#好きだった
「………………」
リコッタはしばらくふたりを見つめた後、振り返り、アルスの前に立った。
端正な顔をくしゃくしゃに歪ませ、目には大粒の涙をためて。いまにも泣きそうな赤ちゃんみたいな顔だった。
「人間やアナタの仲間を倒しても何とも思わなかった。でも、私の仲間を傷つけられたら許せない。けど、それはアナタも同じ。お互いに自己中だよね」
ジジジ、ビビビ……。
リコッタの感情の高まりとともに、周囲の空気がビリビリと振動する。
小さなエネルギーの粒が右腕に絡みつき始めた。
「いま、こんなことを言っている状況じゃないのはわかってる。でも……」
リコッタの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「アルス。アナタのこと、嫌いじゃなかった。ううん、好きだった。でも、生きる世界が違いすぎる」
「リコッタ……」
憂いを込めた切ない眼差しで、アルスがリコッタを見つめる。
エネルギーの粒は、みるみるうちに、リコッタの指先まで覆った。
「さよなら、アルス。次に生まれ変わったら、同じ世界で出会えるといいな」
そう言うと、アルスに向かって腕を振り上げて爆撃を飛ばした。
アルスは勇者の剣を正面に構えると、気合いとともに爆風をかき消して、素早く雷を呼び寄せた。
「……っ‼︎」
一瞬、戸惑った表情を浮かべた後、それを振り払うように頭を振り、リコッタに向かって雷撃を放った。
「僕も君のこと……、キライじゃなかった」
アルスは倒れているリコッタの側でヒザをつくと、そっとつぶやいた。
リコッタは力尽きる前に小さく微笑むと、唇と指をかすかに動かして、我に向かって黒紫の光を飛ばした。
光は我の腹で浸透するように溶けると、切り裂かれた傷口を修復した。
最後の力で回復呪文を唱えてくれたようだ。




