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ローランド

まだ入隊して間もない青年が、廊下の向かいを歩く人物に気が付いて敬礼した。黒い髪と褐色の肌を持つその人物は彼に目をやることもなく、大きな歩幅で執務室へと向かって行く。青年はその後ろ姿を見送って、酸味のある表情で口をもごもごと動かした。そして間もなく別の通路からやってきた同期の男がそんな彼の肩を叩いた。


「なあ、この間見た狙撃銃の分解図持って……なに、向こうになんかあんの?」


「ああいや、ネイハム第二軍団長が通ったからさ。なんかつい……見ちゃうんだよな」


「え、何? まさか憧れてんのか?」


「俺が憧れてるのはワルター・ローランド前司令官だよ。なんかこう、親子なのにまったく似てないなと思ってさ」


ああ……と同期の男はつまらなそうに頷いた。野次馬根性旺盛で雑談が好きな彼は、特に興味があるわけでもないのにネイハムについても多少知っている。


「血ィ繋がってないらしいぜ。養子だってさ」


「そうだったのか。初耳だな」


「名前も変わったらしいけど、前の名前までは知らねえな。けどまあなんとなく西の方っぽい雰囲気あるよな。ちなみにネイハムはワルターの推薦で今の役職に就いたんだと。まあ司令官の推薦ってなればそりゃ採用されるよな」


「ふうん……そういうのを聞くとちょっと複雑な気分になるな。前司令官は人事に縁故を持ち込む人じゃないと思ってたからさ。というか、第一軍団長を経て司令官になったのにどうして息子は第二軍団長なんだろうな」


「さあ、そもそも第二軍自体がなんかよく分かんねえし」


「ちょっとあなたたち、なにお喋りしてるの!」


皺ひとつない軍服に身を包んだ同期の女性が資料の束を抱えて早足で歩いてきたので、青年たちは気まずそうに苦笑した。こういう時に貰う小言が簡単に予想できた。


「ちょっと聴こえてきたわよ、仕事中にそういう話をしないで。聞かれた人によっては問題の種になったりするんだから!」


「はぁい、すんませんでした。じゃあ俺はこれで」


「あっ逃げた……俺ももうしません」


「分かればよし。で、狙撃銃の分解図は誰が持ってたの?」


「ああ、俺が持ってるよ。開発班に返すついでにちょっと質問しに行こうと思っててさ」


「あらそう、それじゃあ私も一緒にいいかしら。銃剣について訊きたいことがあったし」


青年は頭が下がらない様子で、背中を丸めてへこへこと女性の後ろを着いていった。真面目で班のまとめ役を担う彼女にはどうしても弱い。


「あ、そうだ。もしかして君なら知ってる? 第二軍がどういう立ち位置と役割なのか、俺はよく知らなくて」


「さあ、私もそれは詳しくないの。第二とは言っても第一より劣るわけじゃなくて、まったく違う役割らしいけど」


「だから第二の人たちは訓練場にもほとんどいないのかな」


「どうでしょうね。ああでも、前にサイラス軍団長が仰ってたわ。戦争の要になるのは第二軍だって」


「戦争……」


青年は渋い顔で反芻した。その単語自体に良い印象がまったくない。軍人である以上無縁ではないものの、彼はどちらかと言えば自国の安全保障だとか、治安維持だとか、善良な国民の穏やかな生活のために働くことを望んでいた。


「嫌がってられないわよ」


「えっ?」


「えっ、じゃないでしょ。プラヴィアルは霊薬があるから標的になりにくかったの。軍事においては聖火の鏡を所有するセトエルドと、防衛に関しては大地の盾を所有するウィルディドがいつだって最強なの。現時点で火種はないとはいえ、軍事力についてはその2カ国より下だと断言できるわ」


「そうか、そうだよな……けど現時点ではなさそうなんだよな」


「そうね。それに疾風の賢杖を所有するフォロアリカと軍事同盟を結んでいるわけだし、あそこを敵に回したい国はないでしょ。だからと言って安泰ってわけじゃあなくて、霊薬がない今、フォロアリカと対等であるためにはプラヴィアルはやっぱり資源大国であるしかないの」


「まあ、やっぱり戦争は起きないだろうし、そこは安心だよな」


「本当に呑気ね。政治は戦争みたいなものよ」


この世には4つの大国がある。農業大国のセトエルド、人口大国であり安寧の楽園と言われるウィルディド、経済大国のフォロアリカ、資源大国のプラヴィアルだ。それぞれが精霊具を有しており、現在はプラヴィアルを除く3ヶ国がその恩恵を大きく受けている。


プラヴィアルは広大な土地を有し、3ヶ国より人口密度が低い分魔物の発生数が多いものの、その生態が豊かな資源をもたらしている面もある。白金階級の魔物が増えてからは採取量が落ち込んでいたものの、最近は王室より精霊具の名を与えられた2つのキャラバンの活躍によって回復が期待されている。


今後のアリグレットは森林資源が期待できる。そしてまだファウストたちの耳には届いていないが、ヴァプトンの氷大蛇を解体した結果、内臓から貴重な鉱物が大量に採取された。氷大蛇の体内で代謝される過程で極めて純度が高くなったそれらは、現金に換算すれば領地を盛り立てるほどだ。


「というかちょっと、勉強不足が過ぎるんじゃない?」


「仰る通りです」


まあ恐らく自分は平和ボケをしているんだろうと、青年は素直に自身の無知を認めた。実の所自分と家族の生活を守れればそれで充分満足できる彼は、向上心に溢れる彼女の背中を追い越そうとは決して思わなかった。現実的に戦争が起こる可能性も極めて低く、彼の興味は専ら憧れのワルター・ローランドであった。

超久々の更新!

最近は専らバイオリンの発表会に向けての練習ばっかりだったこともあり、今回は特に更新が遅れてしまいました。ここから気を取り直して書いていきたいところ。


氷大蛇の内臓から鉱物がとれたっていうの、人間も鉄分取り過ぎると肝臓にくっ付いたりするのでそんなイメージです。つまり氷大蛇は主に鉱物をムシャァしてたわけですね!

ちなみに肝臓に鉄が蓄積すると肝細胞が傷害されたりして、肝がんのリスクが高まります。特別偏った食生活をしていなければ過剰摂取になることはほとんどないとは思います。ちなみにC型肝炎患者は鉄が蓄積されやすくなります。

ですが本来健康なのに、アスリート育成の過程だったか、強豪校の監督だったか、選手に鉄剤を必要以上に摂取させて健康傷害が出たという話も聞いたことがありますね。

皆さんサプリに頼るよりなるべく色んな食材をバランス良く食べましょうね!

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