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ー初めての町ー

魔法……。


アフターワールドの世界においてそれは、生活の基礎であり、戦いのイシズエでもある。



魔道具と呼ばれる魔法を込められた様々道具を用いて、人々は料理をしたり移動したり、生活を豊かにしている。


火、水、風、土の四つの力を応用し、戦士は己の肉体を強化し、術師は多彩な技を作る。



すべては魔法に始まり、魔法に終わる。



この世のコトワリである。



魔法を使うにはまず精霊と契約を結び、心を通わせる必要がある。



通わせることのできる精霊は1人だけ。

こちらから選ぶことはできず、精霊自身が気に入った人間に語りかけるという。



ーーーーーーーーーー


レオ・エル・ファルアートがこの世界に生まれてから10年の月日が流れていた。



前世の記憶を持ってからおよそ5年。



10歳になったレオは今、巨大な洞窟の前で立ち止まっ

ていた。



「なんかやばいところに来たかも……。」



レオがいるのはファルハート家が統治する町【クラウベルグ】から少し離れた森の中。




強い魔物こそいないが、中級以下の魔物が生息し、通常10歳の子が一人で来るところではない。




腰に剣を携えたレオがここにいるのには理由があった。



きっかけは一冊の本だった。


セルフト王国では15歳になると成人として認められ、精霊と出会うための儀式が行われる。



貴族、平民に区別なく。大聖霊 サーカエルの導きの元に精霊たちが人間を見定めにくるのだ。


精霊に認められればそのものは魔法を使えるようになる。



レオも後5年すればこの儀式に参加できるのだ。



しかし、そんなに長く待てないとレオは考えた。



どうにかしてもっと早く精霊と出会う方法はないかと、もはや自室よりも馴染みのある図書室で探しまわったのだ。



ファルハート家の図書室は異常に広く、書棚に置かれている本の数も膨大である。



どうやら先先代のファルハート家当主が大の本好きで、当時あった部屋を3部屋ぶち抜いて改築したらしい。


本の数では王都にも劣らないと前に長男のシューゼンが教えてくれた。



そんなわけで、お目当の記述を見つけるのにとてつもない時間がかかってしまった。



本の名前は【大魔法使いサリヴァンの手記録】



おそらく手書きで書かれたであろうその本は図書室の一番隅の書棚の一番端に、大きな本に隠れるようにして置かれていた。



なんとなく運命を感じ開いてみるとそこには今まで図書室で読んだどの本よりも詳しく、魔法について書かれていた。



その中の一項目にこんな記述があった。



「通常、精霊の儀の前に人が精霊と出会うことは不可能だが、クラウベルグの南東、聖者の森にある大洞窟においては別である。ここには聖霊たちの好む何かがあるらしく、条件さえ揃えば精霊の儀の前に精霊と契約することが可能なようだ。」



この記述を見たとき、レオは1人しかいない図書室の中で嬉しさのあまり飛び跳ねた。



精霊と出会う方法が見つかっただけでなく、それが近いところあるとはなんと幸運なことか。



レオは図書室を飛び出ると急ぎ外に出る支度を始める。



10歳の誕生日を迎えた日、屋敷の外に出ることを許可されている。



聖者の森に行ったことはなかったが、一度街に出てさえしまえばなんとかして街の外に出れるはずだとレオは考えていた。



念のためにほとんど部屋の装飾とかしている剣を腰にさす。



サリヴァンの手記録を入れた鞄を肩に下げ、いざ街へ向かおうと一歩屋敷の玄関を飛び出したところで、何者かに首根っこを掴まれる。



「な、なんだ!?離せっ!だれですか!」



後ろを振り返ることも出来ず、相手が誰かわからない。


貴族家に生まれ、周囲の会話を聞くうちに知らぬ間に敬語で話すことが普通になったレオ。



前世の記憶からするとこんな言葉遣いではなかったのだが、この話し方なら野蛮だと咎められることもないため気にしていなかった。



「レオナード様。いったいどちらへ?」


レオを掴んでいたのは屋敷の使用人、執事長のセバスであった。



それなりに高齢のはずだが、首根っこを掴むその手はがっしりしていて、レオがいくら暴れようとびくともしない。



「げっ……セバス…。」



「げっ、とはなんですか。……今日もサボりですね。学術とお茶は貴族にとって必要なものです。サボりはいけません。」



セバスは白髪に白い髭といった執事そのものといった風貌だが、とにかく顔が怖い。


睨みをきかすたびにキラリと光るまるメガネにレオの背筋がピンと伸びる。



「いや、ちょっと…街に用事が……。」



「まだ一度も出たことのない街に用事?……そもそも護衛なしでの外出は許可されていないはずですが?」



いくら街へ出る許可が出たとは言っても、レオは貴族の生まれでありまだ、10歳だ。当然一人で出かけることは許可されていなかった。



「いや…そうだっけ?……ははは…。」



白々しく作り笑いを浮かべてみるが、セバスの表情は険しいままだ。



「それにほとんど使ったことのない剣など持って……一体何をしようというのです?」



「言ったら行くこと許してくれるの?」



「内容によります。」



セバスが眼鏡をクイッと指で持ち上げる。


いや、顔怖すぎ…。



「……わかったよ。正直にいうよ。実は母さんにお花を買ってきてあげたいんだ。」



「奥方様に?」



「うん。…ほら、もうすぐ僕の妹か弟が生まれるでしょ?母さん最近少し疲れているみたいだからなにかプレゼントしようと思って。」



確かにレオの母、アメーリアは半年ほど前に妊娠が発覚し、最近では少しずつ大きくなったお腹を重たそうにしている。


自由に動き回れないからか、少し元気がなかった。



しかし、花をプレゼントしたいとは当然レオの作った嘘である。



思い返せば前世でも上司からの意味のわからない説教を作り話で交わしていた。その時の経験が今、とっさにそれっぽい嘘をつくという技に変わっていた。



これみよがしにシュンとして見せると、セバスには効果的面だったらしい。



「おお…レオナード様。なんとお優しい……。わかりました。外出にはこのセバス、目を瞑りましょう。しかし護衛をつけないわけにはいきません。」



そう言ってセバスは屋敷の門を警備している門兵を1人呼びつける。



「すまないがレオナード様について街の花屋まで行ってきてくれ。」



そういってチップなのかなんなのか、銀貨を一枚門兵に渡す。



「わかりました。行ってきましょう。」



門兵はそれを受け取るとレオの護衛を引き受けた。



流石に護衛まではかわせなかったか。



レオは少し残念だと思ったが、大した問題ではないと開き直り



「ありがとうセバス!すぐに買ってくるよ!」



とニッコリとセバスに微笑み、門兵と一緒に街へと向かうのだった。



レオを見送った後、セバスは気付く。



「花を買いに行くのになぜ剣が必要なのでしょう……?」


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