楽園の後
楽園の後、世界は混乱に落ちた。多くの人々は地下に潜った。暗黒の光線から身を守る為である。その暗黒光線は四六時中注いでいるわけではなかった。毎週末太陽の上った朝から晩まで降り注いだ。人々はほかの日に何をやっているかというと太陽光パネルから電気を回収していた。良子と房江はいつも一番乗りで回収に来た。大量の電気をコードから充電器に吸い取ると二人はそそくさと帰って行った。暗黒光線に何の害があるかというと浴びただけで即死するのだ。だからみんなカレンダーを真剣に見た。良子と房江には小さなおチビちゃんがいた。その子はいつも頭の中でケーキカットをしていた。脳の中のドッペルゲンガーに苦しんでいたためである。カットするとドッペルゲンガーが外れるのだ。たまにナイフが怖くなることがあったが普段は気にしないようにしていた。この子は女子である。暗黒光線のカレンダーは普通に本屋などで売っていた。光線の大本は何かというと太陽系に接近したある暗黒惑星だった。ちょうど1週間周期で地球の周りを回るようになったのだ。以外にも中は空洞になっていてすっからかんの惑星だった。始めに何人かが死んだ。暗黒光線の意味を理解していなかった頃だ。1週間で暗黒光線の殺傷能力は世界に理解された。それからずっとこんな感じだ。週末に死者が出た。暗黒光線のことを忘れていたからだ。その男はおもむろに家の窓を開け暗黒光線をくらった。そして溶けるようにして死んでいった。そのくらい強力なのだ。暗黒の週末の少し後も人々はびくびくしていた。暗黒惑星の周回軌道がずれて翌日まで持ち越されてはたまったもんじゃないからだ。
良子と房江は朝食をとっていた。今日は月曜日。暗黒光線は来ない。スクランブルエッグとウインナーとご飯だった。昼食のことも考え始めていた。そして昼食はワインとシラスのご飯と餃子になった。近所のスーパーに買い出しに行った。夜と翌朝の分もだ。良子は果物が苦手だった。房江は野菜が苦手だった。しかし野菜は食べないといけないので良子は房江が食べやすいように考えて料理した。油で揚げたものが多かった。おチビちゃんの名前は和子といった。和子はいつも立体パズルで遊んでいた。良子が時々和子のもとにやってきて一緒に立体パズルをやった。房江は英会話の勉強をしていた。最近は単語帳ばかり見ていた。和子は房江の単語帳から1単語取り出して紙に書いた。そこにはCUREと書かれていた。
暗黒光線からの救済はいつ訪れるのだろうか。そもそもあの暗黒惑星はいったい何なのか誰も理解していなかった。天文学者もお手上げでひょっとしたら異次元存在ではないかとすら考えられた。時差の違う隣の中国では一時間遅く暗黒光線が来た。毎週末だ。中国の新聞社CHINAPOSTは連日暗黒惑星について記事が載った。そしていつも決まって土曜日の夜、明日は暗黒光線の日ですと記された。人類からかけた週末。地球のみんなはしょげていた。一度和子が誤って日曜日に外出しようとしていた。良子と房江はびっくりして急いで和子を扉の前でギリギリ止めた。安心した二人はそのまま和子をベットまで連れて行って寝かせた。今日の分の料理は昨日スーパーに買い出しに行っていた。いつもの事だ。国連では毎土曜日に会議が開かれ暗黒光線について議論された。暗黒光線を防ぎながら週末に活動できないかとかそういったことだ。すると一つの案が出た。体を全部黒い物体で覆って足元だけ見えるようにして歩行するのだ。外部の情報はレーダーによって探知され人間に送られていく。毎週末にやって来る暗黒光線から食用動物を守る為農家は黒いビニールシートで農場を覆った。平日はカバーを外しておくのだ。暗黒光線は科学者の間で何か別のエネルギーに利用できないかと言われていた。暗黒光線のエネルギーを何かの作用によって反対の物質に変えれないかということだ。そこである学者が体を黒い物体で覆って特殊な吸引装置を開発し吸引してみた。そしてそれを何かの化学物質で反転させられないかと目論んだ。するとその装置に変な物質が発生し始めた。ポップコーン一個を載せると100個に増殖した。これは驚くべき発見だった。すぐさまそれは国連に流され世界中の民に伝えられた。
