ー精霊の洞窟ー
念願であった精霊の森の大洞窟に来たレオ、目的まで後一歩というところまで来てレオは
「か、帰りてぇ。」
来たことを後悔していた。
理由はシンプルだ。
洞窟の奥深くまで歩いてきたレオ。
その体は町の中で汚した時とは比較にならないくらいドロドロだった。
髪には蜘蛛の巣までついている。
「ちくしょう……欠陥品のバカ日記め…。」
レオが持ってきた手記録には精霊と出会う方法がなかった。
それによりレオは当てもなく洞窟の中を歩き続けるしかなかった。
もちろん、洞窟に着くまでそのことに気づかなかったレオにその責任はある。
「何でここ、こんなに狭いんだ。」
また、洞窟の中はえらく狭かった。
子供であるレオがギリギリ通れるくらいの道しかない。
幸い一本道で迷う心配はないが。
「入口だけでかくて中が狭いとか見栄っ張りのブラック企業みたいな洞窟だな。」
レオは前世でよく行った就職説明会のことを思い出していた。
自分が入社した会社のものだ。
説明会ではアットホームな職場だなんだと、いいところを大々的に伝えていた。
それなのにいざ入社したら、アットホームどころか毎日怒鳴り声が響き、狭いコミュニティでしか仕事をしないという会社だった。
まさしくこの洞窟のようである。
「ブラック洞窟と名付けてやるからな。」
誰かがいるわけでもないのにレオは独り言を続ける。
誰かに見られているような感覚は無くなっていないが、だいぶ慣れていた。
「お、ようやく広めのところに出たな。」
洞窟の道が終わり、広い場所はでた。
小学校の体育館くらいはありそうだ。
「行き止まりみたいだけど、なんかイベントでも起こるのかな。」
先に進む道は見えない。
レオは何かが起きるのではないかと身構えた。
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30分ほど経過しただろうか。
「何にも起きない…だと。」
洞窟の中にレオはただ1人で座っている。
何かが起こる気配は微塵もない。
「無駄骨か。そんなにうまくはいかないってことなのかな。」
レオがブツクサと文句を言っているとレオが入ってきた通り道から音が聞こえて来る。
ついに精霊か?と身構える。
「レオ?そこにいるのか?……痛っ、頭ぶつけた。」
「アーロン、乱暴に通るなよ。道が崩れるよ。」
入り口から入ってきたのはアーロンとマルコの2人だった。
「2人ともなんでここに?薪拾いは?」
レオは驚いて2人に駆け寄る。
「なんでここに?はこっちのセリフだよ。ダメじゃないかレオ。ここには入ったらいけないんだ。」
マルコが優しく怒る。怒るというより叱るという感じだ。
「マルコが『レオが心配だ。』っていうからさ。2人で見に来たんだ。そしたら洞窟の中に入ってくレオを見つけたから追ってきたんだ。それにしてもレオ、意外にすばしっこいんだな。どんどん距離を離されて……一本道じゃなければ見失ってたよ。」
アーロンがレオの肩を叩く。
「それで?一体ここはなんなんだい?」
マルコもレオの隣に並んで洞窟を見渡す。
レオが答えようとすると、またもや別の声が聞こえてきた。
「人間が3人も!珍しいなぁ!!」
声は洞窟の天井辺りから聞こえて来る。
3人は驚いて少し後ずさる。
「おや?怖いのかな?僕たちのことを知っててきたわけではないのかな。」
声の主はあちこち移動しているらしい。声が遠くなったり、近くなったりする。
「だれだよ!でてこい!」
アーロンが何も見えない天井に叫ぶ。
「威勢はいいね。気に入ったよ君。」
見えない何かがそう言うと、アーロンの体が光り出す。
「え?なんだこれ。」
アーロンは少し浮き、光を増す。
「僕は火の精霊メーロア。君を主として守ることを誓う。さぁ、きみも僕の後に続いて宣言して。」
火の精霊メーロアはアーロンに言葉を教える。
何が何かわからないまま、アーロンはその言葉を口にした。
「わ、われは真なる民アーロン。メーロアを宿し、主となることを認める。」
アーロンがそういうと、体の光は消えた。
「おめでとうアーロン。これで僕と君は主従を結んだ。君は魔法使いだ。」
アーロンの中から声が聞こえる。
「え?今のって精霊の誓い…だよな。成人まであと3年もあるのに?」
アーロンは混乱しているようだ。それをメーロアがなだめている。
次に変化が起きたのはマルコだった。
アーロンと同じように体が光り出す。
「僕も!?」
そしてまた声が聞こえた。
「お初にお目にかかります。マルコ様。私は水の精霊レイシス。あなたを主とし、守ることを誓います。」
レイシスと名乗る精霊はアーロンと同じようにマルコに復唱させる。
「われは真なる民マルコ。レイシスを宿し、主となることを認める。」
同じようにマルコの光も収まっていく。
「これであなたも魔法使いです。おめでとうございます。」
アーロンと同じようにマルコも混乱しているようだ。
しかし、一番混乱しているのはレオだった。
誰よりも早く来たのに自分には未だに精霊が現れない。
2人の精霊に説明を受けている2人の少年を見て、唖然としていた。