13…様々な予測
「ジュジュ……ロイドさん、ちゃんと目を覚ますかしら」
エリーゼの泣き腫らした目から、涙が止めどなくポロポロと落ちていく。
寝台で眠っているロイドは、依然として危険な状態であることに変わりはないが、治療が1週間経った今日からカガリー辺境伯から許可された人のみ面会できることとなった。
呼吸は少し落ち着いているように見えるが、時折苦しそうに顔を歪めたり、やはり弱ってきている様に見える。
後は運と本人の治癒力次第といった状況だ。
今は、エリーゼとジュークが寝台の横に置いてある椅子に座って、ロイドの様子を見ているのだけれど。
「大丈夫だよ。ロイドはかなり頑丈だからね」
大粒の涙を拭こうとしないエリーゼを見て、ジュークがハンカチで拭き始めた。
「良いことか分からないけど、ロイドと僕が気を付けてることがあってね……アリストより早く飲食しようって。毒味役も兼ねて。ちゃんと守ってたんだね」
嗚咽になりそうなエリーゼのそれを、背中をさすりながらジュークは寄り添っている。
まだ目を覚まさない危険な状態のロイドに「早く起きろよ」とつぶやきながら。
この1週間、エリーゼが笑うところを見なかったジュークは、ロイドもだけれど、エリーゼをも心配している。
2人がはじめましてをして数ヶ月、ジュークとしては不本意だけれど婚約者候補としてお互いを大切に思い始めているのは見てきたけれど。
エリーゼの衰弱していく様子を見て、ジュークの予想以上にエリーゼはロイドを想っているのかもしれないと驚いている。
「どうか、早く、良くなって」
エリーゼはロイドの手にそっと触れて、時間の限り離さなかった。
その苦しさを、
私が代わりに受け取りたい、
消せるなら消してあげたい。
何もできず泣いてばかりなのが悔しい。
部屋に待機している従者に時間がきたと知らされたので、涙が止まらないエリーゼは、ジュークに抱きしめられながら、名残惜しそうに部屋から出ていった。
◇
翌日、ロイドのお見舞いへ来たのはアリストだった。
アリストが部屋へ入るや否や、従者がいつもより素早く扉を閉めた。
驚いて従者を見て、アリストは何事かと首を傾げる。
しかし、前を向くと更に驚いて、目を見開いて固まってしまった。
「……は?」
アリストが信じられないという顔をして、時間がただ過ぎていく。
それはそうだ。
部屋に入ると、生死をさまよっているはずのロイドが、立ち歩いていている。
それに、手を上げて「世話んなった」と挨拶をしてきたのだから。
「ああ……え、ロイド? え、目が覚め? え、嘘だろ。夢か? 死んだ? 待て待て待て、落ち着け。いや、何で動けてるんだ?」
「大丈夫か? とりあえずアリスト、お前が落ち着け。俺は死んでねぇ」
焦るアリストをロイドがなだめながらソファに座らせる。
もう、どちらが見舞われる側なのか分からないような状態になっている。
予め用意されていた鎮静効果のあるお茶を飲み、アリストはやっと落ち着きを取り戻した。
「この状態は……俺の婚約者殿のお陰だろうな。昨日はエリィとジュークが来たらしい。昨日から始まった見舞いに来たのは、今のところお前を含め3人だそうだ」
ロイドは、従者に聞いた話をアリストに伝えた。
突っ込みたい部分があったが、アリストは大事な話をそらせることかできない。
「でも、まだ核は戻してないだろ?」
ため息をついて、ロイドはうなずいた。
「微量でも残ってたのかもな。絶対公表すんなよ。俺はまだ生死をさまよっていて、瀕死の状態だ」
この部屋にいる従者は、ロイドの看病をするために来たカガリー辺境伯家の忠実な従者で、決して他言することはない。
それを確認して、アリストはうなずいた。
「分かってる。勿論だ。ああ、それと、婚約はまだ正式ではないから、婚約者呼びは早くないか。延ばしてやるから楽しみにしてろよ」
貴族の婚約は皇帝からの許可が必要で、皇太子のアリストが止めようと思えば止められるような事だったりするのだ。
ロイドが今年1番顔を崩したかもしれない。
「んなことしたら、まじで正面から斬りに行くぞ」
「ははっ、皇太子殺害予告なんて、不穏だね」
少しばかりの世間話をした後、冗談は終わりだと言わんばかりにロイドが突然真剣な表情をした。
「で、黒幕は?」
従者含め3人しかいない部屋の空気が一瞬で張り詰めた。
ため息のような深呼吸をしたアリストが、言いたくなさそうに口を開く。
「第一皇子か第一側妃だろう。今探らせているとこだよ……ああ、時間か」
外から扉をノックする音が聞こえたので、アリストは真剣な顔つきになって「またね」と立ち上がった。
「お前も狙われてたんだろ? 気を付けろよ」
ロイドの言葉に、アリストは手を振りながら部屋を出ていった。




