23…幸せと、その裏で
2学期が始まり、楽しく学園生活を送っているエリーゼの最近の楽しみは、帰宅後にある。
部屋に戻ると、エリーゼは先ず卓上の手紙類をチェックするようになった。
その後に軽装ワンピースの宅着になり、用意されたお茶を一口飲んでから、大切そうに封を切り手紙を取り出した。
エリーゼは手紙を読みながらくすくす笑っている。
手紙はロイドからの物で、その日の学園の授業内容や、ジュークやアリストと話をした内容が書かれていて、最後は必ず「また会いたい」で締めくくられている。
先にエリーゼが出したのだけど、その時にエリーゼから「早く会いたい」と書いたのが始まりで、今ではお決まりになっているのだ。
その一言を、書きたいけれど書くのを迷って、何分も悩んで悩んだ末に思い切って書いたエリーゼ。
今では、勇気を出して本当に良かったと思っている。
ロイドからの言葉を何度も、大切そうに何度も読み返す。
手紙を読んだ後、エリーゼは毎回ある事を思い出してしまうのだけれど……
デビュタントの帰り道、馬車の中で隣にいるロイドに「手紙がほしい」とお願いされたので、エリーゼは「わかりました!」と元気に笑顔で答えた。
敬語を使ってしまったので、また頬にキスをされると思って身構えていたら、何だか角度が違ったので、エリーゼは目を大きくしてしまった。
驚いているエリーゼと目が合って、ロイドは我に返って慌てて頬にキスをした。
「ああぁぁあ、あれは、口に、されるかと、思った!!」
エリーゼが手で顔を覆ってソファに横たわって、しばらくジタバタ悶絶していると、扉をノックしてジュークが入ってくる。
ここまでが、最近のエリーゼの帰宅後のルーティンになっている。
「ただいま、エリィ。また寝そべってるね。行儀悪いよ」
ご機嫌なジュークが、エリーゼの隣に座って手を広げた。
「ジュジュ、おかえり」
エリーゼが手を広げたジュークを抱きしめると、ジュークは嬉しそうにエリーゼの頬にキスをした。
「また面白いことが書いてあったの?」
毎日、あわよくば内容を読もうとしてくるジュークから手紙を守って、エリーゼはそそくさと細工が美しい木箱へ納めて、大切そうに鍵をかける。
「もう。ジュジュは毎日会ってるんでしょ。内容は内緒よ」
納得をしていない顔をして、ジュークはエリーゼの様子を見ている。
「あ、今日はサイラスについて書いてあった?」
「ううん。サイラスがどうしたの?」
手紙に書かれていないであろう、その日に見聞きした内容を、ジュークが帰宅後に教えてくれるようになった。
まさか話のネタにされているとは露知らず、サイラスは今まさに、帰宅後の手合わせでロイドにしごかれているところだけれど。
特に最近、エリーゼは穏やかで幸せな時を過ごせていて、胸がいっぱいだ。
幸せすぎて、核が無いことも気にならなくなってきた。
確かに、このままでも私は幸せ。
ロイドさんが言うように、無理に思い出さなくても良いのかもしれない。
これから楽しい思い出を作れば……
それで良いのかしら。
◇
空調完備のドーム型の植物園のような所で、きれいなカトラリーの音が響いている。
色とりどりの植物に囲まれて、ティーティム用にセッティングされたテーブルに数人の夫人たちが座り、今お茶会をしている最中だ。
「私、エレスクレールのケーキより美味しい物には出会えていませんわ。さすがアリア様です」
色とりどりの輝く数々のスイーツが、卓上の中央に並べられていて、アリアと呼ばれた若い夫人が妖艶な笑みを浮かべてお礼を言った。
そしてアリアは、スイーツの説明をしながら夫人たちへすすめている。
「アリア様、ご存知ですか? かの有名なカガリー小辺境伯様のお相手が、アリア様の妹様の、ミロウ侯爵家のご令嬢とか」
「学園祭であの厄介な公爵令息に絡まれている妹様を守られたらしいですわよ。今まで女性に見向きもしなかった小辺境伯がと、話題になってますね」
「あら、私は、皇太子殿下の想い人がミロウ侯爵令嬢だと聞きましたわ」
「表にお出にならないと聞きましたけど、妹様もきっと美しい方なんですね」
エリーゼとジュークの義姉であるアリアは、優雅にカップを持ち上げ、にこりと笑ってゆっくり一口飲み、静かにカップを下ろした。
「残念ながら、初耳ですわ。私はこちらに来てからは実家のことはあまり……というか、全く聞いていませんから」
困った顔を作って、アリアは周りの夫人たちを見回した。
「そうですわよね。結婚すると我が家が変わりますもの」
他の夫人の話に、アリアは同意するように艶やかにうなずいて、周りの植物へ視線を移した。
この植物室の中には、近辺の植物はもちろん、アリアが寂しくならないようにと夫のカイヤ伯爵の配慮で、ミロウ侯爵家付近を生息地としている植物が植えてある。
アリアが心を落ち着かせたい時に、過ごす場所だ。
「ええ。これからどうなるか楽しみですわね」
笑顔になったアリアは、今が旬の継母であるミロウ侯爵夫人の好きな花を、愛おしそうに見ながら、噂話を聞いていた。
お茶会が終わると、アリアは自室に戻り、侍女たちを退かせるや否や、苦しそうに床に座り込んだ。
息苦しそうにして、時折むせている。
「名前をっ聞いた、だけ、なのに」
黒いモヤがアリアから溢れ出し、囲い始めた。
「久しぶり、だと……かなり、苦しい、わね」
真っ黒い空間の中で、アリアが息苦しそうにしながらも、必死に呼吸を整え始めた。
すると、何度目かの呼吸で、突然パッと黒いものが静止し、1か所へ集り小さな真っ黒な球体になった。
それは、勢いよく窓から外へ出て首都の方へ飛んでいった。
「エリー、ゼ、っ」




