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金貨13枚目:染み付いた癖の理由(わけ)

 遅れてふわりと落ちるルルカの足が地面に付いてから、俺はその手を離した。それからその場で意識を集中し周囲のマナを探るが、さっき感じていたマナが遠ざかるように一つ。どうやら、完全に逃亡を決めた込んだようだった。


「もう大丈夫なの······?」

「あぁ、奴は入り口に向かってる」


 また、ルルカには黙っていたが、一方から空気が入り込むこのような場所なら集中すれば、俺はマナだけでなくそちらから吹く風も感じ取れた。感じるのはぼんやりとだが、そのダンジョン入り口から流れてくる僅かな揺れとそこに向かう大きな流れが一つ。時々、何かしら立ち止まってはいるが、それはさっきまでここに居た“奴“に違いなかった。


「変な逆恨みを抱いてなけりゃいいが······」


 変に策を講じた攻撃をされないよう――攻撃が単調となるよう挑発で誘ったが、さておき、こちらは普通にダンジョンを探索していただけなのに、そんなので恨まれるのも理不尽で馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。


 と、ここで、


「ねぇねぇ、リューズ」


 ルルカが右手にダイヤの首飾りを持ち、左手で俺の袖を引っ張りこちらを見上げた。俺が「どうした?」と返すと、彼女は少し不安そうに、


「ダンジョンってなんでもアリなの? あーやって人のを奪おう人も多いの?」


 それを望まぬというように言った。

 俺は“それは仕方ない“と思いながら、


再編リゲインしたばかりのダンジョンを狙ったり、下位パーティの戦利品を奪ったり、それ自体は珍しいことではないな」

「そう、なんだ······」

「ただ」

「?」

「後者なんかは記録結晶石メモリーストーンで立証されれば罰則も下るから普通はやらない。それに、誰かと協力したほうがダンジョンも攻略出来るし、いざという時助けてもらえることもある。だから、大体のパーティは友好的だ。今日とこの前のは異例すぎた。気にするな」


 ――と、恐らくこの先ダンジョンがこのようなことばかりなら今後どうする悩んでいるであろうルルカにそう言った。もし止めるのならそれはそれで俺の荷も下りるが、しかし、そんな間違った印象を持ったまま、入りたがっていたダンジョンを諦めるのはあんまりだろう。


 ルルカはまだ笑顔とは言えないが、少し沈黙してから「なら、いっか」と不安の色を和らげた。それから俺の袖を放す。


「でも、本当に戻ってこないかな?」

「今はきっとな。対面して無理だと分かって逃げただろうから」


 奴の去っていった入り口を見ると、ふと、自分が直前に言った言葉で奴が一人だった理由も腑に落ちた。他者から『奪う』ことをする際、他の仲間がいると、ある拍子に裏切られた時に命取りになるからだろう。


 奴は攻撃に特化したタイプ。

 攻撃前のマナの漏出。無詠唱の魔法。


 他者を信じない、そういうタイプに多い特徴だ。


 そして、そう言った人間の一撃目は大抵自信のある魔法を打ってくる。二撃目のあの大きな結晶は防御も兼ねたいい攻撃ではあったが咄嗟のものだったのだろう。でなければ、逃げることも少し後になったことだろうから。


 また、そんな攻撃に特化したタイプだからこそ、あの日フローアイに対するバリアの耐性力も弱かったのかもしれない。ラウルのパーティに入れたのもその攻撃力を披露してだろうか。まぁ、奴は単にそこを踏み台にするいいチャンスと思ってただけかもしれないが。しかし、パーティである意味が他にないのは奴自身の言葉から明白だろう。


 ――と、奴との戦闘を振り返りつつ、奴そのものの分析をした。今では呼吸のように染み付いた癖ではあったが、しかし、一人黙って頭の中でそんなことを考えていると、どこか元気を取り戻したような声が横からした。


「それにしても」


 まぁ、後でもいいか――と思う俺はそちらを見た。リュックに首飾りでも入れてくれとでも言うのかと思ったが、その後に続く言葉はやや想定外のものだった。


「リューズってよく分からないよね。あの人やっつけようと思えばやっつけれただろうに、ラウルって人の時もそうだったけど倒さなかったし――そうしない理由でもあるの?」


 これまでのような調子で、彼女は入り口のほうを見たまま顎に右手を当て無垢に小首を傾げていた。


「理由か······」


 俺はその答えにあぐねいた。


 それは、その理由を話せば、いずれあの“道具屋の彼女“の耳にも入ることだから。俺一人のことではなく“その彼女“に強く関することでもあったため、自分の口から話していいものか悩んだ。


 すると、


「言いにくいこと?」


 ルルカは丸い目でこちらを見ていた。眉尻が少し下がり、その顔は、小さな遺跡の時にも俺に対して見せた――あの心配に似ている。


「さっきリューズが言ってた“全てを守った人“と関係ある?」


 俺は、ハッとさせられた。


 ――なんで、何も知らないお前がそんな顔する。


 やはり、ここでも思ったのはそれだった。

 年頃の少女にしてはあまりに似つかわしくない青い瞳の色。


「あぁ」


 だから、そう口にした俺は――、


「俺の魔法の基礎は“守ることを第一に考えろ“と、その人に教わった」


 そんな顔が見てられず、少しだけ話した。


「だから、無駄に人の命を取るのはしない」


 ルルカはそれ以上聞かなかった。しかし――、


「そっか」


 と、軽い調子で言ってみせると、


「やっぱ、リューズで間違いなかったかも」


 代わりに、パッとした笑顔でそう言ってみせた。

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