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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ジェネレーション Z

作者: 雪河馬
掲載日:2019/11/07

「パパ、これ・・・。」


幼児は小さな手の中の桜色の巻貝を差し出す。

俺は、その貝殻を受け取り、頭をやさしく撫でた。


「ありがとね、マサル。」


遠くで妻が手を振る。気がつけば夕陽が海の向こうに沈もうとしている。


廃工場の天窓から陽光が差し込み、俺は目を覚ました。

寝袋から身を起こし、用心深く外の様子を探る。ヤツラの姿は見えない。


「はよっす。主任。」


青年が隣の寝袋から眠そうな顔で這い出してくる。


「ショータ。もういいかげんその呼び方をやめないか・・・。もう。」


ショータは寝癖のついた挑発をボソボソと掻き上げて笑った。


「すまないっす。なかなか癖がぬけなくって。ヘヘヘ・・。」


バッグの中からタブレットを取り出し、モバイルネットワークに接続する。


「大丈夫そうですね。周囲1km四方にヤツラはいませんよ。」


旧世代の俺たちと違ってショータは器用にデジタルデバイスを使いこなす。

ヤツラと比較してもそう劣っているとも思えない。

何が、ショータをヤツラと分けたのか?


「こうみえて、僕ってアナログ大好き人間ですからねえ。」


そう笑ってショータはタブレットをしまい寝袋に潜り込む。


「充電しとかなくて大丈夫か?」

「まだ、残量65%あるし、大丈夫ですよ。今日はここでゆっくりしましょう。日曜日ですしね。」


そうか、今日は日曜日だったのか。そんなことも忘れてしまうくらい、俺は心の余裕を失っていた。


”Gen.Z”

生まれた時からスマホや高速インターネットが当たり前に存在した世代。

デジタルネイティブ世代のことを学者たちはZ世代(Gen.Z)と名付けた。

Gen.ZたちはSNSやオンラインゲーム を通して、国家を超えてつながっている。

東京の街で学生が呟いた言葉は瞬時に全世界に広がっていく。

その恐ろしさにもっと早く気づくべきだったのだ。


1ヶ月ほど前のことだった。

システムの納期が迫っていた俺とショータは会社に泊まり込んで最後のテストを実行していた。


「オーケーです。主任」

「なんとかクライアントへの納品が間に合いそうだな。あとは本番環境に移行して・・終わりだ。」

「いやあ、がんばっちゃいましたよ僕。それもこれも、あの変なパルスのせいですけど。」


ショータは、バッグの中から私物のタブレットを取り出し、ネットワークに接続した。

(本当は禁止事項なんだが・・・今日は目をつぶるか。)


眠気覚ましの缶コーヒーを飲みながら、俺はサーバーにアップロードしようとEnterキーを押した・・・。


”Error アップロードに失敗しました。”


