがカガリーの結界だね。それにしても呪術か……」
カガリー辺境伯領でのことも思い出しながら、ジュークは静かに解析の紙を読み始めた。
「的は、やっぱりエリィかな。核がなくても狙ってくるってことは……でも、なぜ」
そう言うと、可愛くてきれいなジュークの顔が、静かに怒りに染まっていく。
周りにいる従者たちが緊張していくのを感じ取りながら、淡々と話始めた。
「これも単発そうだね。明日、一応結界の状態をロイドに診てもらおう……とりあえず、この解析結果をあと2部ちょうだい。父様と、カガリー辺境伯へ送るから準備して」
◇
翌日、買物予定があったため、心配をする従者たちを説得して護衛だけを連れて少し街に寄ったエリーゼ。
お店から出て、迎えの馬車がくる場所まで歩いている。
なぜか皆、すごく異常に心配症なのよね。
これくらい大丈夫なのに。
そんなエリーゼの目の前に、黒い玉のような物が浮いていた。
「え、これは……」
カガリー辺境伯邸の庭園で見た、呪物と言われていた物に似ているとエリーゼが気付いた時には、もうエリーゼの方へ向かってきていた。
呪術への対応は独特で、普通の戦闘ではないため、エリーゼはもちろん護衛もできるものでもない。
パンッ
もうダメだと思った時に、エリーゼの周りに結界が現れ、呪術を消失させた。
驚いて座り込んだエリーゼは、激しくなった鼓動と自分の呼吸音しか聞こえない。
私だわ。
迷うことなく、こちらに来てた。
標的は、狙いは、私だわ。
あの時も、私だったわ。
初めてカガリー辺境伯邸へ行った時のことを思い出して、エリーゼは青ざめた。
なぜ?
護衛に支えてもらいながら馬車に乗り、タウンハウスに着くや否や、エリーゼはミロウ侯爵家に繋がる通信魔法のできる部屋へ急いだ。
深刻そうなエリーゼの話を聞いて、ミロウ侯爵夫妻は真剣に聞いていた。
「こんな街中にいたら、何かあった時に多くの人に迷惑がかかるわ。ここに居られない。でも、どこへ行ったら良いかなんて分からないの」
エリーゼはこらえきれない涙を落としながら、最後は震える声を絞り出していた。
「お父様、お母様。私が記憶を持っていないのが原因? 核を持っていないから? 私の何が悪いの? 全く覚えがないの。どうしたら良いの?」
ミロウ侯爵夫妻はエリーゼの話を辛そうに聞いて、対策はすぐに決めて知らせるから、それまでは家を出ないようにとだけ言い、通信を終わりにした。
結界の様子を確かめに来る予定だったロイドが、走ってやって来た。
タウンハウス同士は、確かに走る方が早く着くの距離にあるけれど、通常は馬車だ。
こちらも着くや否や「エリィのところへ失礼する」と言い、部屋へ入ろうとしているエリーゼのもとへ、迷うことなくたどり着いた。
一緒に部屋へ入って、ロイドはエリーゼの耳にあるイヤリングを触り「ズレてるから直すぞ」と調節をしている。
「……怪我は?」
イヤリングを見ながらロイドが聞いてくるので、つい先ほどの件なのに、もう知っているのかと驚きながら、エリーゼはロイドを見た。
「大丈夫。なぜか、光のようなものが現れて、呪物というのを消してくれて」
「そうか。良かった」
安心したようにロイドは笑って、エリーゼと手を繋いでソファに座った。
卓上には、お茶が用意されている。
「きっとカガリーに滞在になるだろうな。まあ、父さまなら大丈夫だ。俺より強いから」
「それなら、安心して過ごせますね」
ロイドは慣れたように、エリーゼの頬にキスをした。
「俺も帰りてーんだけど……」
ロイドはどうしても帰れないらしい。
その理由は何か分からないけれど、ロイドが心底悔しそうに見えるので、それだけでもエリーゼは嬉しくなってしまった。
指で、ロイドの服の端を摘み、呼吸を整えてからエリーゼはつぶやくように言葉を出した。
「手紙を、書きます」
エリーゼは涙をこぼさないように必死に我慢しながら、ロイドの目を見た。
「してほしくて、敬語を使うのは、ダメですか」
涙が、エリーゼの頬を転がってポロポロと落ちていく。
何でこんなことに?
理由が分からない。どうして。
不安に押しつぶされそう。
驚いた顔をしたロイドは、エリーゼの頬にいつもより長めにキスをした。
「いいや。俺も、したい時にしても良いか」
エリーゼは悲しそうに笑って、うなずいた。
我慢しきれない涙を落としながら。
「いつでも。でも、遠くなるから、会えなくなるけど」
何で、私が?
恐い。
寂しい。
心細い。
やっぱり、私が忘れてしまっている記憶に何かあるのかしら。
「もう学園も終わる。すぐに会いに帰る」
ロイドは恐る恐る手を広げて、ぎこちなくエリーゼを抱きしめた。
エリーゼは驚いたけれど、嬉しそうに抱きしめ返した。
ロイドさんの近くは安心する。
ずっとそばにいたい。
大好き。
◇
「ようこそ、エリィ姉さま。今日から、私リリアナが片時も離れず側にいるから!!」
馬車を降りた途端、リリアナの可愛い笑顔が目に入ってきて、エリーゼは久しぶりにホッとして肩の力が抜けるのを感じた。
「ありがとう」
疲れて儚げになっているエリーゼの笑顔に、リリアナは悲しそうな顔をして立ち止まっている。
「リリアナ、あの、お願いがあって。1人だと眠るのがこわくて。もし良かったら、一緒に寝てくれない?」
それはそれは嬉しそうに、リリアナは目を輝かせた。
そて、エリーゼの手を引いて、カガリー辺境伯邸に入っていった。
「喜んで!!!!」
エリーゼは安心したように笑った。
「ありがとう。タウンハウスではジュジュに隣で寝てもらってたんだけどね」
「あ、それ……兄さまに言ったらダメなやつ。どうか言わないで。サイラスと私のために」




