02 祝福
「おはよう」
「…………」
人は見たいようにみるし、聞きたいように聞く。
そんな名言が何処かにあった気がする。
朝、玄関前にさも当然のようにいる先輩に驚くことはなかった。
「薫くん?なんで無視するのかな?」
(誰もいない、誰もいない、誰もいない)
「悲しいなぁ。超絶美少女と朝から登校。男の子だったら普通憧れるシチュなんじゃないの?」
(なにも聞こえない、なにも聞こえない、なにも聞こえない)
「いやぁ、意外と薫くん筋肉あるんだね。やっぱり男の子なんだね。特に腹筋あたりが……」
「み、みたのか!!??」
「うん、みたよ。写真も撮ったし、舐めもした」
「…………」
「美味しかった(テレ)」
「………………」
「特にお腹の大きな傷跡は念入りに」
幸せそうな表情を浮かべる先輩とは、まるで対極的に俺の顔が歪んでいく。
小さい頃の切り傷跡が蘇る。
痛むはずのない古傷は、急激にドクンドクンと脈を打ち今にも開き出しそうに思えた。
急激に血の気が引いていく。視界がぼやけていく。
「大丈夫、復讐は私がきちんとやっておくから」
「………笑えないから、やめてくれ」
先輩の笑えない冗談によって、冷静になったのか視界は段々と晴れていく。
先輩は俺と目があうとニッコリ微笑んで見せた。
(これは……)
ろくでもないことを考えている顔だ。
先輩と出会ってからまだ1日しか経過していない。
けれど俺は先輩という人物がどんな人物から分かりつつあった。
とてつもない美少女であり学園のマドンナ的存在。
しかし本性は超絶危険人物。
チェーンを切断して侵入するだなんて、まともな人間がすることじゃない。
しかしそれは同時に新たな謎を呼ぶ。
尋ねようと先輩に視線を向ける。
先輩は顔前に両手で輪っかを作り徐々にその円を縮めていた。
「いい薫くん?薫くんを傷つけた奴を私はこうしてゆっくりゆっくり首を絞めていくの。そいつが苦しみ悶えていく姿をみな」
(なにも聞こえない、なにも聞こえない、なにも聞)
◾️
「ところで薫くん」
結局、時間の理由から一緒に登校をしてしまっている最中、
一歩後ろを付いてくるように歩いていた先輩が、唐突に横に並び立つ。
俺は思わず一歩左に、先輩から離れ形で距離をとった。
「……相変わらず、女性が苦手なんだね」
「いや、今のは普通に怖かったからです」
「え、なんか怖いことしたっけ?」
「本気で言ってますか」
「もちろんだよ」
「もしそれが事実なら、病院と絶対警察には行った方がいいと思います」
「まぁまぁそれは一旦置いておいて。私知ってるよ、女性が苦手で、触られると気を失っちゃうってこと」
そう言うと、先輩は俺の手を握ろうとするが反射的にそれを避ける。
昨日の出会った頃であれば、きっと今頃、気を失っていたに違いない。
けれど今は違う。昨日とは違う。俺は目の前にいる一人の女性に対して、警戒レベルを最大限まで引き上げている。
「あんまり知ってることに驚かないんだ?」」
「いやまぁ。実際昨日俺倒れたし、それに、出会って2日目でこんなこと言うのもアレですけど。その先輩ですから」
「それって……プロポーズなのかな?」
頬を朱色に染め上げていく先輩。
それとまるで平行していくように、俺の顔は引きつっていく。
「私、子供は10人はほしいな」
突如、彼女の妄想は始まっていく。
「全員、男の子で」
「全員に薫って名付けるの」
「全員、薫くんと全く同じ顔」
「そんな薫くんたちに、静華って呼ばれ……え、無理」
「は?」
隣を歩き先輩は恐怖妄想を語っていた先輩は盛大に鼻血を吹き出し、その場に倒れていく。
そして天に舞い、降りかかる鮮血。それはこれから始まっていく地獄への歓喜の祝福であった。
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