プロローグ
私がこの地を訪れているのは、王国の歴史書の編纂をするためだ。若い平民である私になぜ編纂の勅命が下ったのかはわからないが、陛下はただ事実を記すようにとだけ命じられ、後は全て私に任せるとのお言葉を下さった。また、本件について如何なる便宜もはかるとし、直筆の許可証までも頂戴した。
この話を聞いた際に、これは私のライフワークとなると感じ、喜んでお受けすることとした。
しかしながら、この事業がとてつもなく困難なものになることも肝に銘じた。
「先生!!」助手のコーネリアがこの困難な事業の先行きを考えていると声をかけてきた。
「どうしたんだ?コーネリア。」
「見えてきましたよ。あれが火口島ですね。」
その言葉受けて、馬車から西の方角を見ると丸い湾の真ん中のこれまた綺麗な円錐状の島が見えた。その円錐の上部は切り取られたかのようになっており、そこに大きな穴が見え、そこから煙が少し立ち昇っているのが見える。
「ふむ、そうだね。地理書の記述や挿絵と同様に綺麗な形をしているね。」
「あっちが始まりの都市オーシャニアですね。この仕事の始まりの都市にもなりますね。」
火口島の対岸にはきれいな街並みがあり、それを取り囲む城壁がある。
「我々にとっても良い始まりの地になるといいんだが。」
私は微笑して、コーネリアに言った。
私が、この仕事の始まりにこの地を選んだのは、約100年前に始まったネオ・クレイトン王国の始まりの地だからだ。それまで、汚職と不正に満ちた腐り切ったクレイトン王国の改革が始まった地、人はそれをして「始まりの都市」
と呼ぶようになった。