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金貨2枚目:健気な彼女は何も知らない

記録結晶石メモリーストーン


 家族や友人との旅の記念や商人などの大きな契約、また裁判の時に用いられる――簡単に言えば、音と映像を記録できる魔法の石だ。ちなみに、記録容量によってレア度も異なる。


 破壊は不可。

 記録の書き換えも本人以外は不可能だった。


 ただし、記録した内容は誰でも見れてしまう。だから――、


「私、ダンジョン入ってみたかったんだよねー。ほら、ギルド加入って十二歳からでしょ? でも、こうして商人としてのサポートなら特例で許されてるから、ずっと狙ってたんだー」


 それ等の理由から、ギルド『ラブリュス』の除名が言い渡されたあの日から、俺は彼女に程々に従うことに。彼女の名前は『ルルカ』というらしい。


 ともあれ――、


 パーティに入るにはギルドを介する。

 ギルドに加入するには信用が必要。


 つまり、こういった約束の放棄――罪は御法度だった。


 あの日、この彼女から『記憶結晶石メモリーストーン』を奪い取っても良かったのだが、あの日近くにはギルド小屋。仮にもこんな幼い少女に駆け込まれたら全てのギルドを敵に回すに違いなかった。そこまでの覚悟は俺にはない。また、裁判にでもなって負ければ当然、敗北。一生ギルドには戻れないだろう。それこそ、『ラブリュス』の除名を言い渡されるのとは訳が違う。


 そしてまた、何より大人げない。


 ただの少女として以外、魔力さえ何も感じない彼女からそれなりの大人が力ずくで物を奪うのは“大人げない“以外に言葉がないだろう。


 かといって、俺もいつまでも彼女のわがままに付き合うつもりはない。別のギルド――パーティが見つかるまで暇潰しだ。金の件に関してはどこかで弱味を握ってそれで取引をすればいいだろう。しかし、それ等がいつ見つかるのかは不明だが······。


「でも、ダンジョンって案外退屈なもんなんだね。さっきから同じ部屋ばかり。割れた窓とか崩れた所から明かりは差し込むけど薄暗いしボロボロだし、もっとワクワクするもんだと思ってた」

「ギルド無所属のパーティでも入れる小さな遺跡だからな。そんな遺跡は大抵そんなもんだ。みんな同じ部屋ばかり、道が途絶えたと思ったらモンスターが居るだけで終わりなんてしょっちゅうだ」

「ふーん。こんな風に?」

「そうそう。そんな風にな············って」


 呑気に、自分の側で空に浮かぶ魔物を指を差す彼女。

 黄色いコウモリの羽に黒い瞳と尻尾を持つ一つ目の魔物――『フローアイ』だ。


「それは早く言えって。――デバリア! エアロ!」


 俺等の前には透明なバリア。

 敵のほうへは、無数の風刃が飛んだ。


 ギギッ、という鳴き声と共にバラバラになって吹き飛ぶ魔物。


「おぉー、倒した。すごいすごい」

「はぁ······。あのな、せめて敵を見つけた時はもっと緊迫感をくれ。あと、俺もいつも後衛だから忘れてたけど、俺より先に行くな。ここは俺一人でも入れる程度のダンジョンだけど、魔物はモンスターなんだ」


 まぁ、その魔物はもう倒したが。


「ふーん。リューズは簡単そうに倒してたけどねぇ。これは、そんな危険なモンスター?」

「『惑いの』を受けなきゃな。ただ、そういった下級スキルを弾く魔法かアイテムを持ってなきゃ厄介ってだけだ。あと名前呼び捨てなのな」

「どう厄介なの?」


 彼女は名前の件には触れずに言った。

 だが、俺もそれには深く気にすることもなく、


「敵と味方の判別がつかなくなる。つまり、味方が敵に回るってことだ」

「へぇー、それは大変だね」

「他人事みたいな言い方だな。······ってか何してんだ?」

「なにって、ダンジョンに来たらアイテム採取でしょ? 売れそうな物探してるの」


 彼女は、バラバラの魔物の側に立ち、キョロキョロと見渡してはそこから千切れた一枚の翼と尻尾を拾い上げた。


「んー、これなんかいいかなー。どう思う?」

「······いいんじゃないか?」


 すると、パッと笑った彼女はそれを背負っていた大きなリュックにしまった。ただの少女だと思っていたが、どうやらそれなりの目利きはあるのかもしれない。フローアイの翼は衣類に、尻尾は薬としても価値があるのだ。


「うんうん。これで今日は凌げそうだぞ」


 再びリュックを背負った彼女はこちらへ小走り。

 満足気な笑顔だ。ダンジョンだということを忘れそうになる。


 いつか弱味を握って“さよなら“しようとしていたこちらとしては、どこか肩透かしを食らうような、牙を抜かれるような、バツの悪い感じだ。しかし俺は、そんな考えていたことは胸のどこかに投げ捨てて、同情はし過ぎないように、と心に留めた。


「じゃ、次行こ。次」

「だから、先行くなって」


 そうたしなめるが先を小走りのルルカ。だが、すると意外にも、まるで言うことを聞いたかのように彼女は途端に足を止めた。そしてこの――小さな部屋とも言える空間の入り口に立って、さっきと同じ、フローアイを見つけた時のようななんでもない口調で、


「ねぇねぇ、リューズ。敵見つけた」


 ルルカは、俺達の隣の空間――その通路に居た、こちらとは逆に向かって歩く、大斧を先頭に控えた一行を指差した。


「あれって、この前の人だよね?」


 それは紛れもなく、ラウルのパーティだった。

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