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強者

カサネの後を着いてたどり着いた場所は自然荒地と言うだけあって、所々に岩が転がり足場が悪く、草木が乱雑に生え、住居地でないため整備されていないままだ。本来なら密林のようになっていてもおかしくないが土壌の性質上これ以上草木が成長しないらしい。


「よっし、やりますか」


カサネは槍に付けている鞘を外して岩の上に放り投げた。その槍はアルヴィンが知っているものとは多少違っていて両端に刃がある。地下通路で初めて見た時に石突きだと思っていた部分には刺突用の刃が装着してある。もう片方には薄い片刃が装着してあり、こちらは斬るためのものだ。


槍の柄は木製で細く片方の刃は薄い、強度があるようには見えない。さらにカサネは軽装で、脛当てや膝当て、胸当てや肘当てを着けてはいるが身を守れそうなものはそれだけだ。


改めて見るとやはり正気の沙汰ではないと、アルヴィンは今更冷や汗をかき始めた。


「えーと、アルヴィンだっけ。戦い方を見たいって言ってたっけ?」


「はい、お願いします」


「そんなアルヴィンくんにはとっておきの秘策を教えたげよう! 私が仕事の前にやることなんだけどね。まず気合を入れる!」


カサネは深呼吸して頬を叩き、軽く身体を伸ばした。真似をするよう言われてアルヴィンも横で頬を叩いた。


「で、次ね。頭ん中で言ってもいいんだけど、口に出した方が効果あるっぽいから」


「はい」


「私は強い!」


「え?」


「ほら、早く」


カサネが急かすので、アルヴィンも戸惑いながら繰り返した。なんだか気恥ずかしいが隣のカサネは気にする様子はなく、アルヴィンは彼女の強さを知るためだと自身を納得させながら倣った。


「私は必ず全ての敵を打ち倒す!」


「私は、必ず全ての敵を打ち倒す……」


「私は決して臆さない!」


「私は決して臆さない」


「よっし、良い感じ! やるよ!」


「えっ」


カサネは勢いよく草むらに向かって駆け出した。アルヴィンも慌てて剣を抜き、カサネの後を追いかける。


女性だというのに自分より脚の速いカサネを見失わないよう、アルヴィンは必死に走った。


「はいそこ!」


「ピギャッ」


岩狐(イワキツネ)の首を貫いて振り回し、襲い掛かろうとする小鬼に向かって放る。岩狐の下敷きになりもがく小鬼の頭を踏み潰し、そのまま前方に現れた水狼(ミロウ)の顎を蹴り上げ鼻先を貫いた。


「おっとぉ? あっはは、やば燃えるわー」


火狼が火を吹いたが、カサネは足元の岩を使い、テコの原理で槍に刺さったままの水狼を持ち上げた。盾にされて火が燃え移った水狼を振り回し、近くまで来ていた2匹の小鬼に叩き付ける。


間を置かずに大きな1歩で距離を詰められた火狼は、首を鮮やかに切られ血を吹き出しながら倒れた。小鬼たちは火が燃え移り悲鳴をあげたが、それもカサネが頭を踏み潰したことで途切れた。


アルヴィンは呆気にとられた。水狼と火狼はまだ痙攣していて絶命していないが、戦闘が始まって2分も経たない内に6体の魔物を戦闘不能に追い込んだ。カサネの速度は魔法を使うアルヴィンと同等かそれ以上だ。


「アールーヴィン、右来てるよー!」


アルヴィンははっとして、右から錆び付いたナイフを持って襲いかかってくる小鬼を蹴飛ばした。そのまま剣で斬り付けたが、小鬼が慌てて避けたので肩に傷を負わせただけだ。もう一撃でなんとか小鬼の首を貫いたが、今度は剣がなかなか抜けない。


アルヴィンは苛立ちに任せて横から襲いかかってくる他の小鬼を蹴り付けた。


「ああぁ腹立つなこいつ!」


力任せに引き抜いた刀身には血と肉の欠片が纏わりついている。先程の小鬼が立ち上がる前にと胸を踏み付け、その首に体重をかけて深々と剣を突き立てた。


アルヴィンがそうして2匹の小鬼を倒す間に、カサネはまた5匹の魔物を葬っていた。相変わらず涼しげな顔で辺りを見渡したカサネは、刃に付いた血を生えている草で拭った。


「アルヴィン、ここでちょっとストップ」


「推定50匹ですよね? まだ全然だと思うんですが」


「え、なんて?」


「まだ、全部、倒してない、ですよね」


「あー……ごめん、よく分かんない。んっとね、とりあえず魔物が集まってんのはあっちの方っぽいわ。多分ボスもいるからとりあえず全部叩こっか。怪我しない程度に頑張って着いてきてねー」


