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06 暗闇の中で


鬼龍院静華は嗤う。

容姿端麗有智高才、スポーツ万能。

桜ヶ丘第二高校の生徒会長も務め、先生や生徒からの信頼も厚く、彼女はまさに言葉通り優秀であった。


しかしこと永井薫に関しては、異常と言わざるを得ない。

彼に異様な執着を見せ、時に常軌を逸脱した行動を起こす。


彼女は狂っている。

今回も湯浅なおにしていることも、普通とは決していえない。


彼女は狂っている。


しかしそれは、湯浅なおも同じである。

鬼龍院静華が狂っているように、彼女もまた狂っているのだ。


小学一年生から今日まで10年もの間、愛する幼馴染を守りたい一心で男装を続けてきた。

生半可な覚悟では成せるものではない。

彼の隣を守るためならなんだってやってきた。サッカーもその一つだ。


薫は大げさに捉えていたが、彼がいないサッカーなど、彼女にとっては何の価値もない。


(薫が本当に辞めてしまうとは思わなかったけど)


彼がそう選択したのなら湯浅は止める必要も意味もない。

彼女にとって一番大事なのは、薫の日常。そしてその隣に自分がいること。

そもそも湯浅が今現在サッカー部に入部しているのは、薫が入部した時に少しでも馴染めるよう環境づくりのためだ。

どちらにせよ、薫が入部しないならタイミングを計って退部するつもりだった。


しかしそのタイミングが目の前の女によってもたらされたと思うと、不愉快で仕方がなかった。



湯浅は保健室での会話を思い出す。


「いつまで、そんなことを続けるのかしら?」

「なんのこと、かな」

「湯浅なおちゃん。本当は平仮名なんだ。直生(なお)って名前もそうだけど、なにより生徒名簿じゃ男子表記なんだね。君、一体どうやって入学したの?」

「会長さんは、さっきから何を言ってるのかな?」

「その語尾。昔と変わらないままなんだ」

「っな」

「いいんだよ。別に君の趣味に口出しするつもりはないから。けどもう君はいらないの。分かるでしょ?それじゃぁなんの意味もないって。それにね大丈夫。これからは私が薫くんを守るから」


さらにはその時の静華のこちらを見下すような笑み。

いま思い出してもはらわたが煮えくりかえりそうな話だ。



もう今更、目の前の女に対して隠そうなんて思ってはいない。ただ目の前の女は気にくわないのは確か。


(それに、まさかこの女が()()を知っているなんて)


そうと知ってしまったら、サッカーなどにかまけている余裕などはなかった。


(この女から薫くんを守らないと)


その思いが彼女に焦りと隙を与えた。

そしてその隙を見逃すわけもなく、今回の事態を招いてしまった。そして今、私は窮地に立たされているのも事実。


(ただ、この女は知らないのだ。分からせなければいけない)


(僕()薫くんに手を出すっていうことが、一体どういうことなのか)


◾️


突如、暗闇の中に一筋の閃光が走る。

閃光の正体は包丁だ。何処から音もなく現れた、刃渡り17cmの包丁は静華の喉元寸前で制止する。


「今日あったことは全部忘てくれるかな」


湯浅もまた脅し行為ではない。

返答次第では迷わず首元へ迷わず突き刺すつもりだ。


「返事は?」

「私を殺す気?」

「それは会長次第かな」


恐怖という感情はなかった。

もし仮に湯浅の手にする包丁が震えてなかったら、多少は怖かっただろうか。

静華はそんな事を考えれるくらいには冷静だった。


そして酷く落胆していた。

静華は少なからず、湯浅に自分と似た何かを感じていたのも事実。

だからこそ多少は拒むだろうが、薫の隣から離れないための選択をすると思っていた。

しかし結果は、静華の望むようにはならなかった。


それだけでも気にくわないのに、なにを思ったか自分を殺すとまで言ってくる始末。


期待はずれ。


そう表現するほかなかった。

静華はゆっくりと流れるような動作で湯浅を地面へと叩きつける。

湯浅は衝撃の中で一瞬の出来事すぎるが故に、少しの間なにが起きたのか理解できなかった。


「本当に可哀想」


哀れむような静華の声。


「うるさいうるさい!!」


手首と胴体を抑えられた湯浅は、身動きをとれずに叫ぶ。


「お前になにが分かるんだ!!」


湯浅の声が震える。


「僕だってできるなら嘘なんて付き合いたくないよ!!でも、それしかないから。それでしか薫の隣にいられないから」

「だからそれが可哀想って言ってるのよ」

「そんなの分かってるよ!!」


可哀想。湯浅はそれを痛いほど理解していた。

自分の選択が自分を苦しめている事なんてとっくの昔に。


「ぐすっ……ひぐっ……」

「って、ちょっと泣かないでよ!!これじゃ私が泣かせてるみたいじゃない」

「……泣いて、ない…かな」


勘弁してほしい。静華は頭を抱える。

つい先ほどまで包丁を喉元へ突き刺そうとしていた人物とはまるで別人。


「それに私を殺して、君はどうするつもりなの?」

「そんなの分からない…かな」


静華はため息を零した。


(興ざめもいいところね、もういいや。さっさと帰って薫くんの)


「でも、多分だけど、薫を殺して私も死ぬかな」

「へ?」


思わぬ返答に静華の声が上擦る。


話ごとのタイトルって難しいです。かなり適当につけてます。


ブクマ、評価、感想いただけると嬉しいです。お願いします。

今日はもう何話かアップする予定です。

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