まさに闇からの再生だった。世界中が歓喜した。BMWをそこに入れると100台になるのだ。まるで魔法のようだった。その後地球の民は豊かな暮らしを謳歌した。科学技術も異常なスピードで進んだ。今や普通に車が空を飛んでいる。良子と房江は有名人の結婚式に出たのが唯一の誇りだったがなんとトヨタ車を100台所有しているのだ。物質はそうやって増え続けた。地球は50年後物質でいっぱいになるだろうという試算が出た。そこで宇宙に住み替えようという人が増えた。良子と房江は地球に残った。和子は大きくなると宇宙に飛び立っていった。和子37歳。彼女は姓を中島といった。和子は宇宙で結婚した。それも異星人とだ。その人は火星の民だった。紀元前1万年前に地球を飛び立った元地球人の末裔だった。結婚生活は長く続いた。火星の民は地球のことをよく知っていた。その知識は地球の科学者を遥かに凌駕していた。
和子100歳。あれから63年。和子はその火星人と別れて地球に帰ってきた。良子と房江はまだ生きていた。どちらも130歳になっていた。三人は抱き合い再会を祝った。元々通信自体はしていたのでそれほど寂しいということはなかったが、それでもうれしくてしょうがなかった。ところがどっこい生活に入るとその違いにビックリするのであった。火星では地下で生活していたので太陽を浴びることもなく暗黒光線を浴びることもなかった。まさにモグラのような生活だったのだ。久しぶりの地球に和子は涙した。中島和子は教師になった。火星専門のだ。そこから何人かが火星に飛び立って行った。地球人の寿命は300歳に伸びた。あいかわらず地球の物質は増え続けた。それはどんどん宇宙空間に飛び出していき太陽系に充満した。既に暗黒惑星から地球人を守る宇宙法や科学技術は完成していて和子も良子も房江も困ることはなかった。
ところがなんと今頃になって暗黒惑星の周回軌道がずれはじめたのだ。一ミリずつそれはずれていった。計算によると100年後には暗黒の曜日が月曜日に変わるだろうと言われた。科学者の間で高度な計算が成されていった。そのたびに新しいカレンダーが出版された。中国の科学者が驚くべき試算を出した。増え続ける物質の量は50年後ではなくあと10年でもう一つの地球を作るだろうと。それもこれもすべて人間の仕業だ。人間というのは本当に欲深い生き物だと思う。そして二十年後には月に達するだろうその物質量は驚くべきものだった。和子が87歳の時に50年だから随分早い。毎週末物質は増え続けた。暗黒惑星の軌道がズレ始めたのが和子が100歳の時。和子が200歳の時に完全に暗黒の曜日は月曜日に変わるだろう。科学者の間ではあれが異次元存在なのではないかとよく囁かれていた。この広い太陽系にだってあんな変な物質は存在しなそうだからだ。
良子と房江は自分たちがあと何年生きるのかについてよく考えた。ある日の午後、良子と房江は遊園地に出かけた。そこはネズミーパークと言ってネズミのキャラクターがマスコットの遊園地だった。キャラクターネズミーは本当に人気だった。日本とアメリカの融合したようなイメージのキャラクターでハーフの子とよく重ねあわされた。ネズミーは推定年齢400歳。地球のどの人よりも高齢だった。遊園地にはジェットコースターや回るコーヒーカップの乗り物お化け屋敷などいろいろとあった。ネズミーをかたどったパンも売っていた。それはとても美味しく良子と房江はそれぞれ三つも買った。房江は自分が後200年生きるのではないかと良子に言った。良子も同じくらいかなと言った。一緒に来ていた和子は一人ジェットコースターに乗っていた。和子は自分の100歳の誕生日を良子と和子に祝って欲しかった。なのでネズミーの巨大なぬいぐるみをねだった。