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15…真相と噂

「……で以上だな」


 記憶力の良いロイドが、先日の第一側妃とのやり取りをジュークに伝えたところだ。


「格好良いね、喧嘩売ってきたんだ」


 ジュークはアリストを茶化して、すぐに真剣な顔になってアリストとロイドへ向いた。


「その毒で生き延びたのがロイドだけってことは、他に犠牲になった人たちがいるってことだよね」


 アリストは「確かに」とうなずいて、ロイドも真剣に聞いている。


「でもロイドが倒れた時に、皇城の治療師はセトレア皇国や周辺国でも確認されていない新たな毒だって言ったんだよね」


 そう言いながら考え事をしている様子のジュークを見ながら、ロイドとアリストは話し始めた。

 そうなったジュークは邪魔しない方が良いと分かっているのだ。

 常人では混乱しそうだが、2人の会話を聞きながら考えを巡らせるのがジュークには良いのだとか。



「第一側妃は隣国のシンドア国出身だったよな。そこでも確認されてないってことだろ?」


「毒として認識されていないのか。そんなはずないな、ロイドのあれは確実に毒だと分かる反応だった。今までの死人を行方不明にしているのか、隠しているのか……」


「治療師があっち側な可能性は?」


「それはない。皇城内は反第一側妃ばかりだ。僕のお墨付きで」


「ああ、妃になった経緯が経緯だからな。そん時も何か薬を使ったんだろ?」


「ああ。それを言うとミロウ侯爵の前妻もそうだけどね。呪術に薬物、蓋をしておきたい国だな」


 ジュークはじっとして、ロイドとアリストのやり取りを聞いている。

 しばらくして、2人の話が落ち着いたので、そっと話し始めた。



「第一側妃出身国のシンドア国か、その友好国の毒なのが濃厚かも」


 ロイドとアリストは静かにジュークの話に耳を傾けた。


「使用しているのは、自国ではない可能性が高い。シンドア国の西側、つまりセトレア皇国とは反対側にある周辺国か、もう少し奥の友好にしている国の周辺国。あの辺りはここから遠いから、把握できていなくても、うなずけるよね」


 悩みながらジュークが話し続けている。


「友好国は、シンドアは幸い手広く仲良くやってないから絞れるけど。遠いよね」


 ジュークはロイドとアリストへ向いた。


「まず、その辺りで同じ毒が使用されていないか調べて、その入手先を確定させる。そこと第一側妃との関係を探るのが近道かな。ただ、その辺りを調べるだけのツテがなかなか、難しいだろうけど……」


