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一話完結の短篇集

いつもと違うラジオ放送

作者: 雨霧樹

『コンニチワ、ラジヲの時間ガ、ヤッテマイリマシタ』

 机に向かうとき、程よい騒音が必要というのが個人的な持論だ。

 

『ソレデハ、本日ノトークテーマヲ発表イタシマス!』

 その点、このラジオ番組は放送設備の問題か、はたまた自分が使うラジオが古いからなのかはわからないが、MCの声は聞き耳を立てなければ聞こえない程、聞き取りずらい。そして、BGMには喫茶店の様なレトロなミュージックが背後に流れる。つまりこのラジオ番組は、自分が勉強のお供として求めている必要な条件を、全て満たしている完璧な――

『本日ノトークテーマは"勉強ニ集中スル方法"デス‼』

 その声に、シャーペンを動かす手は、ぴたりと止まった。


『ソレデハ、セクションニ分ケテ教エテイキマス』

「……早く教えてくれ」

 彼は焦っていた。自分が嗤っていた友人たちが、メキメキと実力をつけている事を。先月に行われた定期テストも、全科目の総合点で勝負と申し込んだから勝てたものの、個別の教科では負けている科目が数個存在した。きっと次のテストではその穴すらも埋めてくるだろう。その時、伸び悩んでいる自分は追い越されないだろうか。その恐怖が、彼を蝕んでいた。

 

 それゆえ彼は飢えていた。本当に集中できる方法という理想を。このラジオで、その片鱗に触れる事ができるのなら今勉強を止める価値はある、そう判断した。――決して、疲れたからとかやましい考えは持ち合わせていない。いないったらない。


『デハ、早速始メテ行キマ――』

『遅れてごめんなさああああい‼』

 そうしてMCが話を進めようとした時、濁って聞き取りにくい声と対照的に、透き通って聞き取りやすい女性の声が、ラジオ放送の電波に乗った。

 

「いや、誰だよ⁉」

 このラジオ番組は何回か聞いてきた。しかし、今まで聞き手役は元より、ゲストすら訪れたことのないこの番組に、ここまで聞き取りやすい女性の声が乗ったことに思わず突っ込んでしまった。

『……チョット、遅刻デスヨ』

『ごめんって! 放送日を間違えちゃって帰国日間違えちゃった!』

『初放送カラ、モウ三回スッポカシテマスカラネ?』

「……この番組、歴史メッチャ浅ぇじゃん」

 この番組を始めて視聴した時、一番最初に頭に浮かんだ感想は『古き良き』だった。たまにノイズが混じるMCの声、レコードを使ってそうな選曲の数々。串カツ屋の秘伝のタレだと思っていた物が、スーパーで買った既製品だと判明した様な衝撃を受けた。

 

『まぁまぁ、そこを許すのがMCの器量だよ! ってわけで視聴者の皆さんこんにちわ~! このラジオ放送には初登場となります、Sで~す!』

『ヤット、ヤット、コノ番組ノ本領ガ発揮サレルンデスネ』

 MCはどこか感極まっていて、今にも泣きだしそうな程声が震えている。

「……いや、方法を教えてくれよ」

 だが、彼はその方法とやらを喋る瞬間を今か今かと待ちわびているのだ。そんな泣いてる位なら、Sとやらが代わりに教えて欲しい。そして、すぐにでも机に再び齧りつくべきなのだ。


『デハ、新タメマシテ"勉強ニ集中スル方法"伝授イタシマス』

『いぇーい! 教えて教えて! 私勉強苦手だったから今でも聞きたい!』

 そうだ、早く教えろ。自分がいつまでたっても勉強に手がつかない現状をどうにかするべきだ。むしろ義務があると言っても問題ない、ラジオの前でSに合いの手を入れながらSに追従した。

 

『ソウデショウ、デハ初メテ――』

『あぁごめんなさい! ここで一旦CMに入ります!』

「おい‼ いや、もう何なんなの⁉」

 なんでここまで上手くいかないのか。ラジオ自体の大きさが手のひらサイズだらか、怒りに身を任せラジオ衝動的に持ち上げて振りかぶってしまう。

 

――我慢、我慢だ自分。

 これを勢いまま空中へ投げないのは、薄氷よりも薄い自制心だ。今までの人生で、ここまで激情にかられる事は無かった。それも全部、友人に追いつかれてしまうというプレッシャーの所為だということは頭の片隅ではわかっている。けれど、全く思い通りにならない現実が続いて、苛立ちがピークに達してしまう。


『……オ待タセシマシタ』

『CMの事をすっかり忘れてた私のミスでしたね! 本当にごめんなさい!』

 手の中からMC達の声が聞こえ、自分の中で燻っている苛立ちが少しは収まった。そうだ、こんな元凶を聞き続けなくとも集中できる方法さえ分かってしまえば視聴を止め、新しい持論を探し出せばいいのだ。

『――ということで、前置きが大分長くなりましたが、早速教えて貰いましょう!』

『マズ最初ニ、重要ナ事ヲ伝エマス』

『それは……なんでしょうか?』

 ついに、これに決着をつけるときが来た。自然と心臓の鼓動が早鐘を打ち、言葉を一つたりとも逃さないよう全神経を耳に注ぐ。

『ソレハ……』

『それは……』

「それは何だよ……」

 

『コンナラジオ、聞カナイ事デス』

「んな事判ってる馬~鹿‼」

 悪態を吐きながら、彼はラジオをそのまま地面へと叩き付けた。

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