そしてそれは購入された。しかし、帰り道なんと三人は泥棒にあった。ネズミーの巨大人形は盗まれ犯人はそそくさと逃げて行った。良子が犯人の顔を覚えていた。翌日警察に被害届を出した。そして犯人は簡単に捕まった。150歳くらいの男だった。中肉中背でウブロの腕時計をしていた。帰ってきたネズミーの巨大人形を和子は本当によくかわいがった。そしていつもそばにいた。良子は135歳あたりから統合失調症にかかった。トイレの感覚が曖昧になっていつも残尿感があるのだ。24時間いつでもトイレに行きたかった。変な病気である。でも実際には妄想なのだ。その当時の医学では治らないと言われた。心療内科にも通った。何か霊的な問題があるのかもしれないと思ったからだ。すると良子は50年前に恋人を失くしていた。その人がまだずっといる感覚があるというのだ。たまに朝起きると背中の後ろが水浸しなっていることが何度かあった。まるで幽霊でもいるかのように。その男性の名前は中村隼人と言った。中村さんは生前良子と熱海に旅行に行く計画を伝えていてそれっきり帰らぬ人となった。房江は試しに熱海に行ってみればと言った。そこで良子は熱海に行った。温泉に入り身を清めた。するとどうだろう。体が軽くなった感じがした。そして中村隼人さんのイメージが温泉の外に出て行った。それからというもの良子は気分がよくトイレもすっきりしていた。科学が霊の世界に視線をもって来たのもこの頃だ。人間の実態は幽霊ではないかと以前から科学者の間でささやかれていた。死後の世界というものがあるというなら人間は元々霊という永遠の存在で肉体は抜け殻でしかないのかもしれない。
良子と房江と和子は「死後の席」という映画を観に行った。なんでも人生には第二ステージがありそれが死後の世界なのだそうだ。映画館の中の席という席が死後の世界とつながっているというアトラクション的映画だった。だとしたら中村隼人さんの幽霊は何を伝えに良子の元を訪れたのだろう。単なるいたずらか何かか。良子は考えた。そしてある結論に達した。中村隼人さんは確実に霊としてそこにいたと。背中の後ろの水がその証拠である。霊というのは水と関係しているのかもしれない。水神様にお参りに行った。良子はそこで何かを感じだ。それは地球の大動脈的な霊の流れである。この世は二重になっていて、物質世界と霊的世界に分かれているがそれはどこかで密接につながっている。人間はそのどちらにも存在している。寝ている間などは人間はどこで何をやっているのか分かったもんじゃない。寝ている間に霊として空を飛んでいるかもしれない。
良子136歳。房江136歳。和子106歳。まだ中年にも達していなかった。中年がだいたい150歳。映画「死後の席」のあと三人は真剣に霊の世界を考えるようになった。永遠の存在かもしれない霊のことを。よく前世の記憶というのがあるらしく、良子と房江と和子にもそれはあった。良子は前世で男性で房江は女性だった。和子は人間ではなくワニだった記憶があるらしい。霊というのは地球やあらゆる惑星をも超越した存在なのかもしれない。水神さまにまたお参りに行った。良子は何かを感じとった。この世界の変化をである。ついに物質世界と霊的世界が明確に繋がり始めているのではないかという感覚を覚えたのだ。宇宙は新時代に突入したのかもしれない。霊的に発達した人類の時代がやってくるのかもしれない。それは常に霊的世界と交信を続ける人類の新たなる未来だ。生きながらにして永遠の存在となる人類だ。