カサネは再び駆け出し、アルヴィンはその後ろを追いかけた。


アルヴィンが魔物を倒しながら進むカサネを見て気付いたのは、カサネが決して彼女自身のペースを崩さないということだ。そしてそのペースがとんでもなく速いのだ。


カサネは急に魔物が飛び出しても動じず、的確に急所を仕留めている。貫けるなら貫き、そうでなければ太い血管のある場所を切り裂いている。いつどこで魔物がやってくるのか分かっているようにすら思える。


「ほらほら、いたよ。んー、青鬼かあ」


カサネの姿勢の先には、大男ほどの体躯を持つ青鬼が怒り心頭といった様子で腕を振り上げていた。


青鬼の咆哮と共に魔物たちが一斉にカサネに襲いかかる。アルヴィンはぎょっとして思わず目を見開いた。


「見てなよアルヴィン!」


近くまで駆けてきた水狼の顎を蹴り上げた後、踵で地面に叩き付ける。振り回して勢いのついた槍で小鬼や岩狐の顔面を殴り、目を押さえて泣き喚く小鬼たちの額を刺していく。


「基本は急所を狙って一撃で仕留めること! 囲まれてたり無理な時は大声出したりぶん殴って怯ませる! 小鬼なら目、狼や狐なら鼻、目が一番間違いないね!」


カサネは説明しながら倒していくが、いかんせんアルヴィンは着いていけていない。魔物が多くよく見えないのだが、きっとよく見えていても速過ぎて着いていけないことが想像できた。


アルヴィンはとりあえず目の前でカサネに向かって走り出そうとしている小鬼を倒すことにした。先程カサネが言った、一撃で仕留めることを意識して剣を持つ。武器を掴まれないよう素早く、敵が反応できないように、急所を的確に。


アルヴィンは一度剣を引いて小鬼の背中を蹴り付けた。


「フギャッ」


「よっ、と」


そのまま転んだ小鬼の背中を踏み付け動きを封じ、首の横を深く切るように剣で突いた。それだけで小鬼は絶命した。


武具を使って魔物を殺したのは今日が久しぶりで、アルヴィンはそこでようやく思い出した。ああそうか、丁寧に戦う必要などないのだ、殺すにはこれで事足りるのだ、と。ついでに剣を深々と突き刺して抜くのに苦戦する必要もなかった。


カサネは動きを封じた上で一撃で仕留めていた。目や鼻を殴ったり蹴り付けたり、他の魔物の下敷きにしたりと手段は様々だが、魔物が動きを止めた一瞬で勝負を決めていた。さらにカサネは長物である槍をうまく使っていて、敵の身体の下に槍を差し込んでは簡単にひっくり返して地面に叩き付けてしまえるのだ。そうして一瞬でも腹や喉を晒した魔物はカサネの槍の餌食となる。


「そんでこいつちょっと硬いなあ、一撃じゃ無理み強いって時はー……面倒臭いから後で説明すんね!」


重い音と共に地面が揺れた。


アルヴィンが驚いて顔を上げると、青鬼が地面に倒れ伏し首から血を吹き出しているところだった。


「うわ……すっげえ」


振り返ったカサネが得意気にニヤリと笑った。


ボスを倒してしまえば簡単で、殱滅まで然程時間はかからなかった。アルヴィンは最後の1匹を仕留めて、そこで心臓がやけに強く脈打っていることに気付いた。


「おつー」


親指を立てているカサネを見て、アルヴィンはどっと力が抜けた。張り詰めていた集中が解けてつい笑ってしまった。


実は魔物の読み方って適当なんですよね。個人的にはシンプルに氷蜂→コオリバチ、新月蜘蛛→シンゲツグモみたいな感じでいいのかなと思うんですが、それもなんだか面白みがないかな。

ちなみに友人と話す時、火狼はファイアーオオカミって呼んでます。これだけはねえわ。

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