04 後悔
(かわいぃ……)
気を失った彼を前に私の頬は緩み切っていた。
深い眠りについている彼は今、なにを思うのだろうか。
「薫くん」
(決して、いいものじゃないよね)
分かっている。理解ししている。
この気持ちが異常ということを。普通ではないことを。
(なんでこうなっちゃうかなぁ私は)
今まで見て聞いてきた様々恋の話。
そのどれにも首を絞めて気絶させただなんて見たことも聞いたこともない。
けれど、抑えきれないのだ。
本音を言えば、高校生のうちは接触する予定はなかった。
けれどあの日、道に迷う薫くんを前に何もしないという選択肢は存在しなかった。
昔、彼がそうしてくれたように。
そこからは、もう無理だった。
一度、彼の瞳に映る私を見てしまった。
彼の昔とは違う、低い声を聞いてしまった。
そして気づいてしまった。
私の後ろを不安げについて歩く彼が、僅かに震えている手が、今も女性恐怖症を克服できていないことを。
そんな愛おしい彼を救ってあげたい。
救うのは他の誰でもない私でありたい。
あわよくば結婚したい。
そう願ってしまった。
それはきっと間違ってない感情だと思う。……多分。
間違っているのは、やり方。
けれど私は他のやり方を知らない。正しさを知らない。普通を知らない。
知らなければできない。
幾ら勉強が運動ができても、私は恋愛の方法なんてものはわからない。
故に、感情の赴くまま行動してしまった。
「もっと上手くできると思ってた」
悔しさに唇を噛んだ。じわりと口の中に鉄の味が広がっていく。
嫉妬した。
だれに対してなんて、どうでもいい。
あの時、目の前で薫くんは私以外を考えていた。
ただそれだけで、頭の中が真っ黒になった。
気がつけば私の手は薫くんの首元を触っていた。
必死に抵抗する彼を前に、私は恍惚としていた。高揚していた。
今も身体のあちらこちらが火照っている。
(私だけを見てくれてたなぁ)
そんな事を思うと、再び私の手はゆっくり薫くんの首元へ伸びてしまう。
力の込めていない両の手。しかし薫は眠ってはいるが、苦しそうな顔を浮かべる。
「……殺したい」
思わず首元から手を離す。
私は今なんて言ったのだろうか。
(殺したい?誰を?なんで?)
考えれば考えるほどに、身体はさっきよりもずっと熱くなっていく。
(あぁそうか。そういうことか)
この瞬間、私は私を知ってしまったのだと思う。
それが私の本当の願望である事を。
この胸の高鳴り。これは正真正銘『恋』。
彼を想えば想うほど、鼓動は早まり、息がしづらくなる。
私は彼を愛しているのだから。殺してしまいたいほどに。
「それには、まず……」
副会長に聞いたことがある。
恋とはなにか、と。
副会長はこう答えてくれた。
「恋」とは覚悟であると。
ならば、覚悟無き者に資格なしなのだ。
私は覚悟なき者の、制服をビリビリに切り裂くことにした。
先輩視点を入れておきます。
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本日の夜、続きアップ予定です。