変化は徐々に起こり始めた。寝ている間に幽霊と交信したり、空を飛んでる夢を見たり、そんな人が増え始めた。空間を超越して自分が存在している感覚を覚える人が増えた。それは四次元とも五次元ともとれる不思議な感覚でそれにみんな驚いた。良子と房江と和子もそれを体験した。映画「死後の席」に続編が出た。「死後の席2」だ。あちらの世界の人々がこちらの世界に普通にやってくる話だった。霊が現出するのだ。こちらの世界の人々に見えるように。そして交流は始まった。カフェでマクドナルドで幽霊と人間が会話しているのだ。実に不思議である。幽霊の人々は連邦を作っていた。それは超多国籍で生前の故国とつながっていた。通称幽霊合衆国だ。幽霊は食べ物を食べることが出来なかった。何故か物を動かすことは出来た。微力ながらである。ある幽霊はマクドナルドでペンを持ち何かを書いていた。それはこっちの世界の人々に宛てた手紙だった。こう書かれていた。「我々の子供たちよ。汝の未来を指し示そう。それは永遠の存在幽霊だ。あなた方は我々と一緒になるのだ。幽霊世界は別段すばらしいわけではない。ただ永遠なのだ。味覚も触覚も作ろうと思えば作れるがそんなことをする幽霊はあまりいない。幽霊でいることはそれらを超越した感覚だからだ。」和子は幽霊と会話してあることに気が付いた。自分も以前幽霊だったことがあるということだ。記憶があるのだ。人は永遠の存在とはそこから言えるのかもしれない。順繰り生と死を繰り返している人はたくさんいた。男だったり女だったり動物だったりした。魂の数だけ存在がいる。この広い宇宙のどこかにまた永遠の楽園がある。幽霊たちは永遠の楽園の場所を知っていた。それは宇宙の中心にこっちの世界からは位置していた。幽霊世界は宇宙を超えて無限に存在していた。魂は融合する事もあった。もう以前の存在では永遠になくなるのだ。そうして大きくなった魂は楽園へとよく足を運んだ。人間世界の千手観音とかがそうである。
良子は朝食を作っていた。するとそこにある幽霊がやってきた。中村隼人さんの霊だ。中村隼人さんは良子が朝食を房江と和子と一緒に食べるのを眺めていた。それに三人は気が付いた。良子はコインを高々とあげたそして表か裏で中村隼人さんをそのまま受け入れるかどうか決めた。コインは表だった。つまり中村隼人さんの幽霊は三人の家に居座ることが決定したのだ。着替えだけは見ないようにした。中村隼人さんはよくネズミー人形の傍にいた。和子と会う事が一番多かった。中村隼人さんは和子とチェスをした。いつも中村隼人さんが勝った。直観力は幽霊のほうが強いらしい。それから幽霊は突然消えることが多かった。ふわっと消えるのだ。そしてまたすぐに現れた。幽霊は点滅していた。
科学者の間で幽霊研究が進んでいた。そこである結論めいたことが判明した。幽霊は点滅しているということだ。人間の瞬きと同じスピードで点滅していた。こっちの世界に出現を繰り返しているというのが本当のところだった。間で霊の世界に戻っていたのだ。こちらからは見えない霊の世界。四次元とも五次元とも取れる世界だ。ただ人間にも寝ている間だけその霊の世界が見える時があった。その瞬間人間は幽霊になっているのだ。
暗黒惑星は科学者の間で霊の世界から来たのではという話が持ち上がっていた。暗黒惑星出現の謎。しかしそれは実際にはある人間と霊が関係していた。古代ローマの王が死んで幽霊になり宝石と融合したことによって生じたのがあの暗黒惑星だった。千何年も前の人間が宝石と融合した幽霊になったのだ。宝石はこちらの世界のものだった。暗黒惑星はしばらく宇宙空間を漂いそして地球の周回軌道に入ったのだ。それは悪意と尊厳に満ちていた。人間に対する恨みで満ちていた。古代ローマの王は今頃になってこっちの世界に帰ってきたのだ。宝石と融合することによって。それなら他にも例があるのではと思うだろう。そしてそれはあった。こんどは地球の近くで白色惑星が現れた。それは善意に満ちた惑星だった。20歳の頃に死んだ日本人の幽霊がこれまた宝石と融合して出現した惑星であった。その人の名は早川守さんと言った。読んで字のごとく守るのだ。白色惑星は地球を守っていた。暗黒惑星のすぐ後に出現した惑星でじつはある連関があった。早川守さんは高校生の頃その古代ローマの王のことを勉強していたのだ。だから暗黒惑星が古代ローマの王と関係があることをすぐに知った。