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ープロローグー

終電より前の電車に乗るのは久しぶりだ。

明日からはこれが日常になる。


疲れているはずなのに、足取りはいつもよりも軽かった。


俺、坂下凛太郎サカシタリンタロウは平凡な人生を歩むサラリーマンだ。


いや、サラリーマンだった。


上司からのパワハラ、度重なる残業の上支払われない残業代。


今どき珍しくもないブラック企業だった。


入社4年目。


「3年間働かないとわからない。」


そんな言葉を信じて時間を無駄にしてしまった。


しかし、それも今日で終わりだ。

あの憎き上司に辞表を叩きつけてやった。


仕事を辞めた後の引き継ぎも何週間も前から資料を作って準備していた。


明日から行かなくてもなんの問題もない……はずだ。


駅を出た凛太郎はその足で一番近い電気屋向かう。


目的の物をゲットして、次は家から一番近いスーパーに向かった。


退社記念に今日はとことん贅沢をしてやる。


そう決意した凛太郎はスーパーのカゴに高めの肉やビールなどを入れていく。


「帰ったら肉を焼くんだ……酒もしこたま飲むぞ…ふへへ。」


気持ち悪い笑みを浮かべながらレジに並ぶ。


ふと、レジの横に並ぶショーケースに目が行った。


陳列されているタバコ達。


「そういや昔の彼女に止められてから一本も吸ってないな。」


その彼女とも残業で時間がないことを理由にもう別れている。


世間は喫煙者に対してうるさいが、自分はすでに社会から解放された身。


迷うことなく以前自分が吸っていた銘柄を注文した。



ーーーーーーーーーー


家に着くとまずは風呂を沸かした。


風呂が沸くのを待つ間、今度はキッチンで肉を焼く準備をする。


もともと料理は好きな方だったが、働き始めてからはほとんど惣菜で済ませていた。


使われるのを待ちわびていたであろうフライパンに油をひいて、買ってきた高級牛肉を焼く。


焼いている合間にポテトサラダと冷奴を作った。


食材の組み合わせとしてはわからないが、凛太郎の大好きなつまみたちである。


買ってきたビールはすでに冷蔵庫に入れてある。


肉がある程度焼き上がったところで火を止めて、風呂に浸かることにする。


湯船に浸かり疲れを取る。


ビールを美味しく飲むための下準備だ。


風呂から上がり、バスタオルを腰に巻いたままキンキンに冷えたビールに口をつける。


「美味あぁ……。」


ここらからの声が漏れる。


服を着て、焼き途中だった肉を仕上げると、リビングに向かう。



ここでようやく電気屋で買ってきた物の登場だ。


プレイスタート5


いわゆるPS5と呼ばれる新作の家庭用ゲーム機だ。


ずっと欲しかったが、どうせやる時間がないからと手を出さずにいた。


ワクワクしながら買ってきたソフトを入れる。


電気屋でおすすめ1位になっていたオープンワールドRPG。


「アフターワールド」


剣と魔法ありのファンタジー物で、主人公の見た目や、住んでいる国、職業、使用する武器と言った様々な要素をプレイヤーが選択することができるらしい。


また、ストーリーの評判もよく、主人公の会話の選択によってエンディングが変わるという。


自由度が売りのゲームだった。


高級肉を食べながらゲームを起動する。


ビールは既に3本目の蓋を開けていた。


ゲームを起動すると、壮大なオープニングが流れ始める。


そのオープニングを眺めながら、今度はタバコに火をつける。


部屋の中で吸うことに抵抗はあったが、今日くらいはいいだろう。


しばらく使うことのなかった灰皿にタバコを起き、ゲーム画面に集中する。


ゲームの中ではキャラメイクが始まっていた。



「へー、髪型や目の色まで変えられるのか。最近のゲームって細かいな。」


独り言を言いつつ、自分の好きなようにキャラクターを作っていく。


最初は金髪に、青い瞳の美青年を作成した。しかし、


「なんかこいつ腹立つな。リア充かよ。」


気に入らないので一応保存して作り直すことにした。



今度は黒髪に黒い瞳、まぁ可もなく不可もなくなそこそこイケメン。


「まぁ、このくらいの素朴な感じのが感情移入できそうだ。」


使用するキャラクターが決まると今度は生まれる国を選べるようになった。


選べる国は3つ。


貴族が多く、かつての英雄が帝王として君臨する イスラル帝国。


冒険者が多く、貴族階級の少ない国 セルフト王国。


水と森に囲まれ、エルフを始めとする様々な種族が暮らす国 カルファ共和国。


凛太郎は迷わずにセルフト王国を選んだ。


冒険者。聞くだけで心が躍る。


カルファも気になるが、セルフトには負ける。


イスラルは……貴族に興味ないし、帝国ってなんか響きが怖いから辞めた。



国を選ぶとすぐにムービーが始まる。


ストーリーの序盤は3国が存在する人の世界と、魔族が存在する魔の世界とに別れるという説明から始まった。


人々は魔族に苦しめられていたが、それをかつての英雄が救い、人の世界は平和になったという。


英雄により魔の国は封印され、人の国に魔族が攻めてくることはなくなったらしい。


まぁ、ゲーム上きっとこの後魔族が復活するのだろうが。



そして主人公はというと


なんと生まれるところから始まった。


最初はムービーだけで主人公の成長を見守ることになる。


どうやらセルフト王国に少なからずいる貴族家に生まれるらしい。


ファルハート家という貴族の三男のようだ。


ムービーは主人公が5歳になるところまで進む。


そういえば、主人公の名前は決められないのか?

固定なのかな。



と、ここまでゲームをプレイしたところで

この世界最大の悲劇が俺を襲う。


「あれ、なんか焦げ臭くないか?」



キッチンに目を向けるが、コンロの火は消しているし、何かを焦がしたってことはなさそうだ。


他に焦げる臭いって……。



「げっ!!!カーペット燃えてる!?!?」


どうやらタバコが灰皿から落ち、カーペットに火をつけたらしい。



目の前で火がどんどんと大きくなる。



煙が部屋中に立ち込める。


 やばい、、苦しい…。


気づかぬうちに煙をだいぶ吸ってしまっていたらしい。



俺は遠のく意識の中でゲーム画面に表示される文字を見た。


「おはよう。レオナード。」


ゲーム上の母が主人公に話しかけているところだった。



主人公の名前…固定なのかよ。



そんなどうでもいい記憶を最後に俺は社会からだけでなく、この世界からも解放されることになる。



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