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12…学園祭③一難去って

「とりあえず戻るよ! ちゃんと最後までいないと評価が下がって首席卒業できなくなるよ」


 まだ背の低いジュークが長身のロイドに向かって大声を出している。

 小声で「両家に何かの条件として自分から言ったんでしょ」と付け加えた。


 ロイドが降参したように両手を上げて深いため息をついた。

 これでもかというくらい悔しそうな顔をしているけれど、どうやら了承したようだ。



 ジャイ小公爵も去っていき、状況も落ち着いたのだが、ロイドが出店に戻りたくなさそうにしているのをジュークが言いくるめたところだ。


 学園では行事への参加も成績に反映されるため、首席卒業を何かの条件にしたロイドはクラスの出店へ戻らねばならない。

 ロイドは首席卒業で、どうしても勝ち得たいものがあるらしい。


 ジュークが聞いても、ロイドは「さぁな」としか返さず秘密にしている。



「サイラス! リリアナ! 次は何が来ても全てに噛み付け。良いな」


 兄からの最早助言ではない不穏な命令に、サイラスとリリアナが姿勢を正して「はい」と返事をしているのを、ジュークが苦笑しながら眺めている。





「エリィ姉さまは、お姉様がいらっしゃるの?」


 リリアナが何気なくエリーゼに聞くと、ジュークが振り返り心配そうに見ている。


 そんなジュークに気付いたエリーゼは、気まずそうにしながらリリアナからゆっくり目をそらして、悲しそうにうなずいた。


「ええ。少し年上の、とってもきれいなお姉様がいるの。今は伯爵夫人になられてるわ」


 顔が強張っているエリーゼを珍しそうにリリアナが見つめていると、エリーゼは絞り出すように言葉を紡いだ。


「私は……嫌われているみたいで」


 そう言って笑ったエリーゼの悲しそうな笑顔が、痛々しくて切なくて、リリアナは小さく「ごめんなさい」とつぶやいた。


「私も暗い話をしてごめんなさい。これから食堂でお昼をとって帰宅よね!」


 無理しているとも見える様子のエリーゼは、ジュークがまだ心配そうに見ているけれど、それに気付かないようにしている。


「行きましょ!」


 エリーゼはいつもの笑顔になって、リリアナとサイラスの手を取った。


「えええぇぇぇ。兄さまの前ではっ、いや違っ……」


 驚いた拍子に、サイラスはついうっかり口を滑らせてしまった。


「へぇ、俺の前では?」


 見えない所では普通に手を繋いでいるのかと言わんばかりの、ものっすごい顔でロイドが見てきているのだが、サイラスは視線をそらす以外もうどうすることもできない。

 その通りなので、ボロが出そうなのだ。


 頑張って不可抗力だと一瞬目で訴えてはみたけれど、兄に全く届いていないことが分かっただけだった。

 サイラスは肩を落とし、諦めてエリーゼに手を引かれるがまま連れて行かれることにした。



「サイラスは悪くないよ。エリィは、双子が本当の弟妹のように可愛いみたいだよ。母様に双子をお願いしてたくらい。断られてたけど」 


 さすがに同情したジュークが色々言ってみたけれど、見事にロイドに届かない。

 

「はぁ……こじらせすぎだろ。いい加減にしろ、このストーカー」


 ジュークは1度振り返ったエリーゼたちに手を振って、深いため息のような深呼吸をして、ロイドの背中を押して戻っていった。





 学園祭が無事に終わり帰宅しようとすると、ロイドはアリストに声を掛けられた。

 先ほど皇城から連絡があり、2人に用があるから一緒に戻るよう言われたというのだ。



 皇城に着いて、やっとアリストの部屋でソファに座れたところだ。


「何なんだろうな?」


「さあ、僕も何も聞いてないんだけど」


「は? おかしくないか? 皇帝なら前もってお前に言うよな」


 いつも皇帝に陛下を付けないロイドに慣れているアリストは、何も言うこともなく聞いている。

 ロイドはそうしなければならない時は上手くするので、最初は不敬にギョッとしていたが、今のアリストは全く気にならない。


「……そうだな。おかしいな」



 アリストが悩んでいる間に、従者がお茶を運んできたので、ロイドはすぐにカップを取った。

 いつも出される、アリストの好きなお茶の香りがする。


 一口飲むと、ロイドは目を見開いた。



「飲むなっ!!」



 ロイドが突然、アリストが飲もうと持っていたカップだけを上手く勢いよく払った。


 驚いたアリストは一瞬カップを目で追って、ロイドに視線を戻した。


 カップが音を立てて落ちるのと同時に、ロイドが苦痛に歪む顔をして床へ倒れ込んでいく。


「ロイド!!!!」


 ロイドは苦しみながら、激しくむせている。


「くそっ、毒か?! 治療師を呼ぶから耐えろよ!!」


 そう叫びながら、アリストは扉の方へ急いだ。


 そして、部屋にいる従者たち、外に待機している従者と騎士たちを、アリストの捕縛魔法で瞬時に動きを封じた。

 その場にいる、容疑者になり得る全てを捕えたのだ。


 すぐ皇城全体に設置してある皇族の緊急用の鐘を鳴らし、治療師を急ぎで召喚した。



 様子を見るためアリストが近付こうとすると、ロイドがむせながら来るなと震える手であっち行けをしている。


 経皮吸収も避けさせるためだと分かってはいるが、耐えろと言う以外何もできないアリストは悔しくてたまらない。



「治療師はまだか!! 遅い!!!!」



 普段穏やかなアリストが、珍しく廊下へ向かって大声を出している様が、ロイドの状態が悪いことを物語っている。

 

 呼吸も難しくなってきたのか、ロイドは体全部で息をし始めた。

 アリストを心配させないように、まだ震える手を少しだけ上げて、辛うじて聞き取れるくらいの声で「寝るだけだ」とだけ残して、ロイドは震えながらゆっくりと目を閉じた。

 顔色が真っ青だったのが、白くなっていく。



 治療師が到着して、ロイドの毒の回りを抑え、体内から毒を少量だが取り出すことに成功し、解析へと渡されていく。


 治癒をすることができるのは、希少な聖魔法を扱える者のみだ。


 周辺国よりも魔法の核を持つ人口が圧倒的に多いセトレア皇国ですら、もう100年ほど確認されていないという。


 なので、毒の回る速さを抑え、その間に毒を解析して解毒薬を創る外ない。


 治療師から、セトレア皇国や周辺国でも認識されていない新たな複雑な毒のため、解析に多くの時間が要するということだけが、アリストに伝えられた。




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