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14…アリストの大切な者たち

 ジュークが目を見開いて、視線だけをロイドとアリストと交互に移した。


「そういえば、そうかもしれない。うん、うん、そうだ。僕が熱を出しても、エリィが手を握って看病してくれたら、すぐ、治ってた、かも」


 ジュークは自分に相づちを打ちながら、必死に冷静にいようとしている。



 "まだ意識の戻らない危篤な状態の"ロイドのお見舞いに来るようにとアリストに言われて、ジュークが登城したのだが。


 部屋に入るとロイドは普通に歩いていた。


 驚いてジュークが動けなくなったところを、アリストが誘導して座らせてくれたのだ。


 3人でソファに座ってお茶をしながら、ロイドの回復の早さについて報告を受けて、ジュークは思い当たる節がありすぎて驚愕しているところだ。



「そうだ、先日ロイドの見舞いに来……」


"「どうか早く良くなって」"


 ジュークがハタと止まってしまった。

 エリーゼがずっとロイドの手を握っていたなんて、そんなロイドが喜ぶだけの報告を言いたくないのに。

 言わなければならない、この状況にジュークは頭を抱えた。


「くそぉっ……」




 ジュークから見舞いの際の話を聞いて、ロイドは嬉しくて仕方ないという顔をして、ソファにもたれ掛かった。


「ははっ! 回復が早まった理由は決まりだろ!」


 とにかくご機嫌なロイドと、ふて腐れて目も虚ろなアリストとジュークがうなだれていて、天国と地獄のあり様だ。



 3人で話していると、アリストが前もって予定に入れていた、第一側妃との面会時間に近くなった。


 ロイドが毒を飲む前から、きな臭い第一側妃と息子にそれぞれ面会を申し入れていた。

 息子の方は先日終了したのだが。

 アリストに懐疑を持たなかったのか、余程自信があるのか、今日の予定が変更されることはなかった。


 エリーゼのことを勘付かれないようにと、ジュークは1人でアリストの部屋で待機中だ。



 数十分前「何かあったら、すぐ呼んでね」とジュークは平気そうに手を振ったけれど、2人が心配で仕方ない。

 3人でいる時は、最年少だがジュークが話の進行役とまとめ役を担っているのだ。


 表に立つのがアリスト、武のロイド、脳のジュークなのだ。



 学園で3人でいる時は、もう誰も近寄って来ようとしない。


 最初は取り巻こうとしてくる学生が来ていたが、それをうるさがったジュークが勉強のような些細なことから経済面といった幅広い話題を振り、問答で徹底的にボコボコにしてしまったのだ。


 そして、全学年同じ内容で行なわれる特殊な試験で首位を取った1年生ジュークの「僕たちに相応と思ったら来いよ」がトドメとなったらしい。



「一応アリストには話の進め方を伝えたけど。ロイドがなぁ。アドリブが必要になりませんように……」





「第一皇子を皇太子にしたかったのか。誰がどう見てもアリストより劣ってんじゃねーか。無理だろ」


 ジュークの心配の通りだった。


 今まさにロイドが相手を挑発して話をそらそうとしている様を見て、アリストは白目をむきそうになっている。


 アリストはロイドの肩を引っつかんで、目を合わせて真剣に言った。


「ロイド、お前は火に油だから、しばらく黙ってろ。頼むから」


 おとなしくなったロイドを確認して、アリストは第一側妃へ視線を向けた。



「全てはお前がやったんだろう。お前が1番得をするからな」


 ロイドの言う通り第一皇子は賢さがないので、すぐにボロが出るはずだが、ジューク曰く、今回は少し手が込んでいて少し賢さがあるのだそうだ。


 しかし、それを言うと第一側妃が逆上して話が進まなくなる可能性があるため、ジュークにダメだと釘を刺されたのでアリストは我慢している。



 今日の目的は、犯人の言質を取ることだ。


 第一側妃はプライドが高く、記録も取られていない場所で繕ってごまかそうなんてことはしないはずだとジュークは予想した。

 上手く行けばアリストたちを挑発してきて、他の情報を出してくるかもしれないとも。


 犯人が特定できれば証拠を探しやすくなるから、何を言われても頑張って我慢しろ、とジュークに言われ、アリストはその通りにしている。

 ジュークはアリストが信用している数少ない人間のうちの1人なのだ。



「証拠は無いだろう? ははっ、ここは防魔のお陰で私の話も記録できまい。あぁ、私としたことが失敗だな。1つも達成できないとは、情けない。お前たちを誉めてやろう」


 まるで愉快だと言わんばかりの態度の第一側妃は、何も悪びれもせず罪を認めるような発言を続けて、ニヤリと笑った。


「1つも?」


 まるで目的が複数あったかのように第一側妃が言うので、アリストは怪訝そうにしている。


 アリストを横目に、第一側妃はロイドへにらむように視線を向けた。


「お前がこやつの側にいると箔が付くから消したかったのだが。あの毒で生き残れた者は初めてだ」


「皇城治療師の、解毒薬を作る能力は高いんだ」


 アリストが顔色を変えず、返事をした。


 わざとらしくため息をついた第一側妃は、すぐにニヤリと笑い、挑発するような目つきでアリストとロイドに視線をやった。



「やはり、あのご令嬢を狙った方が良かったか? 幼い頃から側に置いているから、よほど気に入っているのだろう?」


 第一側妃が話し終わるのを待たずに、ロイドが迷いなく抜刀した。


「待てっ!!!!」


 怒りの形相でロイドが斬りかかろうとするのを、アリストが手を出して止めた。


「納めろ。さっきから、僕もかなり我慢してるんだ。それ相応のやり方でさせてくれ。必ず、やりきるから」



 アリストを見たロイドは一瞬で我に返り、静かに剣を鞘へ納めて、アリストの後に控えた。


 初めてだったのだ。怒りで震えているアリストを見るのが。



「僕の大切な者たちへ手を出したことを、必ず後悔させてやるよ。今回は、容赦しない」


 そう言うと、目的を達成したアリストは、ロイドを連れ、第一側妃に背を向けて部屋を後にした。



 アリストの怒りは、第一側妃が最後に発言したことへだけでない。


 大切な友人のロイドに毒を飲ませ殺害しようとしたことにも、アリストは腸が煮えくり返っているのだ。




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