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11…学園祭②様々な攻防

「エリィ、本当に気を付けてね。もう囲まれる前に、すぐ侯爵家の名前を隠さず挨拶して。リリアナもだよ。エリィをよろしくね」


 心配そうにするジュークにリリアナはうなずいて、ふとジュークの後にいるロイドと目が合うと刹那「私の命をかけて守ります」と姿勢を正した。


 出店へ戻る時間だと、ロイドもジュークも名残惜しそうに行ってしまった。

 手を振るエリーゼに何度も何度も振り返りながら。


 直後に、新入生なので出店が無いサイラスが急いで現れた。


「うわっ、まじで来てんな。何か兄さまが一緒にいろって言うから」


 サイラスが合流して、3人でアリストのお店へ向かった。


 先ほど「アリストのクラスの店に連絡せずに行ってみてよ」とジュークが楽しそうに言っていたのだ。





「いらっしゃいま……」


 きれいなドレスを着た美人が出迎えてくれた。


 雰囲気がアリスに似てるわ。アリスに姉妹がいたら、こんな感じかしら。



 その美人の顔色が見る見る悪くなっているので、エリーゼが声をかけようかと思った時、


「エリィ?! 何で?!」


 あら、声が裏返ってるけどアリスの声だわ。


 まさかの女装したアリストが受付嬢だった。


「アリス! すっごい美人だわ。そのままでも引く手あまたね」


 茶化すように笑うエリーゼの手を取って、アリストはきれいな顔のままでエリーゼの手にキスをした。

 エリーゼには度々していることだが、実のところアリストがそんなことをするのは稀だ。

 周りの学生やお客たちは驚いて、お相手は誰だとざわつき始めた。


 それに、男女でなく美しい女性同士に見えるそれも、それでなかなか響く良い光景もあって、周りの視線を総取りにしている。


「エリィに好きになってもらわないと意味ないんだけどね」


 アリストがそう言ってエリーゼを見たが、すぐに顔が崩れた。


 しっかりエリーゼの耳を塞いで、リリアナがアリストに向かってニヤリと笑っているのだ。


 隣で同じ顔をしたサイラスが同様にアリストへ笑みを送っている。


「殿下、おきれいです。エリィ姉さまには少し負けるけど」


「エリィに身内になってほしい俺たちは、それなりに兄さまの味方なんで」


 全面的にと言わないあたりが、この双子らしいところだ。





「ああ、いたいた。お前がミロウ侯爵の次女か」


 アリストの出店から出て、3人で楽しそうにロイドのもとへ向かっていると、皇国内の2大公爵家の1つジャイ公爵家の長男が、不躾な態度で現れた。


 ジャイ小公爵は、高位貴族同士で仲良くした方が良いとか、自分たちが国を掌握するのだとか、残念な貴族の子どもがよく言う台詞のテンプレをこれでもかと言い放っている。


 エリーゼは全く聞いていなかったので何も響いていないのだが。


 このつまらない演説を、失礼のないように聞いている振りをしながら、エリーゼは相手のチェックをしているところだ。


 確か、ジャイ小公爵よね。

 交流がないから、よく知らないのよね……

 ああ、やっぱり6年生の校章がついているわ。

 落ち目の脱税公爵といつも父が怒っているけど、公爵家の方が上だし、下手に反論するのはやっぱりマズイわよね。


 今にも殴りかからんとしているサイラスとリリアナを、エリーゼは笑顔で首を振って制止した。



「長女は他国の血が混ざって妖艶な雰囲気で好みだったが、年が合わなかったんだよな。しかしお前も美しいから、婚約してやっても良いな。そばに置くものは美しくなければ価値がない」


 父親のミロウ侯爵の立場を考えて、エリーゼは角が立たないように対応をしなければと分かってはいるけれど、怒りで手が震えている。



 2人を止めなければ良かったかしら。

 でも、カガリー辺境伯家の立場が悪くなるのは避けないと。

 それに、私はロイドさんと婚約したいの。

 一昨日いらっしゃって。


「御冗談を」


 青筋が見えるような笑顔で、エリーゼは軽く済ませようとしているのに。


 公爵令息は「学園祭を案内してやろう」とエリーゼの腕をつかんで連れて行こうとした。


 痛いっ


「ちょっ、お待ち下さい」


 エリーゼの言葉は全く聞かれることなく、腕を引っ張られていく。


 周りいる者たちも、彼が公爵令息ということで誰も止められず、ただ状況を見守るしかない。


 エリーゼに制止されているけれど、サイラスとリリアナがもう我慢できないと飛び掛かろうとしたのを、後から誰かが止めた。


 怒りの形相になっていた双子だが、心からホッとして足を止めた。

 どうやら落ち着いて見守ることにしたらしい。



「手を離せ」


 息を切らせたロイドが、ジャイ小公爵の腕をつかんで止めた。


 ロイドの登場にエリーゼは驚いたけれど、安堵して泣きそうな顔で笑顔を作った。


 申し訳無さそうにロイドがエリーゼの頭をなでて、視線をつかまれていた腕にやった。

 エリーゼの腕に手跡のアザのようなものが付いていることに気付き、ロイドの目が一瞬で鋭くなった。


 止められて憤っているジャイ小公爵の方を、ロイドはゆっくりと振り向いた。


「おい、知ってるよな。カガリー辺境伯家の俺には序列は通じねぇって。俺は容赦しねーからな。やるか?」


 慈悲の欠片もない目つきで、ロイドは指2本を公爵令息の喉元に突き付けた。

 必死に首を横に振っている公爵令息に更に近付き、脅しのような声で話し始めた。


「まだ公表してねーが、俺の婚約者だ。2度と話しかけんな」


 ジャイ小公爵はロイドの手を払い、舌打ちをして去っていった。


「サイラス、リリアナ。カガリー辺境伯家は特別な地位にある。お前たちも序列は気にする必要なんてねーんだ。次からは遠慮せず最初からやってやれ。俺が責任取ってやる」



 騒ぎを聞きつけて、ジュークもやって来た。


「助かったよ。僕じゃあ余計にややこしくなるとこだったから。でも助かったんだけどさぁ……何で、エリィたちが危険な目に遭遇してることが、分かった?」


 ロイドが迷いなくエリーゼのもとに駆け付けたことに、どうしても納得がいかないらしいジュークが、ロイドに詰め寄っている。

 そして、エリーゼの方を何気なく見た。


 エリーゼの耳に、ロイドから贈られたイヤリングが誇らしそうに光っている。


「え、お前、まさか……」


 視線をゆっくり向けてくるジュークに、ロイドは焦って視線を外し、宙を見ている。


 怒りを抑えながら、ジュークがエリーゼのもとへ行き「それ外して」とエリーゼの耳元に手を向けた。


 すると、エリーゼは自分の耳を押さえて、後退しながら小さな声で抵抗をしたのだ。


「だっ、ダメよ。外したくない」


 最後は聞き取れないくらいの消えてしまいそうな声で、でもジュークにはしっかりと聞こえてしまった。


 エリーゼは真っ赤になって斜め下を向いている。


 一瞬で顔面蒼白の涙目になったジュークが、力無くエリーゼの両腕をつかんだ。



「え、まじで? 嘘でしょ……最悪だ」






 ミロウ侯爵家の美しいご令嬢、それだけで噂になるには十分だったけれど。


 ロイドとアリストとジュークという、学園で目立っている3人に大切にされていることも露見し、さらに注目を浴びてしまったエリーゼ。



 けれど、もう決して学園では話し掛けられたり囲まれたりはしないだろう。

 皆、何よりも自分の命と家名を大切にしている貴族の令息たちだから。



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