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強制指令

「ルクフェル・シュバリィとカサネ・シキを含む15名の協力を要求する」


「マ?」


「マ、だよ」


「え、つら」


ルクフェルの言葉を正確に聞き取ったカサネは、いつも通りの砕けた口調で場の緊張感に不相応な反応をした。ルクフェルは若干の安堵を交えた複雑そうな顔でカサネを見やり、続きを述べた。


「レストニア領西地域の方に象のような亀のような超大型の魔物が居座っているんだが、最近移動が確認されたらしい。ちなみに大地の盾は70名要求されていて、合同で討伐にあたることになる」


「70とかやば、え、やばない?」


「カサネ、ちょっと静かに」


先程から緊張感が壊されっぱなしだ、ルクフェルは指令書をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げ入れたくなった。ルクフェル自身も元々厳格な性質ではないのだ。


「そんなわけだ! 残り13名を集めなくてはならないんだが、正直誰も連れていきたくない! ついでに俺も行きたくない!」


「めちゃんこ正直マジでそれ!」


「もうダメだ、全員で脱退しよう! 聖火の鏡は今日で終わりだ!」


「うぇーい!」


「ルクフェルさん落ち着いて! カサネちゃんも!」


事務員のみならず代表者まで飛び出して、指令書をしわくちゃに握りしめるルクフェルを宥めた。


白金階級の仕事は、いずれも討伐にあたったパーティ複数が全滅した記録がある。詰まる所無謀な仕事で、本気で達成できると考えている者などいない。自ら赴く者がいるとすれば自殺志願者くらいだ。


「申し訳ないが、こちらで団員を指定してパーティを組ませてもらうことになる。射手など射程距離のある者と、彼らを魔物たちから守れる団員で構成することになるだろう。連携を高めるため、支部ではなくこの本部から残り13人を用意することになる。未来ある若者のために、なるべく年齢が上の者から選んでいこうと思う」


ルクフェルの射手という発言で、アルヴィンははっとエルヴィスを振り返った。56名の冒険者のうち、26名が弓矢やボウガンを使用している。年齢が上の者からとは言っても、エルヴィスが指名される可能性はある。


「ねえアルヴィン、僕ちょっと気になるんだけど」


「なにがだ、もしかしたらお前も選ばれるかもしれないんだぞ。くだらないこと言ってる場合じゃないからな」


「いやね、アルヴィンってさ、飛び道具使ってることになってなかったっけ?」


「……あっ」


適当に吐いた嘘だ、アルヴィン自身もすっかり忘れていた。となれば自分も選ばれる可能性があるのではと考えたアルヴィンだったが、エルヴィスは軽く笑って否定した。


「ま、安心しなよ。アルヴィンは選ばれないよ」


「なんで言い切れるんだ」


「アルヴィンの武器は秘密ってことになってるでしょ。詳細も分からない、剣も素人の君を選ぶ理由がないからだよ」


的確なその言葉が妙に辛辣なように思えて、なにか言い返そうとしたアルヴィンだったが、珍しくエルヴィスの表情が固いことに気が付いた。さすがに緊張しているらしい。


「白金階級ってさ、パーティがいくつも壊滅したわけだよね」


「まあ、そう聞いたけど」


「みんな死んじゃうのかな。カサネさんも、ルクフェルさんも」


「やめろよ」


「まあ、無理もないよね。普通超大型の魔物に勝てるわけもないし」


「やめろって」


「そうだね、やめるよ。こんなこと言ってたって仕方ないしね」


アルヴィンに言われて一度口を閉じたエルヴィスは、右腕をすっと挙げた。場の全員の注目を集めたエルヴィスは、それに動じることもなくルクフェルを見据えた。


「僕行きまーす」


ルクフェルが驚愕の表情で息を詰めた。単騎で戦えない者はなるべく残していこうだとか、とにかく少しでも生存者を増やすことばかり考えていたので、つい動揺した。まさか自分から名乗り出る者がいるなど考えもしなかった。


「なに言ってんだお前!」


ルクフェルが口を開くより先に、アルヴィンがその腕を下ろさせようとした。しかしエルヴィスはならばと反対の手を挙げた。どうしても行くつもりらしい。


「ほら、射手が必要ならどうせ選ばれるかもしれないし。僕が行くことで他の1人が死ななくて済むでしょ」


「ふざけるなよ、代わりにお前が死んでなんになるって言うんだ」


「エルヴィス、彼の言う通りだ。君はまだ若い、命を捨てるようなことをするんじゃない」


「僕は捨てるつもりで名乗り出たわけじゃないよ、おじ……ルクフェルさん」


「今おじさんって言いかけた?」


カサネが吹き出して、釣られて他数名もくすくすと笑い出した。深刻さや怒りや笑い声が入り混じった室内。混沌だ。


ルクフェルがわざとらしく咳き込んだことで、空間は沈黙を取り戻した。


「僕、索敵が得意なんだ。どれくらい先に何体くらいいるかまで分かる。僕を連れて行けば、生存率がぐっと上がると思わない?」


「それは非常に魅力的だ。だが索敵ができたところで、それを倒せるだけの戦力がなくては意味がない。君は弓の扱いが上手いとは聞いているけども、単騎でもある程度対処できなくてはね」


「じゃあ、対処できるなら問題ないわけだよね」


「えっ?」


ルクフェルがエルヴィスに説得されかかっている、そう思ったアルヴィンは慌てて打開策を考え始めた。そうして考え付いたものは策と呼ぶには安直だが、アルヴィンはとにかく相棒の考えを改めさせたい、構わず声を張り上げた。


「お前が行くなら俺も行く!」


「え」


今度はエルヴィスが驚愕の表情でアルヴィンを振り返った。


「ちょちょちょ、待ってなんでアルヴィンも行くわけ? 君が行ってなんになる?」


「射手を魔物から守れる」


「前衛に関してはアルヴィンより長けてる人は沢山いるよ、命を捨てるようなことはするべきじゃない!」


「捨てるつもりなんかない、俺は本気で守れると思ってる! どうしても俺を行かせたくないならお前が辞退しろ!」


エルヴィスはそこでアルヴィンの意図に気付いて、わなわなと震わせた手をきつく握り締めた。アルヴィンは作戦が見事成功したことで、勝気な笑みを浮かべた。


「卑怯だ! 君がそんなことをするやつだなんて思わなかった!」


「なんとでも言え! お前こそ、遺される人のことを考えてないからああいうことが言えるんだ!」


「死ぬつもりで名乗り出てるわけじゃないよ!」


「どんなつもりだろうが人は死ぬ時は死ぬんだよ! さっさと撤回しろ!」


強制指令による悲壮な緊張感など最早どうでもいい、アルヴィンとエルヴィスは互いに掴みかかる勢いで睨み合った。それを見ていたルクフェルはどうしたものかと視線を右往左往させた。

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