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10…学園祭①こっそりのはずが

 もうすっかり春らしい気候になり、窓から入ってくる光と風が心地良い。


 エリーゼたちも学園が始まったので、タウンハウスで生活を゙している。

 ミロウ侯爵家の姉弟は、登校時は同じ馬車だけれど、帰宅時間がバラバラだ。


 今はエリーゼが午後の授業が終わって帰宅して、ソファでゆったりとお茶を飲みながら、一息ついているところだ。


「あ、来てるわ!」


 先ほど従者から渡された手紙の中に、エリーゼが待ちに待っていた物があった。

 リリアナからの封筒を、嬉しそうに丁寧に開けて中を確認すると、装飾された招待状が出てきた。


「男子校のは、こんな感じの招待状なのね」



【学園祭へのご招待】



 昨年はジュークを見に行きたくて打診したら「絶対に来たらダメ。色々大変だから」と言われて泣く泣く諦めた、男子校の学園祭。


 先日の滞在中に、リリアナに内緒で学園祭に行く計画に誘われたので、今年はリリアナとこっそり訪問することになったのだ。


 皆を見てすぐ帰るなら、大丈夫よね。




「エリィ姉さま! 会いたかった!!」


 学園までミロウ侯爵家のタウンハウスよりカガリー辺境伯家のそれの方が遠いため、リリアナが馬車に乗ってエリーゼを迎えにやって来た。


 馬車を降りて飛びつかんとするリリアナをエリーゼは笑顔で抱きしめてから、2人は馬車に乗り込んだ。


「内緒で行くのってドキドキするわね」


「あ、兄さまの素を見ても、嫌いにならないであげてね」


 そんな会話をしながら学園へ、馬車は順調に進んで行く。



 学園は男子校も女子校もそれぞれ校門が1か所のみで、そこでの抜け道のない身体検査の後やっと入ることができる。

 誰もが帯刀を許されておらず、防魔により特定の場所以外は魔法も使えず、厳重なセキュリティが施されていてため、皇国内で最も安心安全な場所だと言われている。


「きっと私たちだけでも、平和に行って帰れるはず!」


 リリアナが張り切って、そう言っていたのだが。



 もう早速、2人は男子生徒たちに囲まれて困っている。


「あの、お名前をうかがっても?」

「どなたかと予定は?」

「うちのクラスの店舗に来られませんか」


 勇気を振り絞って質問してくる層と、その周りに近くで見ようと寄ってくる層ができて、身動きが取れない状態になってしまった。


 エリーゼの隣で、リリアナが頭を抱えている。


「こんなはずじゃ……エリィ姉さまが美しすぎることは、分かっていたはずなのに」


「私ではないわ。リリアナがとっても可愛いよの」


 手を振りながら、エリーゼは心の底から自分ではないと否定している。


 ロイドが美形なので、やはりリリアナも、双子の片割れのサイラスも整っているが、それでもエリーゼは別格だ。

 しかし、ミロウ侯爵家の高い顔面偏差値の中で育ったエリーゼは、自分の美しさを分かっていない。



 とにかく動けないので、エリーゼが困っていると、突然リリアナが驚がくして真っ青になり、アワアワし始めた。


 層になっている男子学生たちを蹴散らしながら、こちらに迷いなく進んできている長身の人がいる。



「あ……ロイドさん?」


「やっぱりいた。夢か?」


 少し震えているエリーゼの手を取り、ロイドは信じられないという顔をしている。


 エリーゼの隣で、血の気の引いたリリアナがしょんぼりしながら口を開いた。


「残念ながら現実です。ごめんなさい、兄さま。こっそり来て驚かそうと思ってたの……エリィ姉さまの美しさを過小評価していたつもりはなかったんだけど」


 ロイドがため息をついていると、遠くから「何、どういうこと?!」とエリーゼの聞き慣れた声が響いた。


 ロイドの手をギュッと握りしめて、今度はエリーゼがしょんぼりしてしまった。



「エリィ?!」


 ああ、可愛いジュジュの声が裏返ってるわ……


 エリーゼは気まずそうにロイドと繋いでいない方の手を上げて、弱々しく振って見せて、ジュークを脱力させた。



 ロイドが来た時点で、大半の人間は散っていったけれど、ジュークも来たのがトドメとなり、エリーゼとリリアナを囲っていた人だかりは完全になくなった。


 2人は一体どんな学園生活を送っているのか気になったけれど、エリーゼもリリアナもそんなことを聞ける状況ではない。


 今はおとなしく、同じ背丈のジュークに抱きつかれてながら、グチのようなお説教を、エリーゼは静かに聞いている。


「だから来てほしくなかったのに。今年は何も言わないから、おかしいなと思ってたら。いつも、もう少し自覚してって言ってるよね」


 先ほどから、しょんぼりしながら「はい」としか返事をしないエリーゼを見て、ジュークは段々と可哀想に思い始めて、何とも言えない表情になった。

 結局のところ、ジュークはエリーゼに甘いのだ。


「くそぅ……もう、来たなら、楽しんで行きなよ」


 ジュークがそう言うと、エリーゼは顔を上げて嬉しそうに目を輝かせて「ジュジュ、大好き!」とジュークに抱きつき返した。


 そう言われて嬉しい顔を我慢できていないジュークが、嬉しそうなのに悔しそうな複雑な顔をしてしている。



「ジュークさんも、エリィ姉さまに甘々なのね。気持ちはとっても分かるけど」


 リリアナがそうつぶやいた後に、自分もお説教中だったことを思い出した。


 しかし、エリーゼとジュークのやりとりを、ロイドがうらやましそうに見ながら説教をしているので、リリアナも気になって仕方がない。

 極めつけに、エリーゼがジュークに抱きつき返した時から、ロイドは全く視線を戻してこないのだ。

 ロイドはリリアナのつぶやきに全く気付いていない。


「兄さま。そんなにエリィ姉さまが気になるなら、お説教は帰って聞きます。今日は私もタウンハウスに泊まるから」


 驚きの顔で見てくるロイドに「え、自分がどこ見てたか気付いてなかったの?!」とリリアナはもっと驚いたけれど。



 各自のお説教は終わった。

 ロイドとジュークの登場で、けん制はできたはずで、今後はとりあえずは大丈夫だろうと、エリーゼとリリアナはそのまま学園祭を見ることになった。


 エリーゼとリリアナはホッとして、こっそり目を合わせて、嬉しそうに笑った。



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