時代を超えて幽霊と幽霊の対話が始まる。白色惑星は暗黒惑星の軌道に近づくとあることをしゃべり始めた。その悪意が意味のないこと。すべては自分のせいであること。ある意味で人間に恩恵を与えていることなどだ。暗黒惑星は次第に穏やかになっていき一時期光線を浴びても誰も死なないのではないかと言われる頃もあった。しかし、光線の強さは前にも増して強くなっているときがあった。喜怒哀楽の激しい王のようだ。早川守さんはゆっくりと王を諭していった。次第に王は精神を清め暗黒惑星は地球に恩恵を与えるだけの存在になった。
暗黒惑星からの光線が恩恵だけになると人々は王の霊に感謝して記念碑を立てた。アメリカ合衆国にである。それを知った王は喜んだ。混乱の後世界は希望に満ちた。カレンダーも販売中止になった。中国の広州タワーの周囲に幽霊が集合していた。これから来る輝きの万年王国到来を告げるために。人々は豊かさと霊性を享受した。国連ではある不思議な現象が起きていた。仮面を被った幽霊がのそのそと国連事務所内に侵入してきたのだ。幽霊は点滅していた。そしてクラッカーを開けて祝いが始まった。幽霊は舞踏した。リズミカルに。幽霊たちは盛大な拍手で迎えられた。舞踏はずっと続いた。夜中まで。そして最後に幽霊たちは仮面を脱いだ。そこにいたのは国連職員の死んだ親たちだった。国連職員たちは涙した。感動の再会に国連事務所内は沸き上がった。それはTVで中継されていて世界中の人々にそれが伝わった。そして一瞬で幽霊たちは消えた。宇宙の中心にある楽園に帰ったのだ。国連職員の一人が万年王国万歳と叫んだ。それに続いてその他の職員もそう叫んだ。そしてその頃からねじ巻き宇宙人というのが話題になっていた。生きながらにして死んでいる人間のことでそれは霊性を帯びていた。人体は宇宙空間に出ると死ぬ。その死んだ状態で幽霊となって死んで硬直した身体の周りを幽霊として飛んで身体を運んでいるのだ。ねじ巻き宇宙人は幽霊と同じだった。ただ自分がわざと死んだという自覚症状があった。ねじ巻き宇宙人はよく国連内部を出入りしていた。するとある変化が起きた。もう人間が病気や何かを恐れる事はなくなった。ねじ巻き宇宙人になればいいのだ。地球から遠く離れた似たような惑星でも同じことが起こっていた。ねじ巻き宇宙人は人間などの存在世界と幽霊世界の中心的存在となった。彼らは中国の王さんと同じ役割をした。よき相談役になった。宇宙は広い。他にもそういった惑星がたくさんあった。ねじ巻き宇宙人は宇宙の中枢になっていった。別段誰でもなれるのだが。願い事がもう一つかなうとすれば幽霊が簡単に人間や他の惑星人に戻れるかどうかだった。だがそれは無理だった。ある周期のようなものが決まっていてまた人間に他の惑星人に生まれてくるのだ。そう考えるとすべてはシステムで世界は予定されているようだった。神様がいるとすればそれはそのシステムのことを指すのではないかと思われた。それは誰にも本当には理解されなかった。でも神様は確かにいると感じる人や幽霊が多かった。人間や幽霊の目的が神と合一することは一つの目的になっていた。オカルト世界の本によくその記事が載った。月刊マーとかいう本だ。
良子と房江と和子はカレーを食べていた。インドの秘境に神と合一したというインド人がいるという記事が月刊マーに載っていた。システムと合一することだ。流れを感じ取ることができるようになるというのだ。霊的宇宙の流れを。月刊マーには毎回この記事が載った。