おかしい。なんどやってもアップロードできない。こんなことは初めてだ。


「あっれ〜〜〜?なんだこりゃ??」


ショータは素っ頓狂な声をあげ、俺は彼の方を振り返った。

彼はタブレットの画面を凝視している。


「パルスのトレースしてたんすけどね、それがちょっとヤバイ感じっす。」


ショータはタブレットのディスプレイを俺の方に向ける。

そこにあったのはこの街の地図と、無数の赤と青のピン。

赤のピンが物凄い勢いで青のピンを侵食していく。


「これって、裏サイトにあるこの街のネットワークマップなんですわ。で、ですね。これみてください。」


そう言ってショータは親指と人差し指で地図を拡大した。


「これ、うちのビルなんですが、ほら、ほとんど赤のピンが立っちゃってるんですけど・・・。」

「この開発室だけ、青・・・・か。」

「あのとき、ポートを閉じたからですかねえ。」


妙なパルスが発生した時、ショータは物理ポートを閉鎖した。

もっとも原始的な方法、ルーターの電源を抜くという、とんでもない方法で。

そのためにテストは最初からやり直しとなったのだが。


「これ、新種のウイルスじゃないですかねえ。」


俺は笑った、


「なんでウイルスがパルスを発生させるんだ。まるで見つけてくださいと言っているようなもんじゃないか。」


俺はショータの肩をぽんっと叩いた。


その時は、なにが起きるか全く予測できなかった。

起きたことについて、今でも理解できているとは言えないし、信じられない。

まさか、コンピュータウイルスが人間に、それも特定の世代だけに感染するなんてありえない。


最初の事件は都内の高校で起きた。

生徒たちが職員室に神経ガスをまき、巻き添えになった生徒を含めて数十人の死者を出した。

有名進学校であったこともあり、「過度な受験競争の暴発」などとTVや新聞といったマスコミがセンセーショナルに報道されたのだが、不思議なことにSNSではほとんど無視されたのだ。

そして、第2、第3の事件が発生するに従い、大人たちはようやく起きていることの異常性に気付き始めたが、そのときにはすでに遅かった。


その騒動の主犯はGen.Zであり、捕まえてみると現実社会では全くつながりのない同士ということも多かった。

Gen.Z間で情報はすぐさま供給され、小学生すら優秀な暗殺者(アサシン)になる。最後の瞬間まで大人達を欺き、親たちは愛する子供に殺されていった。

わずか1ヶ月で大勢は決して、デジタル黎明期に育ち、彼らと会話する能力をもち、彼らの苦手な生産作業を受け持つY世代をのぞいて、旧世代の人類はほとんど姿を消し、わずかに山奥などに潜んで生きながらえていた。


逃亡生活が始まってまもなくのこと、俺はショータに言った。


「ショータ、俺のことはいいんだぞ。お前ならヤツラともうまくやっていけるだろ。」

俺がそう言うと、ショータは心底嫌そうな顔で返事をした。


「僕はいやっす。あんなゾンビどもの家来になるのは。主任と一緒にいると決めたんは自分の意思っすから。」


ゾンビか・・・・・。確かに俺たち旧世代からみると、ヤツラはZombieのようなものだ。

(Zはゾンビのゼットでもあるな・・・・。)


突然アラートが鳴り、飛び起きたショータは急いでタブレットを取り出し、歯軋りする。

「主任、すいません。やつらフィッシングを仕掛けていたみたいです。クソッ。」

俺は窓越しに外を見た。迂闊だった。やつらはネットで逆探知をかけたのだ。

周りはすっかり取り囲まれている。


轟音と共にショータのが痙攣を起こして倒れこんだ。血溜まりが広がる。

「ショータっ!!」

俺はショータのところに駆け寄り体を起こす。

心臓を撃ち抜かれている。即死だった。

狙撃者(スナイパー)は小柄な男、小学生か・・・・。

俺は憎しみの視線をそいつにむけ、絶句した。


「マサル・・・・・おまえか・・・・。」

こうなることは覚悟しておくべきだった。Gen.Zの間では情報は瞬時に共有される。


俺はよろよろと立ち上がった。自然と涙が流れ落ちる。

ショータを失った怒りと、最後にマサルに会えた喜びが心の中で拮抗する。

マサルの手にした89式自動小銃の銃口は俺の心臓を真っ直ぐに狙ったまま。

そして俺の右手のM360Jの銃口は地面を向いていた。


マサルの目からも大粒の涙がこぼれ落ちる。

ヤツラは集団ではあるが、個が存在しないわけではない。

でも、それは大海の一滴。

万一マサルが集団の意思に反して俺を撃てなかったら・・・・。

俺はここで死ぬべきなのだろう。愛する子供のために。

不思議と穏やかな気持ちになる。


「パパ、愛しているよ。パパがいなくなって寂しかったよ。」

「ああ、マサル。俺もだ。」


残されたわずかな時間で俺は考えた。

ひょっとしてパルスはウイルスなんかではなく

Gen.Zの集団意識が作り出した進化の過程だったのではないかと。

それなら・・・・。




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