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金貨10枚目:鉱山の宝箱とその中身

 ギルド協会では『入れるダンジョン』『空いているダンジョン』を、魔法石が映し出す映像で確認できる。それを見て入るダンジョンを申請し、パーティなどの条件が適正と認められれば許可証が発行される。とはいえ許可証と言っても、そのパーティが入る旨――パーティ情報が、ダンジョン前で警備する衛兵に魔法を通じて知らされるだけだが。


「無所属。リューズ・レルクとそのサポートです」


 その許可証を発行されている俺は鉱山の前に辿り着くとそう述べ、衛兵から入鉱許可を貰った。


 鉱山の中はややヒンヤリして閉塞的だが、声が反響するほどには広く、また『虹鉱石』という街や家庭の明かりにも用いられる鉱石が散らばっていたため明るかった。補足ではあるが、ギルドに無所属のこうした俺等でも入れるぐらいのダンジョンで、また、虹鉱石も簡単に採取できる鉱石であるためこれには大した価値はない。


「綺麗だねぇー。青い蛍が散らばってるみたい」


 入り口から入ったばかりの所は、淡い群青の色を持つ虹鉱石が多かった。そのため、ルルカの肌も髪の色も青に染まったように見えた。今回は、その鉱石に価値がないことはルルカにも伝達済みだったが、それでも手に持つツルハシではなく、素手で取れそうな鉱石を見つけると、彼女はその度に御機嫌でリュックにしまった。なんでも「模様替えでもしよー」ということらしい。


 それからも奥に進むと、緑になっては黄色へと虹鉱石は色を変えた。迷路のように右へ左へ、時には三叉の別れ道をルルカの勘を頼りに進む。その際、帰り道の方向には虹鉱石を並べて作った矢印をルルカが楽しそうに置いて、それを目印にした。やってもやらなくても変わらないだろうが――と、思ったのは黙っておいた。


 モンスターの気配は全くなかった。

 三度行き止まりに当たって、三度目で宝箱を見つけた。


 中は“折れた剣“だった。


 見るからにゴミと変わらないそれを見たルルカは「むぅー」と顔を膨らませるとそれをすぐにポイっと捨てた。しかしすぐ切り替えたように陽気に「もっと奥行けばいいのあるかもー」と探索を続行。


 虹鉱石の色はオレンジに変わり、赤になって、いよいよ紫になった。そして、その赤と紫の境目とも言える地帯へ足を踏み入れて、結局、前回注意したにもかかわらずルルカを前に歩いている時、


「今回はモンスターいないんだねぇ」

「ダンジョンの再編リゲインも不規則だからな。稀にこういうこともある。今回は再編されたばかりのダンジョンを選んでみたが運が良かったな」

「んー、安全なのは良いけどドキドキしなくて全然つまんないね。まぁでも、今回はこれがあるからいっか」


 ――と、自分の背中のリュックを叩くルルカ。萎んでいたはずのそのリュックは今や虹鉱石でパンパン。俺がフロルを使ってなかったらどうなるのだろうか――と、少し魔法を解いてみたかったが、空気で容積を取るマナボトルと違って、こいつの腰が本当に砕けるだろうな、と思うと止めておいた。


 その後、迷路を少し進んだところで最奥らしき場所に辿り着いた。


 結局、モンスターとは接触なし。

 ありがたい限りだ。


 最奥と思えるこの空間は紫紺の光に包まれていた。

 直前までと同じ色ではあるが、しかし――、


「あっ、宝箱だー!」


 何もないわけでもなかった。


「なっにっかなー?」


 そして、数十分かけて歩いた自分達にここまで頑張った御褒美とでも言うようにその中身は――、


「わぁ······ダイヤ、かな······?」


 王家が身につけていそうなほどの、宝石がたんまり付いた豪奢な首飾りだった。それをルルカが見た時はもっと喜ぶかと思ったが、しかし、虹鉱石の光も相まって妖艶な紫の光を放つその首飾りの煌めきに、同じように瞳を紫紺に染める彼女は声も出ないほど魅入っていただけのようだった。その証拠に「ほぇー」と口にしたきり、その口をアホらしく開けて固まっている。


 素人目に見ても、ざっと500万Gは下らないだろう。

 それが俺の手元に一割も残らないのはやや納得いかないが。


 そんなことを考えたが、しかし、フローアイの異種に遭ったことやここにモンスターが居ないこと、下位ギルドでもそうそう来ないであろうこのダンジョン――再編リゲインされてもレアアイテムなど滅多に出てこないであろうこんなダンジョンの宝箱で、このような高価な代物を手に入れてしまう辺り、こいつは何か持ってるのかもしれない――と、そんな根も葉もないことを思った。


「んな、まさかな······」


 そうして自分を鼻で笑って、膝をついて宝石を頭上に掲げているルルカの右後方で腕を組んで待っていると、


「ん?」


 後ろから声がした。


「はぁ、はぁ······。くそっ、遅かったか······」


 俺達が来た後方の通路から現れたのは、鉱山の岩壁を悔しそうに叩いては手を付く、魔法衣を着た長髪の男だった。その肩まで伸びるサラリとした髪と美丈夫な顔にはどこか見覚えがある。


「誰だ?」


 すると「ん?」と俺の質問に気付いた男は「ふっ」と小さく笑うと上体を起こした。そして、乱れた自分の服の裾を伸ばすように払っては、


「僕の名前を知らないとは君も世間知らずだ」


 小馬鹿にする男はそのまま続けた。


「だが、そんな世間知らずの君に、折角だから僕の高貴な名前を教えてやろう」


 正面から向き合うと、その男の忍び笑いと長身で鼻筋の通った端正な顔立ちが際立って見えた。そして、顔に掛かるその長い髪を掻き上げた男は見下したようにこちらを見て言う。


「僕はウィルリット公爵家、第四子息――エノク・ウィルリット。そんな貧相な成りの君には随分畏れ多いとても偉大で雄大な名前かもしれないが、それぐらいの権利は君にもある――覚えておくといい」

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