07 同志
「君もそうなんだねっ!?」
「へ?」
静華の瞳はいつになく輝きを増していた。
それはまるで子供があたらしいオモチャを買ってもらった時のように。
「分かるよぉ。分かる。すっごく」
「なにを言ってるのかな」
「なにって君も薫くんを殺したいんでしょ?」
静華は湯浅の返事を待たずに一人でに続ける。
「やっぱりそうだよねぇ。薫くんを殺したいよねぇ」
「待って、待ってほしいかな。薫を殺したい?どうして。会長は薫のこと––」
「もちろん愛してるよ。だからこそだよ。彼が死ぬ時一番側にいたいと思わない?」
「そ、それは、そうかもだけど」
言葉に濁る湯浅とは裏腹に静華の口調はどんどんと早くなっていく。
「でも私は気付いちゃったんだ。もっと素晴らしいことがあるって」
「素晴らしいこと?」
「薫くんのこの手で殺すことだよ」
「薫くんの瞳に最期に映るのは私でありたい。薫くんの最期の言葉も息遣いも鼓動すらも、私が終わらせてあげる。これほど素晴らしいことはなくない!?薫くんはいい子だから、きっと抗ってみせるよ。でもねそれをねじ伏せるの。絶望したその顔は、きっと最っ高にそそると思わない?あぁ薫くんはなんて言ってしんでいくのかしら。きっと私への恨みや罵倒に違いないよ。だって殺されちゃうんだもん。そう考えたら寿命で死なせるだなんて、そんな勿体なくてできないよね。薫くんを殺した感触は一生の宝物になるに違いないし、薫くんの死体だって、誰にも渡さない。ずっとずっと私のもの。あぁもう想像しただけ身体中がアツいよ。あぁ。薫くんを殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。ねぇ、君はそう思わない?」
湯浅は異常を前にして生唾を飲み込んだ。
そして静華は嬉々としてその異常を語り、湯浅へと再度尋ねる。
「君は薫くんを殺したくはないかい?」
(あぁ、この人はもう壊れてしまってるんだ。きっとこの人は薫を殺してしまう。今日、会長が家に来た時、無理にでも玄関で追い返すべきだった。そうすれば知ることもなかったのに)
(とめなきゃ)
湯浅の髪留めは床に叩きつけられた衝撃で外れ、普段は一つに縛っていた髪の毛は床に扇状に広がっていた。
その姿は誰がどうみても女の子であり、頬を赤く染める乙女は恋をしている。
湯浅は薫を守ってきた。それは今までもこれからも変わらない。
たとえその相手が狂人であったとしても。
目の前で薫を殺すと宣言した会長を、彼女は放置するわけにはいかない。
(なのにどうしてかな……)
(薫を守らないといけないのに……)
(あぁ、身体中がアツいよ)
静華は湯浅の表情になにか察する。
そして認める。彼女が彼を愛することを。
「湯浅さん、ごめん謝るよ。君には資格があったんだね。いや違うか。私と同じ––」
この先、同じ道を辿るであろう同志に祝福を。
◾️
これは一人の少年と、彼を取り巻く少女たちとの物語である。
少年少女は若さゆえの過ちを起こすもの。それこそが在るべき姿なのかもしれない。
彼女たちは自分の異常さに理解している。
理解して尚進もうとする彼女たちを、一体誰がそれを咎めることができるだろうか––
こうして永井薫の高校生活は本人の望まない形ではあるが、ゆっくりと幕をあげた。
ここまでを、第一章『出会い(気づき)編』とさせてください。
といってもまだ入学から3日しか経ってませんが(笑)。
厳密に言えば、薫くんは入学式欠席なので2日です(笑)。
今日、この後続きを上げようかと思っていたのですが、キリがいいので辞めておきます。
またブックマーク、評価をしてくださった皆々様。
とてもモチベ維持、やる気につながっています。本当にありがとうございます。
それでは第二章『薫くん死ぬ』編で。嘘です。
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