俺とコイツが同じ進学先ってまじですか?
それから時間は過ぎ、ご馳走を大体食べ終え食事は終わりを迎えた。
秀子さんはソファーに親父と2人して肩を触れ合いながらワインを嗜みつつ恋愛ドラマを見ている。
随分と若者がしそうな事もするんだなと、そんな事を思いながら俺は適当に皿を片付ける。
「その、これから宜しくな」
何皿か重ねてキッチンにて皿を洗う桜の元へ向かった俺は次いでに挨拶もしておく。
今思えば今日会ってからまともな挨拶を桜としていなかった。
だが桜は俺の好意とは裏腹に、何も反応は示さない。
「あーと、後部屋ってどんな風になってるんだ⋯⋯?」
「扉にネームプレート、掛けてあるから」
「そ、そうか⋯⋯。ありがとな」
俺は変な苦笑を浮かべながらその場を立ち去ろうと、踵を返そうとしたのだが。
「私達が兄妹になったこと、高校では秘密だから」
「お、おう」
今はもう4月に突入し、高校生活が始まるのもあと数日。
高校では帰り道に道草も食えるし、給食ではなく弁当か学食になる。
他にも色々と自由度は高まり、明らかに中学校よりも楽しそうだ。
「高校ってどこだ?」
俺は踵を返して桜に向けていた背を反対方向に向け直す。
そう言えば聞いていなかった。
桜も俺と同い年の15歳で、今年受験生が終わった新高一になる。
であるならば進学先の高校は当然決まっている筈だ。
場合によっては高校同士近くなるかも知れない。
「東園寺高校」
「まじかよ!?」
俺は桜がポツリと呟くように言い放った言葉に、驚きの声を隠せない。
何故ならば、その高校は。
「俺も東園寺高校なんだ」
「それ、ほんと?」
俺も進学する高校なのだから。
東園寺高校は県内公立高校屈指の進学校だ。
国公立大学には三桁を余裕で越し、私立でも難関校に数多くの合格実績を出している。
受験生ならば誰もが憧れ目指す。
皿洗いの手を止め、俺に視線を飛ばし訝しげに視線を送る桜。
まさか幼馴染が家族になり、それもまた高校も同じと来れば疑う気持ちも理解は出来るが⋯⋯。
生憎とこれはれっきとした事実なのだ。
「わざわざ嘘つくと思うか? 何なら先日届いた制服見せてもいいぞ」
「いや別にいいけどさ。⋯⋯それなら尚更私達が家族だってこと、バレないようにしないとね」
「そうだな」
俺は適当に視線を泳がせながら言葉を返しておく。
何故家族だということを秘密にしたがるのか理解できない訳じゃないが、俺は決して愉快な気分にはならない。
桜の俺に対する言動は明らかに俺を嫌った上でのものだ。
嫌いでないならばわざわざ秘密にする必要性が理解できなかった。
「お前って頭そんなに良かったんだな」
「⋯⋯そうだけどそれがどうかしたの?」
「俺の記憶の中ではお前はそんなんじゃなかったからな」
俺を横目で見る桜は明らかに眉を下げて不快な表情を露にしている。
これ以上ここに居れば流石にマズいと思った俺は『じゃあな』とだけ告げてその場を後にする。
⋯⋯にしても。
昔のアイツはもっとドジで、明るくて、まるでガキ大将みたいな奴だった。
だが今はまるっきり変わっていて、そんなガキ大将の桜は見る影もない。
やはり8年という空白の時間はあまりにも──
「長すぎたな」
この一言に尽きるだろう。