08 死闘のあとは
「さてさて。この度、我が同士となった湯浅さんにお願いがあるんだけども」
「なにかな。鬼龍院会長」
ラブコメにあってはならない言葉通り、死闘を繰り広げた二人。
あれから二人はというと、絶賛パジャマパーティーを開催していた。
というのも、静華は湯浅が同士であることを、湯浅は静華のお陰で自分の中に眠る想いを、互いに気が付くことができた。
そんな二人は若干の気まずさと恥ずかしさを残しながらも、静華は目的のために恥を忍んで頭を下げる決意をしていた。
「君はずぅっと、薫くんの隣にいたわけだ」
静華は決まりの悪そうな顔を浮かべながらも、決意が揺らいでしまう前に口早に言葉を続ける。
「じゃ、じゃあさ。薫くんの写真の一枚や二枚、あったりするの?」
「そりゃぁ……」
その言葉に静華は思わず目を輝かせる。
前のめりになる身体は抑えることなど不可能であった。
「こ、こんなことを言うのもなんていうか情けないんだけど……その数千枚でいいから貰えないかな?」
この規模のおかしさに突っ込んでしまえば最後。
湯浅はそれを理解していた。
事実として、湯浅の『薫フォルダ』内には万単位の画像が保存されている。
「いいけど……というか鬼龍院会長が薫の写真を持ってないってことの方––」
「あるよ」
「え?」
「万単位であるよ。でも私の場合、盗撮が主だからどうしても自然な笑顔だったり、カメラ目線な写真っていうのがなくて……その点、湯浅さんは薫くんの男友達でしょ?だからあるかなって思って」
男にアクセントを置いた静香の台詞に湯浅は頬を引き上げた。
「まぁ?僕は薫くんと手を重ねあっっちゃうくらい仲がいいから」
対して湯浅は、自慢げに大きく胸を張る。
今度は静香が頬を引き上げる。
「ま、まぁ?私は初日に一目惚れされちゃいましたけどね?」
「なんでそれ知ってるのかな」
「盗聴器はマストよ」
「普通に怖いかな。まぁ薫は僕と同じ高校に入りたくて、この高校を選んだらしいかな」
「知らないけど絶対逆でしょ。君が薫くんの追っかけでしょ」
「な、な、な、なにを言ってるのかな!!」
その後もぎこちなくも会話を続ける二人。
会話の切れ目で初めて互いに目を合わせると––思わず吹き出してしまった。
二人の中にあるのは紛れもなく「楽しい」という感情。
異常なこの恋心を目の前の相手は、否定どころか共感すら示してみせる。
一人で抱えてきた二人にとって、今日のこの出来事は決して忘れることのできないものとなった。
互いに連絡先を(静華は既に持っていたため、静華の連絡先を教えた)交換し、互いに『薫 (くん)フォルダ』を送り合う。
一頻り堪能し、二人は寝る前の身支度を済ませベットへと潜り込んだ。
部屋の電気を消えてから暫くして静華が尋ねる。
「湯浅さん。これからどうするつもり?そのまま男装を続けるの?言っておくけど、それじゃ君の望む結末には届かないよ」
部屋を時計の音が支配する。ゴソゴソと布団が擦れる音がして、長い沈黙が破られる。
「そんなの分かってるかな。でも僕、怖いんだ。この想いに気がついたのもついさっきだし……だから当分は現状…維持かな」
静華はその返事に短い相槌を打つ無言になる。
その後すぐ湯浅も疲れていたのだろう。瞼を閉じ眠りについた。
「いいわ。君がそのつもりなら、私が無理やり同じ土俵に引っ張り上げてあげる」
そのため、静華のこの独り言は彼女には聞こえなかった。
どうやらランキングに載ったようで、大勢の方に読んでいただいております。
本当にありがとうございます。
そうした中で読んでいただいた方から、あらすじと違う、とのご意見がありましたので、後ほどあらすじの文面を変えさせていただきます。
またあらすじ内にも記載しておりますが、今後の展開として鬱展開やそれこそ血みどろの展開には絶対になりません。
殺したいほどに愛している彼女たちが、素直な気持ちを伝えれずについつい異常な行動をとってしまう。そんなラブコメのつもりです。
しかしながら、私のあらすじから誤解を与えてしまった方がいるのも事実ですので、この場を借りて謝罪させていただきます。本当にすみませんでした。
この先も面白い作品になれるよう、頑張ってまいります。長文失礼致しました。