 心配そうに見てくるジュークと目が合ったアリストは、それを払拭するかのように笑顔で応えた。


「僕がどれだけ人脈を作ってるか知らないだろう? 今回で教えてあげるよ。父上なら無理だろうけど。僕は余裕で大丈夫だ。後は任せろ」


 ジュークは開いた口が塞がらない。


「余裕なの?! 凄いね」


「事が終わってから褒めてくれ。視野が狭くなっていた僕では、気付けなかっただろうな。助かったよ」







 その1ヶ月後。

 ロイドの毒が解析され、解毒剤がやっと完成したと報告がきた。



「この度はお時間をいただき、感謝します」


 アリストが仰々しくお辞儀をしている。


 皇城の円卓の会議室の1席で、アリストが真剣に起立している。

 アリストの隣に皇帝が、反対の隣に"解毒剤で回復した"ロイドとカガリー辺境伯が、そして数人の大臣を兼務している貴族たちも座っている。

 もちろん、エリーゼとジュークの父親のミロウ侯爵もいて、アリストとは反対の皇帝の隣に座っている。


 アリストとロイドが通常運転なのが逆に目立つくらい、いつになく緊張した面持ちで大人たちが前方を見ている。


 それもそのはずだ。


 目の前に、以前から危険人物と認識されている第一側妃が座っているのだから。


 扇で顔をほぼ隠しているが、激怒していることを隠すつもりはないらしい。



 毒の解析にかかった1ヶ月の間で、アリストが突き止めたものは、ほぼジュークの予想に近いものだった。

 シンドア国の友好国の1つが主権争いをしていた際に、その内の1人が毒殺されていた。

 その毒の解析結果が、ロイドの飲んだ物と同じであったのだ。

 その主権争いを制した側の婚約者が、シンドア国の現国王の娘で、第一側妃の姪にあたることが分かった。


 そこでアリストは毒の入手経路を突き止め、証言や取引の帳簿を集めてきたのだ。


「この資料を見ていただきたい」


 アリストは淡々としているように見せているが、確実に狩ろうとする鋭い眼差しで前を見据える。




 会議室の扉の向こうには、行儀の悪い姉弟が扉に耳を付けて中をうかがっている。


「ジュジュ、中はアリスの敵だらけではない?」


「いや、大丈夫。側妃以外は味方だよ」


 アリストを心配したエリーゼとジューク姉弟が、こっそり様子を見に来ているのだ。


カチャ……


「げっ、開いちゃった」


 そんなことを言いながらも、しっかりのぞき込むジュークに、感心しながらエリーゼも一緒にそっと様子をうかがってみた。


 あ、ロイドさんいた。

 元気になったみたいで良かった……


 最初にロイドを見つけてしまう自分にふと気付いて、エリーゼは少しあきれている。

 会議の内容に集中しなければと思うのに、どうしても視線がロイドにいってしまうのだ。




「よって、第一側妃をカガリー小辺境伯殺害容疑で告発したい」


 皇帝が第一側妃を冷めた目で見据えて、深い深い安堵のようなため息をついた。


「今回は幽閉を免れないだろう。真摯に受け入れろ」


 さすがの第一側妃も、言葉を発せられないようだ。



「言っただろう、後悔させてやるって。これくらい容易いんだ」


 そう言い終わると、アリストは他の大人たちへ改めて向かった。


「いいか、ここにいる者たちに確認のため言っておこう。僕の大切な者たちは絶対に間違ったことはしない。これからも、彼らに仇なす者には容赦しない」



 お開きとなったので会議室の扉が従者によって開かれて、様子をうかがっていたエリーゼとジュークの姿が丸見えになった。


 ミロウ侯爵が開いた口が塞がらないまま2人を見ているのだが、ジュークは気にすることなく普通にエリーゼに話し掛けた。


「ねぇ、さすがアリストだったね。格好良かったよね。エリィ、皇太子妃はどう? 今からでも遅くないと思うよ」


 エリーゼが小声で「何言ってるの?!」と言いながら扉に隠れようとしているのを見て、ジュークは笑っている。


 向こうの方で、ロイドが真っ青になっているのが見えてしまい、ジュークは苦笑しながら謝る素振りをした。


「あ、勿論遅くないよ。どう?」


 聞こえていたらしいアリストも、エリーゼに向ってにっこり笑って手を振った。


 戸惑っているエリーゼのもとにロイドが素早くやって来て一緒に出ていったけれど、もう遅い。



 数日後には、皇太子殿下の想い人はミロウ侯爵令嬢らしいと噂になっていた。




「思ったより噂になっててさ、笑っちゃった」


 学園の中庭でお茶を飲みながら、ジュークが面白そうに笑っている。


「ああ、"皇太子の想い人"だよね。間違っていないから良いんだけど。エリィに噂は届いてる?」


 いつも注目されていて噂になることに慣れているアリストは、さすが平然と構えている。


「あー、全然デスネ」


 ジュークは申し訳なさそうに言うと、アリストはおかしそうに笑った。


「だろうな。いつも期待を裏切らず情報の末端にいるからなぁ」



 そんなことを言われているとも露知らず、エリーゼはいつもより注目を集めながらも、いつもと変わらない学園生活を楽しんでいる。



「俺、全然楽しくねーんだけど」


 超絶不機嫌なロイドが、やっと会話に入ってきたので、ジュークがやれやれといった感じでロイドを見た。


「もっと余裕持って笑い飛ばしなよ。エリィが表に出てしまったら、噂なんていくらでも出てくるよ。今は父様と僕でエリィをひた隠してるんだから。噂くらい軽く流す練習したら」


 絶対無理だと言わんばかりのロイドを眺めながら、ジュークもアリストもお茶を飲んでいる。



「あー、あのさ、そのことも少し関係するんだけど。来月の僕の成人祝賀パーティの前に、急なんだけど皇太子即位式をすることになったんだ」


 なぜか気まずそうにアリストが話し始めたので、ロイドもジュークも不思議そうに視線をやった。


「名実ともに、だからでしょ。僕は良いタイミングだと思うけど、他にあるの?」


 ジュークが何となく気を使ってフォローのような返事をしたけれど。



 その後に続くアリストの話を聞いたジュークは半笑いになって、もうロイドの方を向くことができなくなった。

 そして、ロイドはというと、不機嫌を通り越して怒りも通り越して、机に突っ伏すしている。



 アリストが「さすがに、ごめん」とロイドに謝っているけれど、きっと聞こえていない。




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