システムを理解できればあらゆる未来に対する苦しみから解き放たれるからだ。自分の未来を知ることになるのだ。和子はカレーを食べ終わると中村隼人さんのところに行った。そしてまたチェスをした。システムと合一する方法は簡単だった。まず歴史の本を読みそれから自分がその本のどの時代と関係があるかに思いを巡らすのだ。そしてその当時生きていた頃のことを思い出すのだ。それから歴史の道のようなものを発見する。自分史だ。そして仮死状態に入るのだ。すると時間を超越して自分がこの世界に存在していることを感じ取れるようになる。すると他の人々のシステムも見え始めるのだ。それから宇宙すべてのシステムが見えるようになってくる。これで完全にシステムと一体化した状態だ。中村隼人さんはマーの記事を見て自分もやってみたくなった。既に中村隼人さんは幽霊なので仮死状態になる必要はない。歴史の本を読んだ。すると自分が19世紀ロシアの農民であったことがわかった。それから歴史の道をたどり時間を超越して霊的世界のシステムと合一するのだ。中村隼人さんにはすべてが見えた。これから和子がどうなっていくことや良子や房江がどうなっていくことなど。ある意味ですべてがくだらなくなった。和子も良子も房江もそれをやってみた。四人は砂漠の民になった。荒涼として何もない世界だ。すべてを知ってしまった四人はあてもなく世界を彷徨った。神と同じである。完全に合一したのだ。
四人は新しい人生のスタートをきった。預言者として人間世界と幽霊世界に存在した。本当のところは誰でもなれるのだがそれは黙っておいた。しかし、そんな四人にもわからないことがあった。霊的宇宙の始まりのことだ。この世界がどうやって始まったかについては神と合一してもわからなかった。それを調べるのが四人の楽しみの一つになった。四人は世界の過去現在未来のすべてを知っているため存在していないのと同じだった。まさしく無だ。ここに無人間と無幽霊が誕生したのだ。孤独感も何もなかった。ただただ無なのだ。宇宙は無から始まったといわれる。まさにそんな状態に身をおいているのだ。虚無とも違う。ひょっとしたら四人はもうすでに宇宙の始まりにいるのかもしれなかった。終わりを知っているので次の始まりを期待せずにはいられなかった。むしろそれを作る役割が自分たちにはあるのではないかと思ったがだれでもなれるので人類すべてがそういう存在になったらどうなるのか少し楽しみにした。そしてそれは起こった。国連からその情報は流れ地球全土に波及した。まもなく新宇宙が誕生しようとしていた。地球やあらゆる惑星の存在たちによって。新宇宙はのどかな田園地帯から始まった。霊性を帯びた空間である。すべての始まりはある男だった。子猫を腹に抱くと思いっきり息で顔を吹いた。猫はくすぐたがった。その息吹が世界の始まりだった。田園地帯そうした始まりがいくつもあった。良子も房江も和子も中村隼人さんも始まりに加担した。種無しブドウを喉から吐き出すという荒業に出た良子は面白い宇宙になるのではと期待した。房江は阿波踊りをしていた。和子はテントウムシを食べた。中村隼人さんは念力でソファーをひっくり返した。ソファーは何故かそこにあった。
次第に全存在が新宇宙の誕生に加担していった。宇宙のすべてのである。新宇宙の存在はすべてが光の存在だった。光子として移動し光子として止まった。光の世界となった新宇宙は以前とはまるで違っていた。存在は以前の世界も懐かしがった。そして戻っていった。新宇宙は以前の宇宙と並行して存在した。このパラレルワールドは一見つながっているようにみえて実はかなりの隔たりがあった。新宇宙は存在の意味が幽霊を超えていた。光子はものすごい勢いで楽園を構築した。いわば存在の寝床だ。こっちの世界のPCの前でスナックを食べている青年はもう一つの世界で光子として飛び回っているのだ。青年はスナック菓子を食べながら宇宙を飛翔した。瞬間でもない瞬間で新宇宙の端から端まで飛んだ。止まっているということはものすごく止まっているということなのだ。光子は前進しかしなかった。
始まりの地田園ではお祭りが開かれていた。こっちの世界と新宇宙の狭間で良好な関係が築かれるように。光子にも幽霊バージョンはあった。というより幽霊が先か。死というより分離に近かった。曖昧な存在として存在した光子の幽霊たち。だれでもなれた。非常に存在感が稀薄である。